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人は鏡の様なものだから  作者: 水下直英
『人は鏡の様なものだから』
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人は鏡の様なものだから


 桐橋きりはしが落ち着きを取り戻し、尾城おじょうが何が起きたか訊こうとしたが、六平ろくひらに後にするようさとされた。


「はい、じゃ、ちゃちゃっとあにぃの自己紹介、よろしく。」


「え、あ、はい、権藤杏ごんどうあんです、十六歳です。

 サッカーやってました。

 宜しくお願い致します。」


「えぇ~? あにぃぃ終わりぃ~?

 短いよぉ~、ほらぁ~、昨日みたいにぃ~、

 ママのしょうが焼き食べた~い、とかさぁ~」


「べりーさんっ!!」


権藤がキッとした表情で夜菅よすがにらみつけ黙らせる。


人を食ったような態度の夜菅だが、どうしようかな~という風に身体を揺らしたのち黙った。


一安心した様子の権藤は夜菅にチャチャを入れられたくないのか、自己紹介を続けた。


「私女だからってだけで馬鹿にされるのは許せないので一生懸命頑張ります。

 根性には自信あります、

 辛い仕事も出来ますのでドンドンお任せください!」


ハキハキと宣言する権藤に対して、尾城はテンションが下がっていくのを感じていた。


『あ、権藤さん、あにぃって空回りする委員長的な面倒くさいタイプだわ。

 やる気あり過ぎて周りから迷惑がられるやつ、

 うわー、どう接するべきかな。

 さっきまで部屋で泣いてたんだから

 仮に根性はあってもメンタルは弱いんじゃないの?

 んで桐橋くん、きりっちもなー。

 パッと見よりははるかにいい奴だってのはいいんだけどなー。

 ただ、暗いんだよなぁー。

 家庭環境も暗そうだったしすぐ自己嫌悪で落ち込むし。

 でも二人が悪いわけではないんだよなー。

 ただ俺とは合わなそうなだけで。

 俺的にはもっとノリが良くて、

 バカ話が出来るような面白い人が同い年なら良かったなー。』


考え込む尾城に六平が声を掛ける。




「尾城、どうした?


 二人とどう仲良くなるか考えてたのか?」


逆に仲良くなれなそうと考えていた尾城は曖昧に微笑み返す。


その微笑みをどう捉えたのか六平はうんうん頷きながら話を続ける。


「うらやましいな、同期が二人いて。

 俺はピロとトキコが同期みたいなもんだけど、

 ただ最初はめちゃくちゃぶつかってケンカしたんだよなぁ。」


「え?そうなんですか?」


「ああ、ピロはバカだしトキコは神経質だし、

 俺とは全然合わなかった。」


遠くを見る目で六平は話す、おそらく脳内では出会った頃の二人を思い出しているのだろう。


「どうやって仲良くなったんですか?」


「あの頃なー、叔父御に言ったんだよ、

 あんな奴らと仲良くなんかなれねぇって。

 したらさ叔父御は俺に言ったんだ、

 人を理解しようとするなら話し合うしかねぇぞ、って。

 トコトン話し合って、一緒に何かをして理解を深めて、

 それでも駄目なら完全に離れるか殺し合いしかぇ、って。」


「初代様って……結構エキセントリックだったんですね。」


「いやいや、ここで言いたいのはさ。

 コミュニケーションって意思を伝えあうのが大事、ってことよ。


 話し合いとかをおざなりにしてさ、

 何も言わなくても分かって欲しいとかは戯言ざれごとなわけさ。

 ちゃんと話してさ、一緒に行動して、

 何かを作り上げてさ、そうして理解を深めたうえで、

 何も言わなくても分かってくれる関係って出来ると思わねー?


 話し合う前になんとなくの印象で決めつけたりとかさ、

 他人からの話なんかで人のことを分かった気にはならない方がいい、

 叔父御は俺にそう教えてくれたんだ。」


いつのまにか桐橋と権藤も六平の話に耳を傾けていた、


桐橋などはウンウン頷いている。


自分を分かってもらうことも大事だが、相手をわかっていくことも大事なんだなと尾城も感心しきりだった、初代様すげー、と素直に思うことが出来た。



「でもさぁ~、

 今の話ってロクちゃんが意訳したのが大半でさぁ~、

 おぢごが言ったのってぇ、

 話してダメならぶっ殺せ、ってだけじゃなぁ~い?」


夜菅が水を差した、大量に。


「べりぃー、お前さー・・・」


叔父御大好きおじさんの六平はだいぶ気分を害してしまったようだ。


夜菅に対し反論しようとした六平だが、横の桐橋が先に口を開いた。


「あ、あの!

 そうっスよね、話し合うことって大事なことっスよね。

 勝手なイメージで悪い感情持ったままだと、

 相手も悪い感情持っちゃいますもんね。


 俺【人は鏡の様なものだから】って母親からいつも言われてたんス。

 だからまずは相手を尊重して、良い感情を持って接しなさいって。

 あの、そしたらきっと良い感情が返ってくるよって。

 憎しみ持ったまま相手を見たら、

 鏡の反射みたいに憎しみが返るから駄目だよって。」


目をキラキラさせた人相の悪い少年は周囲にピュアな気持ちを伝えようとしてるかのようだった。


尾城は今日出会ってから桐橋がこんな熱量で話すのを初めてみた気がした。


「おう、きりっち。

 いいおふくろさんだな。

 いいこと言うじゃねーか。」


「はい。ありがとうございます。」


六平の褒め言葉に嬉しそうに応える桐橋、どちらもいい笑顔をしている。


「な、尾城。お前もそう思わねー?」


六平が尾城に同意を求める。


尾城は少しだけ斜め上を見ながら考え込むように黙ったが、すぐに答え始めた。




「そうですね、いいお母さんだと思います。

 ただ【人は鏡の様なものだから】ってのは、

 俺も小学校の時担任の先生に言われた言葉でもありますね、

 意味は若干違ってましたけど。」


「ん?意味が違った?何が?」


六平は少し戸惑ったようだが訊かないわけにはいかなかった。


「はい、

 人は鏡に映った人が自分と同じ行動をしていると思っている。

 だけど本当はこちらが右手を挙げていても、

 向こうは左手を挙げているんだよ、って。

 良かれと思ってこちらが善意を向けても、

 向こうは真逆で返してくることもあるよ、って。

 鏡の中は左右が逆なんじゃなく、

 前後が逆だってことに気を付けろ、って。


 当時はあんま意味が分からなかったんですけど今は少し分かります。

 こちらの善意自体が向こう側には悪意に捉えられてしまいかねない、

 そんな危険性があるんだなって。」


「んんんんんんー?

 そ、そうか、うんうん。

 そういう考え方もあるかな、うん。

 あ、あ、あにぃはどう思う?どっち側に賛成する?」



六平は桐橋のピュアな考え方に同調してるようだが、

公平性を考えたのか、権藤にも問い掛けた。


「え、あ、はい。

 実は私も【人は鏡の様なものだから】って教わったことあります。」


「ん?へ、へぇー、そうなのか。

 どっちの意味だった?」


六平は一瞬不安げな表情を浮かべたが、

ここは訊かないわけにはいかなくなってしまった。


「あ、はい。

 どちらでもなかったです。


 伯母が言っていたんですが、

 鏡に映った自分の姿はその鏡によって変わる。

 歪んだ鏡に映る自分は歪む、

 鏡によっては自分を本来と違う姿にして他の鏡に映していく。

 自分というものをしっかり持たないと他人に自分を歪められるよ、

 正しく自分を映してくれる鏡を見付けなさい、

 友達は厳選しないといけないよって。


 それに人というのは価値観の鏡でもある、と。

 自分が他人に本気の悪口を言おうとした時、

 その悪口は本当は自分が言われたくない悪口だし、

 自分が他人を褒めようとする物差しの基準は、

 自分が大事に思っている価値観を映し出す、と。」




 権藤の意見のあと、みなしばらく沈黙していた。


それぞれ同じ言葉から教えを得てきたのだが、その意味するところは大きく違う。


しかもそのどれにも正当性が感じられる。


そうしていると六平が急に微笑みだした。


「おんやぁ~、どしたのロクちゃぁん?

 いまの三通りのお話ぃ~、解決したぁ~?」


「ふっ、いや全く解決はしてない。

 全部それぞれが【正しい】意見なんじゃないか?」


「えぇえぇ~、じゃあなんで笑ってんのぉ~?」


夜菅の問い掛けに六平はドヤ顔で答える。


「人の考えってのはホントに色々あるんだな!

 これは話し合わなきゃわからない!

 話し合ったから少しだけ理解は深まっただろ?

 叔父御の言葉は正しかったじゃないか!

 これからもドンドン話し合って分かり合っていこうぜ!」


「うゎ、暑苦しいぃ~。」


夜菅は顔をしかめたが若者三人は妙に納得した顔で頷き立ち上がった。


「そうスよね!すぐに答えなんて出ないスよね!」


「悩んでこそ人は成長しますよね!」


「つうか六平さん初代様大好き過ぎません?」


おっさんなのに根が明るいせいか六平は妙に若者に馴染む。


夜菅はそんな六平たちの様子をしばらくく眺めていたが、太陽の位置を確認


したあと権藤に声を掛けた。



「あにぃぃ、そろそろ訓練しよっかぁ~。

 長めにやるからぁ~、終わる頃暗くなっちゃうよぉ~?」


そんな夜菅の言葉に六平も焦る。


「え、あ、いまはー、午後二時ぐらいか。

 きりっち、おじょう、森で軽く木の実でも食おうぜ。」


「はい、え?仕事とかいいんスか?」


「お前らにはまだ仕事は割り振られてねーんだ、

 いろいろ手伝いながら決めっから。」


「わかりました。」


「まぁ、この世界に慣れるのが最初の仕事だな、さ、行くか。」


「はい!」


「じゃあまた後でな、べりー、あにぃ。」


「うん、りょぉかぁ~い。」「はい、お気をつけて。」


外へ向かって歩く三人を、夜菅は権藤と準備運動しながらずっと見送っていた。



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