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人は鏡の様なものだから  作者: 水下直英
『人は鏡の様なものだから』
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訓練場での実感


 訓練場に向け歩く道中、にこやかに話す六平を見ながら、尾城は『これが日本なら正気を疑われる話だなぁ』と考えていた。


いまだに心の中で『ドッキリか夢であってくれ』という思いは消えていない。


この世界に来てから二時間か三時間ぐらい経っただろうか、頭ではまだ信じ切れてないところがある。


しかし徐々にこれは現実なのだと身体は分かってきている気がする。


いま、二人の後を付いて歩きながら、尾城は自分の身体に力が湧いてくるのを感じていた。


『なんか、感覚が? なんだこれは? これが神通力?』


身体全体、皮膚の外側に薄く何かが張付いているような、しかしそれは不快ではなく、意識すると形を変えられそうな、神経が通っているような感覚。


自由自在に身体を動かせそうな、そんな万能感が身体に満ちてきている気がしていた。


やがて歩く先に塀で囲まれた広い空間が見えてきた、ここが訓練場なのだろう。




 丸太が埋め込まれていたり、縄が何本か綱渡りが出来るような形で結ばれていたりしている。


しかし一番目を引くのは丸太を組んで作成された小山の様な建造物だ。


「ここが訓練場だ、

 神通力は毎日最低一回十分ぐらいは全力全開で使うように。

 ウンコしないとかは副作用的なものだからな。

 使用するとかそういうんじゃないので注意だぞ。

 まぁでもさ、大体全力でウンコしないようにするなんて出来ないよな。」


「ウフェッ、六平さん何言ってんスか。」


桐橋が笑いをこらえ切れず吹き出している。


その横で尾城は困惑した様子になり疑問を口にした。


「六平さん、俺この浴衣みたいな恰好で訓練するんですか?」


尾城は着ている浴衣の袖を掴み広げ六平に見せる。


「お、そうか。尾城くんまだそのカッコだったか。

 あの~、あそこ、すみっこに小さな小屋見えるよな、

 あそこにも確か服あるから。

 あそこで着替えと簡単な説明しよう。」


先程の万能感はどこへやら、逆に脱力感を感じながら、まだ笑う桐橋を横に尾城は小屋へ向かう。


三人で小屋に入り尾城は着替えを済ませた。


Tシャツの様な上着とヒモで縛るタイプの七分丈ズボン、下着のパンツは見当たらない。


「あの、パンツは無いんですか?」


「ウンコも小便もしないのに要る?」


六平の言葉に尾城は虚を衝かれた。


「え? うーん、要らないんですかね?」


「みんな履いてないな。

 あ、ムゾウの人たちはふんどしみたいなのしてるよ。」


「え!? 女の人パンツ履いてないんですか!?」


尾城の脳内で破廉恥な想像が浮かんではすぐ消えた。


「あぁ、履いてない。なに尾城くん、気になる?」


「そりゃそうでしょ、

 だってスカートみたいなの履いてる人いましたよ?

 それだと・・・」


話していて尾城は自らに違和感を感じていた。


話しながらも脳内では下着を付けていない女性がちらついている。


しかしそれに対しての感覚感情が、以前とは何か絶対的に違うと感じていた。


「あの……それだと……、


 エロいんじゃないか……あれ?」


「尾城くん、

 俺らもこの世界に来た最初辺りはキミと同じ感覚があった。

 いまキミが感じているのは性的欲求の喪失に対する違和感だ。」


「エロいとかをわからなくなるってことですか?」


「理屈としては分かる、

 感覚としては分からないってとこかな。

 下着泥棒に共感する人しない人がいるけど、

 しない人の方の感覚。」


「あ~、確かに。分かる気がします。

 元の俺も共感できませんでした。

 俺自身は布触って何が楽しいの、って思うけど

 興奮する人はするんだろうな的な。」


「そんな感じだな、

 で、今まで興奮出来ていた性的嗜好が消えてしまったことによって、

 性的なものは全てその興奮しない方の感覚になってしまっているわけだ。

 あと性的欲求の他に恋愛感情も喪失してるから。」


「え!? マジすか!?」


桐橋が今日イチの大きいリアクションを取ったことに、尾城より六平が大きく身じろぎして驚いた。


「どした? 桐橋くん、日本に彼女とかいた?

 それともここ来てからなんか恋愛感情感じたことあった?」


「あの、いや……何でもないッス。」


「ん、あー……そっか。」


六平に無理矢理訊く気は無いようで追及はしなかった。


「でも、俺ら側には性的欲求が無いとして、

 一緒に住んでるムゾウの人たちはどうなんですか?

 女の人の前でポロリとかしたらまずいんじゃ?」


「基本いい人ばっかりだから大丈夫だよ。

 たまに少し困るみたいだけど。」


「困ってんじゃないですか!」


尾城は先程からの六平との会話の中で六平のルーズさに気付きだしていた。


神通力が使えるようになっても性格的なものは変わってないのだろうと思われた。


「尾城くん、

 六平さんも神様じゃねーんだから何でもは答えられねーって。

 さ、訓練しようぜ?」


桐橋が訓練道具と思われる紐と棒を手にして尾城を宥める。


「え、あ、うん。あ、六平さんすいません。

 怒ってるとかじゃないんです。」


「いやいや大丈夫、ツッコミみたいな感じだったし。

 尾城くんノリがいいんじゃないか?」


「あ……、

 すんません。

 俺ノリ悪ぃって……いつも言われてて・・・」


急にうつむき申し訳なさそうにする桐橋に気付き、六平と尾城は慌てる。


「いやいやいや、桐橋くんはいい子だって分かってるから!

 さっきも俺らをフォローしたんだろ!?

 大丈夫だからさ! な! な!」


「そうそう、訓練しましょうか!?

 な、なにからすればいいんですか?」


桐橋も大丈夫そうに見えてまだ地に足がついてない精神状態なのかもしれない。


素のテンションが低く見えるので分かり辛いが、いまは確実に落ち込んでいるだろう。


尾城の方が事態の急激な変化に理解が追い付いておらず、まだテンションを高く保てている。



 ともかく三人は訓練を始め、尾城的にはただの体力訓練に感じられる運動をこなしていった。


走る速さやジャンプ力は櫛灘が言っていたように凄いもので自分でも驚いた。


離れた場所で六平が手を叩いた音が聞こえるかなどの実験的なこともした。


たぶん以前よりはるかに五感が鋭くなっているように感じられる。


反射神経も良くなっているようで、桐橋が鞭の様に振った紐の先を掴めた時は六平も驚いていた。


フリスビーの様なこともしたが、これは人間離れした六平の速さに尾城が驚かされた。


六平指導のもと、柔道の様な空手の様な格闘訓練もしたが、初歩の受け身や型の動きだけだった。


土の上での受け身の練習は痛くはなかったが、自分の体重が増加している実感はさせられた。


失敗して身体が地面に叩きつけられる音がドスンと響くのだ。


先程の会議室での櫛灘の発言にて、体重が増えたと言っていたのはコレかと納得した。



『デブになったって意味じゃなかったんだな、つうかなんで体重増えてんだ?』


新たな疑問が増えたが、いまは受け身を真面目にしないと怪我をしそうなので思考を控えた。


結局丸太を使わないまま訓練終了が六平から告げられる。


六平に丸太のことを訊いてみたが、いずれ使うとのことだけだった。


尾城より桐橋の方が疲れているようで桐橋は若干悔しそうだった。



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