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人は鏡の様なものだから  作者: 水下直英
『人は鏡の様なものだから』
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新生活の始まり


 尾城の発言で急にその場が静かになる。


『ああ、やはり無理なんだな』と理解するのに十分な雰囲気だった。


「それは……な、今のところ戻る方法は分かっていない、としか言えない。

 三十年前にこの世界に初めて来たとされる【初代様】、

 【田中一たなかはじめ】って人も戻ろうとした。

 いろいろ調べ、試したけれど成果は出ず、去年の春に流行り病で亡くなった。

 でも来ることが出来るのだから行くことも出来るはずだ、

 と初代様は、【叔父御おじご】は信じてたよ。」


「そう……なんですか。

 三十年も前から続いてるんですか、この状況は。」


「ああ、だいたい毎年一人づつ、

 六月に一人あの森の手前辺りがピカっと光って出てくる。

 それが俺たちだったわけだ。

 だが今年は尾城くん、キミで三人目だ。」


「え?」


「昨日は権藤杏ごんどうあんさんという女性、

 一昨日は桐橋蓮きりはしれんくんという男性がこの世界に来た、

 二人ともキミと同じ歳だな。

 にしても三人連続は【異例】なんだ、正直驚いてる。」


「……そうなんですか。」


「尾城くんは比較的落ち着いてるが、皆最初は動揺する。

 特に権藤さんが日本に戻りたがってね、泣いているよ、今も。

 離れの静かな部屋で休んでもらっているけど、

 だいぶ落ち込んでるんだ、可哀想に。」


「俺も……いまショックではあります。

 家族にもう会えないんだな、とか。

 もっと親孝行とかばぁちゃん孝行しとけばよかったな、

 とか考えてしまいます。」


「ん、そうか……そうだな。」


「いま、色々な情報で少し混乱してます。

 人間じゃないとか、日本じゃないとか。

 この世界は【戦争】があるんだな、とか。」


「っ!」


「でも生きていきたいです、心からそれは思います。

 死にたいと思うまでは生きていたい。

 さっき外で畑とか田んぼを見ました、

 アレって皆さんでやってるんですよね?

 俺にもできるでしょうか?

 元の世界に戻れるかこの世界で生きてけるかとかわかりませんが、

 殺し合いとかは本当は本当にしたくない、したくないですが、

 俺は……生きていく意味をみつけたいです!

 このまま何もわからないで死ぬのは納得できない!」


周囲は沈黙したままだ。


支離滅裂だが、感情のこもった若者の言葉に聞き入っている。


そんな中、六平が静かに話し始める。



「尾城くん、俺も二十二年前にこの世界にやってきた、

 高校二年生、おないい年だけどキミよりずっと青臭いガキだった。」


六平は昔のことを思い出すように上を見上げたのち、視線を戻した。


「さっき話したさ、叔父御、田中一って人は尊敬できる人だった、

 何にでも反抗する俺にトコトン付き合ってくれたんだ。

 わかんねぇって言うと分かるまで説明してくれて、

 できねぇって言うと出来るまで一緒にいて見守ってくれた。

 もちろん俺以外にもみんな世話になった。」


六平の隣に座る櫛灘くしなだが憂いた表情で頷いている。


「でも俺が一番世話になったんじゃねぇかな、って思ってる。

 ある日さ、叔父御は言ったんだよ、

 『ロク、納得できねぇことはするな』ってさ。

 結構何回も聞いた言葉だからな、ずっとおぼえてんだ。」


ここで逆側に座るトキコも想い出に浸る表情を見せる。


それ以外も周囲を窺ってみれば皆悲しそうで、それでいて懐かしさを覚えたような表情で六平の話を聴いていた。


「『納得出来ねーことを無理矢理呑み込んで生きていても人間が壊れちまう』

 ってな、そう言ってた。

 自分の生き方に納得が出来るようになれば、

 それは【生きてく意味】があるってことだ、って。」


ここで六平は一旦右手をアゴに添え目を閉じる、しばらく何か考えるそぶりをして、やがて手をおろした。


「さっきの尾城くんにな、叔父御と近いものを感じて本気で驚いた。

 ここに来てもらった本題はさ、

 尾城くんに【共同生活】のお願いをするはずだったんだ。

 いや、逆に言われるとは思わなかった。

 ……一緒にやっていこう尾城くん、どうだ?」


六平は尾城に近付き右手を差し出す、それを尾城ががっちりと握り返した、自然と拍手が起こっていく。


二人の様子に緊張感が漂っていた周りの空気もだいぶ弛緩したものに変わる。





 それぞれ昔の想い出話や、これからする仕事の内容などを話し合いながら部屋を出ていく。


中には尾城に挨拶の言葉を投げ掛けながら出ていく者もいる。


平和な展開に尾城もほっとした心地になり六平の近くの椅子に座り直した。



 ふと六平が周囲のうち一人の男を手招きした。


「尾城くん、彼が桐橋蓮くんだ。

 一昨日この世界に来た子だよ。」


近付いてきた男は聞いた通り、少年ぽさが残る年齢のように見えた。


がしかし、だいぶキツイ顔立ちをしていた。


尾城から見ると凄くヤンキーっぽい顔をしている。


尾城は少しぼんやりした顔、良く言えば親しみ易い顔立ちをしている。


それに対し桐橋は良く言えばクールでキリッとした顔、悪く言えばマフィアにいそうな顔。


「尾城です、よろしくお願いします。」


内心完全にビビり倒している尾城は敬語で挨拶した。


「あ、桐橋です、こちらこそよろしくです。」


意外と丁寧にヤンキー顔が返してきた。




「二人は同い年だし仲良くなれば生活がぐっと楽しくなるぞ。

 出来ればいま落ち込んでる権藤さんが立ち直ったらさ、

 彼女とも仲良くしてほしい。

 まぁ無理に仲よくしろとは言わない。

 叔父御もよくそう言ってたしな。」


「叔父御って、田中さんで初代様のことスよね?」


「あぁそうそう。わりぃね呼び方いろいろで。

 田中さんのこと俺ら里の男連中は叔父御って呼ぶのが普通だから。

 んで【ムゾウ】の人たちは初代様って呼ぶんだよ。

 ちなみに初代リーダーって意味じゃなくて

 この世界にやってきた初代って意味らしい。

 だから次の年の人が二代様で俺は九代ぐらいかな?

 まぁ一年に二人来ることがあったから、そこらへんはまぁ有耶無耶だな。

 叔父御が初代てのは確定してるからそう呼ばれてる。」


「はぁ、そうなんですかぁ。」


この人【初代様】の話になると長いな、と尾城は六平の印象事項を積み重ねていく。


隣を窺うと桐橋は真面目な表情で聴いていた。


ここで六平がハッとしたように初代様の話を止める。


「あぁ、それよりこれからの生活サイクルを説明しようと思ってたんだ。

 すまんすまん。

 まずここは【シャモンの里】と呼ばれてる。

 叔父御がムゾウの御館様と話し合いこの里を興した。

 今は総勢五十人程かな。

 ムゾウから世話役というか監視役というか、

 そんな人たちもいるからなぁ。

 純粋な【元日本人】は今年の三人含めて二十四人となる。」


「この家にみんな一緒に住んでるんですか?」


「あぁ、さっき言った二十四人はここに住んでる、ここ、かなり広いぞ。

 あと長屋とか離れもあるんだけどな、

 まぁ長屋は男連中が警戒用の詰所で使う感じだ。

 離れは研究室になってて、夜菅よすがいちごって名前の女性が住んでる。

 今は権藤さんを看護するため引き取ってる状態。

 あとはみんなこの本館住みだな。」


「んー、仕事は何をすればいいですか?」


「ん、訓練・農作業・木工・裁縫・などいろいろある、

 でも一番重要なのは【訓練】だな。」


「え? 【訓練】ですか?

 農作業が生活に一番直結しそうですけど?」


「さっき【ピロ】の奴がさ、

 俺たちは筋力が上がったり色々変化したって言ってたろ?」


「あ、そうすね。俺も金玉無くなったのは衝撃でした。」


「ん、あ、あぁそうね。いやそうじゃなくて。

 その上がった筋力ってのを叔父御は色々調べたんだ。

 後からこの世界に来た人も全く同じなのかとか、

 どう変化したのか、更なる進化はあるのか、

 などなど研究に研究を重ね、

 十年二十年して分かったことが色々あったんだ。」


「……何ですか?」


『この人って無駄に焦らすよなー』


尾城は内心少しげんなりしながら尋ねた。


桐橋はやはり無言だが、ちゃんと六平の話を聴いている。



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