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人は鏡の様なものだから  作者: 水下直英
『人は鏡の様なものだから』
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妖怪現る


 にこやかに声を掛けてきた方は二十歳過ぎぐらいに見える、服装は真っ黒に統一されていた。


もう一人は尾城おじょうと同年代か少しだけ上に見えた、無表情でこちらを見ている。


「おぅべりー、訓練か?」


地べたに座り込んだまま、六平ろくひらもにこやかに返す。


彼女が夜菅よすがいちごという人らしい。


名前とあだ名のインパクトが強いので良く覚えていた。


「そぉ~、

 あにぃぃの気持ちも落ち着いてきたからさぁ~。」


「あにぃ?

 誰だ? 権藤ごんどうさんのことか?」


夜菅の言葉に六平が疑念を呈す。


「そだよぉ~、

 杏って名前を~、欧米風にあだ名つけるとアニーらしくてぇ、

 和風にしてあにぃぃ。」


「お、おぉ。権藤さんはそれでいいの?」


「ゴンちゃんとかゴディよりはマシなので、

 ゴンドウって響きも元々好きじゃないんです。」


権藤が無表情に答える。


「ん、そうなんだ。

 じゃあアニーちゃんか。」


「ちがうよぉ~ロクちゃ~ん、

 あにぃだよ~、それかあにぃぃだよぉ~。」


「なんだよあにぃぃって!呼び辛ぇわ!」


「なんでぇ~? 梅宮辰夫を辰兄ぃぃ、って呼ぶみたいにぃ~、

 あにぃぃでいいんだよぉ~?」


「若い子は梅宮辰夫知らねーだろ!

 こいつら十六歳とかだぞ?」


おっさんとお姉さんの会話に桐橋きりはしがおずおずと割り込む。


「あの、俺梅宮辰夫知ってます。

 最近亡くなったんですが、バラエティ番組に良く出てました。」


「えぇ~、たっちゃん亡くなってたんだぁ~。ショックだぁ~。」


「桐橋くんは知ってんのかー、

 じゃあ尾城くんと……あにぃぃぃも知ってるかな?」


「六平さん、せめてあにぃでお願いします。

 伸ばすと馬鹿みたいに聞こえてしまうので。」


「はいはいそうだね、ごめんね。

 あにぃだね。

 うんうん、そう呼んでいいんだよね。」


「なぁにもぉ~ロクちゃぁ~ん。

 あにぃに緊張してるみたぁ~い。」


「いえ、六平さんは気を遣ってくれているんですよね。

 すみません、ご迷惑ばかりかけて。」


このやり取りを尾城は無言で聞きながら考えていた。


『権藤杏さんはクール系美少女って印象がガッチリハマるな!

 背も高めだしバッチリだ!

 夜菅いちごさんは不思議系おっとりび……人によるけど美人かな、

 少し不気味だけど。

 恋愛感情無くなったって聞いたけど美人の好みってのは残ってんだなー。

 考えてみると女友達って全然いなかったなー、

 仲良くなれるかなー?

 トキコさんとか夜菅さんとかお姉さま方とどんな話が出来るのかなー?

 エヘヘヘ!』



「あれぇ~?」


気が付くと妄想にふけりうつむく尾城の顔を夜菅が下から覗き込んでいた。


「あれあれぇ~?」


「な、なんですか?」


若干後ろめたい尾城はドギマギしながら問い掛ける。


気付けばみんなこちらを見ている。


「キミっていま何かエロいこと考えてるぅ~?」


「えぇぇ!? 考えてませんよ! 何言ってんですか!?

 そういうのもう無い筈ですよね? ね? ね?」


周り三人の反応も気にしながら尾城はあわあわと答える。


「今日来たばかりだからかなぁ~、

 感情の広がりが大きいまんまだねぇ~、おぢごみたぁ~い。」


夜菅の言葉に六平が我が意を得たり、とばかりにガバッと前傾姿勢になって話し始める。


「だよな! べりー! お前もそう思うか!

 俺もそう思ってたんだよ! 尾城は叔父御に似てるなって!

 顔は全然似てねぇけどなんか話し方とか言うことが似てんだよ!

 それでさ・・・」


「はいはいやめやめぇ~。

 もぅいぃよぉ~、ロクちゃんのおぢご話はぁ。

 あにぃぃが自己紹介もしてないでしょ?

 もぅ~、気遣うならちゃぁんと気遣ってよねぇ~。」


夜菅の指摘で六平は今度はがっくりと肩を落とし意気消沈する。


「だ、だよな、桐橋……は昨日したか、彼は尾城玄治くんだ。

 今朝こちらに来たばかりだ、あにぃと同い年、

 桐橋くんとも同じだな、葛飾出身だったかな?」


「そうですね、亀有です。」


「へぇ~、こち亀の両さんのとこだぁ~。」


「はい、実際は公園前派出所てのは存在しないんですけど、

 銅像とかはありますよ。」


「あ、あの、じゃあ南葛小学校とかは・・・」


権藤がおずおずと問い掛ける。


尾城はその様子にギャップ萌えを感じながら張り切って返答する。


「キャプテン翼の、だよね?

 南葛飾高校はあるけど小学校や中学校は無いんだ。

 でも葛飾区の南側にはいろんな場所にさ、

 翼とか若林とかロベルトの銅像が建ってるよ。」


「ふふ、ロベルトの?

 じゃあ若林くんの師匠の見上さんの銅像もあるの?」


「いやいやー、そんなグラサンおじさんの銅像は無いってー。

 メインの五、六人とアネゴだけ。」


「あのぉ~、

 そぉいうローカル地元話はぁ、あとでじぃっくり話せばいぃと思うなぁ~。」


止まらない尾城と権藤のキャプ翼話を夜菅が止めに入る。


「ま、昼間はやるべきことがあるからな。

 夜はホント暇で話すことしかすることないから。

 夜にいろいろ話せばいいぞ。

 みんな新しい話題に飢えてるから今年の三人には期待してる。」


六平の言葉に続けて夜菅が片手を振りつつ話し始めた。


「んじゃぁ~、アタシの自己紹介ねぇ~、

 夜菅いちごだよぉ~。

 みんなべりーって呼ぶのぉ~。

 離れでぇ食べ物とかぁ道具とかぁ~、いろいろ作ってるよぉ~。」


「べりーは話し方は馬鹿みたいだけど結構頭いいんだぞ。

 いろいろ開発してるしな。」


「ロクちゃぁん?

 まぁたアタシの喋り方ぁ、馬鹿みたぁいって言ったなぁ~?」


「ん? お、いや、

 実際馬鹿っぽいよな? な? な?」


六平は他三人に同意を求めるが、三人とも明後日の方向を向いたまま黙っている。


そんな三人それぞれの顔を覗き込むように身体を揺らしながら、夜菅が楽しげに話す。


「あらあらぁ~、 ビックリしちゃったぁ~。

 三人ともぉ~、アタシを馬鹿っぽぉ~いって思ってたんだぁ~。

 ロクちゃんは前からぁ~そぉんな態度だったけどぉ~。

 こぉんな若い子からもかぁ~。

 アタシショックだぁ~、べりーショックだぁ~、うぷぷぅ~」


自分の言葉にクフクフ笑いながら、夜菅は身体を不気味に揺らし、逆時計回りに回し続ける。


「おーい、べりーは神通力で心を読むぞー。

 思考を強くするなー、心を鎮めるんだー。

 これも訓練になるぞー。

 妖怪が出たと思えー、妖怪【語尾伸ごびのばし】だー、

 心を無にしろー。」


何故か棒読みの六平の言葉に三人とも身体を震わせる。


「グフッ、語尾伸ばし、ググッ。」


「クフィィ、妖怪・・・」


「フヒャ! 語尾ネバ! グフゥ!」


三人の様子を夜菅は静かな表情で、六平はあらら~という心配げな表情で見つめていた。


「あれあれぇ~、きりっちが一番ヒドいよぉ~。

 アタシそんな妖怪みたいぃ~?

 語尾ねばねばオバさんってぇ~、アタシのことだよねぇ~?

 コレはメチャ許せないよねぇ~。」


「いや、ブフッ、すんません、

 違うんス、あのそれあグェッ!」


突然桐橋が意識を失い、胡坐の状態から横倒れに昏倒した。


驚く二人、慌てて近づく六平。


六平は桐橋を仰向けにして体勢を安定させ整えている。


夜菅は澄ました顔でそれを見ている。


「おい! べりー! 気絶させるのはやり過ぎだろ!」


「だってぇ~、

 きりっちひどぉいこと考えてたからぁ~、

 おばさん扱いはぁ~、極刑だよぉ~?

 たわーぶりっじしてぇ~、

 モキモキいわしちゃぉぅかなぁ~?」


「もう年とかいいじゃねーか気にしなくたってさー!

 女はこれだから怖ぇーわー!」


六平の抗議もどこ吹く風といった様子でしれっとしたままの夜菅。


事態を呑み込めない尾城と権藤は怯えた表情のまま、桐橋と夜菅を交互に見詰めている。


「うふふぅ~、

 キミたちぃ~、ちゃぁんと覚えておいてねぇ~。

 妖怪じゃないよぉ~。

 そいでぇ~、

 アタシぃ~、まだおばさんなんて年じゃないからねぇ~、

 わかったよねぇ~?」


夜菅の言葉に尾城と権藤はガクガクと首を振り、わかりましたわかりましたと何度も繰り返した。


すると夜菅はまたさっきと同じ様に桐橋の顔を覗き込んだ。


ふらふらと夜菅の身体が数回揺れた後、桐橋は目覚めた。


「あれ? 俺? 何して・・・」


「きりっちぃ? ちゃぁんと目ぇ覚めたぁ~?」


「ぅわあぁ! べりーさん!

 すんません! 俺もう言いません!

 マジっす! マジです!」


目を大きく見開き夜菅に謝罪し始める桐橋。


尾城と権藤はまたもや恐怖で固まり、もう何も言えないでいた。



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