プロローグ
希望ヶ丘団地。
とある地方都市にある1000戸以上ある巨大なマンモス団地である。
もともとは、戦後引き揚げ者の向けの住宅であった。
それが希望もって戦後の困難を乗り越えようと言う事から「希望ヶ丘」という地名がついた。今では古い住宅は整備が進んで中高層の団地に変わり、今の広大な団地となった。
団地には"多様"な人間が住む。
身寄りのない高齢者や水商売の女性。それから外国人やカルト宗教の信者まで。
そこに住む少年
黒木カナメ
もその"多様"な住民の1人だ。
カナメには父親がいない。幼い時に父親は蒸発し、母親との2人暮らし。
他の家と比べて、あまり裕福ではないが、それなりに平穏な毎日を送っていた。
―――――――
「今日もだいぶ遅くなっちまったな…」
バイト先の居酒屋のシャッターを閉め、カナメはふとつぶやいた。
裕福じゃない黒木家は生活するにも一苦労。
こうやってバイトでもしないと彼には小遣いはない。
なので彼は、週5日は学校帰りのあと団地内にある居酒屋でバイトしている。
働いてる理由は簡単。
ただ近いから。
居酒屋には団地に住んでる"おっちゃん達"が毎日通い詰め、日々の生活の愚痴を言いあいクダを巻いている。
不満の吐け口としては、こういった施設は重要だ。
団地には、居酒屋の他にも日用品を売っている商店や病院など様々な店舗があり、団地は1つの町のようである。
「今日も疲れた―
しょうもない話し付きあってやってんだから、あのおっちゃん達もチップくらいよこせよ…」
店の鍵を閉め、ひとり愚痴をこぼした。
それにしても、また増えたな―
団地の壁はポスターだらけ
"希望はみんなの手の中、共に学び、信じ、幸福になりましょう"
幸せそうな家族団欒の写真に、いかにもなスローガン。
新興宗教"希望の学徒"のポスターが所狭しに貼ってある。
これだけ、大きな団地だから、寂しい人間も多い。
新興宗教に入信し、救いを求める人間がいても不思議じゃない。
「毎月、金くれんなら、俺も入ろうかな。」
入る気もないのに、なんとなく呟いてみた。
「明日も早いし、早く帰って寝よ」
その時…
ピンポンパンポーン…
ピンポンパンポーン…
んッ?こんな遅い時間に市内放送?なんだろ、、、
ピンポンパンポーン…
ピンポンパンポーン…
チャイムだけが繰り返され、
一向に内容が始まらない。
なんだろ?故障かな。
それにしてもこんな夜中に…
怖っ…
ピンポンパンポーン…
ピンポンパンポーン…ザザッ
ザザザザッザザザッ―…シテ
アナウンスが始まると思った瞬間ノイズが鳴り響いた
ザザザザッザザザザッ―
…カイシテ
ぐわん―
急に視界が歪みはじめる。
「あがッ―頭が―」
ノイズと共に、強烈な痛みが頭を襲う。
ザザザッザザザッザザザッ
カイシテ…
「うがッッ―な…だこれ…―」
カナメはあまりの痛みに耐えきれず、地面に倒れる
ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ――
倒れたカナメをよそに、容赦なくノイズは大きくなっていく…
ムリっ……はやく救急車…
あまりの激痛に、
ついにカナメは気を失った。
ワタシヲ……カイシテ…
意識がなくなる瞬間になにかが聞こえた。