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人は鏡の様なものだから  作者: 水下直英
『人は鏡の様なものだから』
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不安を感じた結果


 上機嫌の夜菅よすが四宮しのみや尾城おじょうたちのテーブルを離れると干崎ほしざきたちが戻ってきた。


タイミング的に考えると、尾城を気絶させた夜菅が怖くて離れていき、その夜菅がいなくなったから帰ってきたのだろう。


尾城的には悔しいが賢い行為だと理解出来る。


「いやいやー、おじょうさっき大丈夫だったかー?

 ガクーンて落ちたぜー?

 死んだかと思ったわー。」


「OH!さすがホッスィー、

 逃げ出したくせにヌケヌケと言うネー。」


「なーんだよトム、そんなこと言ってっと夜菅の巣に放り込んじまうぞ?」


「NO!ホッスィー!

 思いやりと優しい気持ち、忘れないで。」


干崎とトーマスが騒ぎながら席に座る。


「神通力の話も終わったし、俺ら戻るから。」


「アニィ、またね?」


同じタイミングで陸奥原むつばら鍵河かぎかわが席を立ち、お誕生日席の椅子も持って行ってしまった。


尾城の勝手な憶測だと鍵河あたりと干崎が相性悪い気がする。


干崎の干渉を嫌がって二人は去っていったのではと考えたのだ。


しかしその憶測は正しいかどうか確証は無い。


何故なら干崎とトーマスだけではなく、他に二名、見知らぬ人たちが前の席に座ったのだ。




 尾城の目の前の元々は干崎が、そしてさっきまでは若葉が座っていた席には、タレ目で眠そうな印象の年上の男性がいた。


そして元々は君家が、さっきまで陸奥原が座っていた、権藤の目の前の席には、ややタレ目でおとなしめな印象のボブカットの女性、はっきり言うとコケシみたいな人が座っていた。


干崎たちは何故かひとつ席を空けて右端とこちら側の右端にそれぞれ座った。


「あの? ホッシーさん? この方たちは?」


「【きねろう】さんと【セリカ】さんってんだよー、

 新人三人に挨拶したいってさー。

 あと一人後から来るからここ空けといてんだわー。」


「あ、そうなんですか、

 よろしくお願いします、尾城玄治おじょうげんじです。」


尾城は目の前の二人に挨拶する。


桐橋きりはし権藤ごんどうは挨拶済みかなと思ってたら、権藤が丁寧な挨拶を交わしていた。


桐橋や陸奥原にも先程謝罪していたが、どうやら昨夜途中退席したようだ。


たぶん泣き出してしまったから外へ連れ出しそのまま離れへという流れだろう。


桐橋は相変わらず口を挟まないので尾城が話題を切り出す。


「あの~、きねろうさんとセリカさん、ですよね?

 本名と同じ呼び名なんですか?里の皆さん特殊な呼び名が多いですけど、

 お二人は普通っぽい名前ですね。」


「え~?特殊な呼び名ってだれだれ~?気になる~。」


ネタへの前振りにセリカが狙い通り食い付く。


尾城は持ち前のサービス精神を発揮した。


「一番はべりーさんですよね、

 んん……、

 なんかぁ~、パンチがぁ~、効いてますよねぇ~?」


「アハハハハハ!似てるぅ!素晴らしいじゃんおじょう!」

「ヒャッハフハ!おじょう!マジか!」「ウフフッ、ブフッ!」

「ヤハハー、すげーじゃんおじょう!

 さっき気絶されられたのに勇気あんねー?」


セリカやきねろうだけではなく、桐橋権藤干崎トーマス全員が笑っていた。



 やはり人を笑わせるのはすごく気分がいい。


いつの頃からか面白いことを考えることが好きになっていた。


渾身の面白話がウケたときは最高の気分に、スベると最悪の気分になる。


尾城的には動きで笑わせるより、喋りで笑わせる方がやりがいを感じる。


が、干崎の気絶云々の指摘を聞き、顔を青ざめさせた。


後先考え無しにやってしまったことに気付く。



「あれれぇ~?」



背後から聞こえた間延びした女性の声に尾城は怯えた表情を隠しもせず、慌てて振り返った。


「えへへー、ビックリした?」


そこには満面にしてやったりの笑顔を見せる君家きみいえがいた。


「ちょっとー、クンカさんー、

 ビックリさせないでくださいよー、マジで。

 死んだらどうすんですかー。」


「えー?

 おじょうくん、こんなことで死んじゃうのー?

 【ミトコンドリア】かよー。」


尾城の抗議に明るく返す君家、外見的に尾城の好みから大きく逸脱しているが、子供っぽい言動がプラスに働いて憎めないキャラとなっているようだ。


まぁ状況によってはマジギレされるキャラだろう、TPOをわきまえるべきだ、と内心で思うにとどめる。


「ほらクンカー、椅子持ってきてここ座んなよ。」


「うん! そうする!」


先程鍵河が座っていた場所に椅子を持ってきて嬉しそうに座る君家。


ここで尾城に疑問が浮かぶ。


「あれ?

 さっき言ってた後から来る人ってクンカさんじゃないんですか?」


「んー、違う人。

 【リッカ】が来たいってさっき言ってたよ、遅いねー。」


右前方の空いた席を指差しながら問い掛けるとトーマスが答えてくれた。


また新しい人か、あと何人知らない人がいるのだろうか、と尾城は感じ始めた。



 今日一日で色んな体験をしているが、人間関係に一番気疲れを覚える。


それは日本にいた頃も変わらない、人間の不変の問題かもしれない。


「あ、俺、名前言ってないよね。

 あだ名はきねろうなんだけどさ。

 名前は【八街甲子郎やちまたこうしろう】なんだ。

 ホッシーより二年先にここに来た。」


尾城の正面のきねろうが急に自己紹介を始めた。


ぬぼーっとした印象を受ける。


ゆっくりした喋り方の人だなという感想を持ち、尾城は続きを待ったが、話の続きは無いようで、隣のセリカがきねろうの右肩をパンとはたいて喋りだした。


「なにワケわかんないとこで話やめてんのさ!バカタレがー。

 アタシは【蜂下はちしたセリカ】っていうの、

 このきねろうの一年先にこの世界に来たよ、歳は言いたくない。

 アタシときねろうと若葉さんが農作業のメインになるのかな。

 ホントはもっと頼りになる先輩たちが農業を仕切ってたんだけどさ、

 初代様はじめみんな去年亡くなられたからさ、アタシたちが頑張んなきゃね!

 で、アンタたち、誰か農業経験ない?

 米の作り方とか工夫とか聞いたことない?

 無いかー、そりゃ無いよね、みんな都会っ子かー、

 うぅうぅぅ……

 ウヴァー!

 田植えが始まっちゃうよー!

 やべぇってこれー!」


「えー?

 どうしたんですかセリカさん?

 去年もやってたんじゃないんですか?」


セリカは話しながらテンションが急降下したり急上昇したりしたが、最後には爆発した。


初代様たちが居ない農作業に不安になっているようだが、それは去年も同じだったのではないのだろうか。


「去年も同じ作業したんですよね?

 同じことすればいいんじゃ?」


「去年は初代様は亡くなってたけど今の時期はまだ元気な人ばかりだったの。

 あー、言われたことするだけだったから一人でやるの不安ー!

 たじげでー!」


「いやいや、若葉さんとかきねろうさんも去年やってたんですよね?

 セリカさん、俺たちも教えてくれれば頑張りますので、ね?

 キネロウさん、大丈夫ですよね? ね? ね? 」


愚痴るセリカを全力で宥める尾城、権藤や君家も横でそうですそうですと援護してくれている、桐橋はダンマリだ。


そして八街の答えはシンプルだった。



「いや、俺も言われた通りにやってただけだから。」


「おい貴公きこうぉぉ!! 空気を読めぇぇ!!」



八街は場の空気に流されない性格の様だった。


ボケのような発言に対し尾城は渾身のツッコミを放つ。


今のツッコミの際に、おまえ、や、アンタ、や、デクノボウ、など呼び方の候補が脳内で色々挙がったが、相手が結構年上の男性なので失礼かな、と瞬時の判断で【貴公】になった。


結果としてスベった。


干崎とトーマスがハハッと笑っただけだ。


『自分が里にもっと溶け込んでいればもっとウケただろうか?

 いや自分のツッコミが悪かったかもしれない。

 テンション高過ぎるテレビアニメみたいで違和感が出たか?』



尾城は脳内で思考の世界へ沈んでいく。



いやいや、何を考えているのか自分は。


笑いを取るのが目的ではなく、里に溶け込むのだ、人間関係を築くのだ。


他人に嫌悪感を与えず、好感度を上げていくのだ。


しかしこれはゲームではない、生きている人間相手のコミュニケーションだ。


相手の気持ちを考えろ、思いやりの気持ちだ、優しい気持ちだ・・・


コレ叔父御語録にあったな、ロクさんじゃないけど俺ってやけに初代様と被るな。


俺って俺だよな?


こんな訳の分からない世界に来ちゃって自分を見失ったのかな?


初代様と違う俺を見付けるべきか?


いや、そんなのいくらでもあるだろ?


あれ?


あるよな?


あれ?


そもそも俺って初代様の何を知ってるんだ?




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