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人は鏡の様なものだから  作者: 水下直英
『初代様の言葉』
105/105

あらすじ無しの真剣勝負


 土俵上にて権藤ごんどう桐橋きりはしが仕切り線を挟んでにらみ合う。


そこに六平ろくひらがスッと進み出た。


「勝負はどちらかが『参った』と宣言するか、

 土俵の外へ片方が出て【10】数えるまでに戻れなかったら決着だ。

 わかったか?

 まずは両者が【武器】を隠し持っていないか調べる!」


持ってるはずが無いのだが、これは【お約束】である。


観客に『武器を使うと駄目なんだな』と思わせることと、今後の【ヒールレスラー】登場に向けての布石とすることが目的だ。


チェックが済むと、権藤が右腕を上げ桐橋を指差す。


「おーっと!

 ここでアニィがキリッチに何か宣言するようだーっ!」


尾城の煽りを受けてから権藤が口を開く。


「キリッチ!

 ムゾウの皆さんからキャーキャー言われて図に乗ってるでしょう!

 その浮ついた根性、叩き直してあげるよ!」


先程の観客のリアクションを見て、権藤は試合前のマイクアピールをアドリブで【ヒール】寄りのものにしていた。


尾城は権藤の【プロレス脳】の優秀さに目を細めた。


「おーっと!

 アニィはキリッチの人気ぶりに嫉妬の炎を燃やしているようだ!

 ここでキリッチはどう返すーっ!?」


煽られた桐橋だが、本人が前々から言っていた通り、咄嗟の反応は厳しいらしい。


戸惑った顔をしながら数秒間視線をさ迷わせてからゆっくり口を開いた。


「おぅ、やってやろうじゃねぇか。

 俺は男でも女でも関係なくぶん殴るぜ?

 男女平等だ、文句は無ぇな?」


この武骨な返しに観客から「キャー」「キリッチさまー」と黄色い声援が飛ぶ。


何故あんな何の捻りも無いアピールで女性たちが湧くのか尾城には理解出来ないが、実況は続ける。


「さ、アーネストナイト・アニィと

 サイレントシンガー・キリッチの試合が始まりそうです。」


六平が二人に「準備はいいか?」とささやいたあと、大きく右腕を振り下ろした。


「では正々堂々、始めっ!」




 開始の合図を受け、二人はスッと腰を落とし、低い体勢のまま、半身で手の平を開いた両腕を前に軽く突き出す。


【グレコローマンスタイル】と呼ばれるアマチュアレスリングの基本姿勢だ。


プロレスラーはアマレス出身者が多いのでプロレスでも良く見られる構えである。


じわじわと近付いた二人は、探るように片手を触れ合せた後、ガッチリ互いの手を掴み合い、手四つの体勢で力比べを始めた。


「おぉ、静かな立ち上がりから力比べに入りましたねぇ。」


「そうねぇ、上半身の力で言うならキリッチ有利かねぇ?」


解説の干崎の言葉を聞き、観客から「キリッチさま頑張れー」と声が上がる。


思った以上にムゾウの女性たちがプロレスに喰いついてくれることに気を良くした尾城は実況に力が入る。


「おおっと! やはり力比べはキリッチに分が有るか?

 ぐいぐい押し込んでいきます!」


「これはアニィ、苦しいねー。

 何とか切り返したいとこだ。」


ここで権藤が両手を繋いだまま身体を回転させる、相手の桐橋も併せて身体を回すしかない。


グルグル動いた二人は元の体勢に戻るが、その瞬間権藤の前蹴りが桐橋の腹に直撃した。


「ひゃー!」

「まげねんでー!」


「うーん、アニィがいい動きを見せましたねー。」


「思いがけない動きをするからねー。

 キリッチは惑わされないようにしないとねー。」


「あーっと! アニィがキリッチの頭を脇に抱えた!

 【頭蓋骨固め】だーっ!」


「アレは痛いねー。

 みなさんは真似しないでねー。」


ヘッドロックに捕らえられ、桐橋が苦悶の声を上げる。


「【参った】するか?

 おいキリッチ! 【参った】するか!?」


審判の六平が大声を上げる。


こういった絞め技や関節技が掛けられている時には、レフェリーの存在が試合の間を埋める。


「まだだ! まだ俺は負けねぇっ!」


そう叫んで桐橋は権藤の腰に両腕を回し抱え上げ、そのまま土俵外に向けて投げ捨てる、『放り投げ式アトミックドロップ』だ。


故ジャンボ鶴田の得意技を目にして六平が歓喜の表情を浮かべる。


「あぁぁっ!?」


観客のどよめきの中、権藤は空中で一回転しながら土俵外に華麗に着地してそのまま土俵内に戻る。



「外に出されて【10】数えてないから大丈夫だな!

 では試合続行っ!」


『土俵の外に出たから負けじゃないのか?』という観客の空気を敏感に見て取った六平が、大声を上げて二人を鼓舞する。


「てーりゃっ!」


パァンッ!


権藤が桐橋の胸板に張り手を叩きつけ、凄まじい破裂音が鳴った。


「うひゃ!」

「いだそー」


「アニィッ!」


パァンッ!


お返しとばかりにこんどは桐橋が張り手を叩き込む。



「おぉーっと! 凄まじい張り手合戦だ!

 二人の意地がぶつかり合っているーっ!」


「二人ともわざと相手の攻撃をまともに受けてんだねー。

 『お前の攻撃なんざ効かねーよ』っていう意志表示よ。

 技を喰らって、喰らって、喰らい切った方が勝つだろうね。」


張り手を十数発与え合った二人は休むことなくエルボーを見舞い合う。


ゴッ!ゴッ!と肘と頬骨がぶつかり合う音が離れた場所まで響く。


観客は手で口を押さえ声も出せないまま見守る。


「シャーラッ!」


エルボー合戦の途中で権藤が【延髄切り】を炸裂させた。


ふらつき後退する桐橋を見て、権藤は少し距離を空けた後、勢いよく飛び出し高く跳ね上がると、身体を一旦縮こまらせてから一気に伸ばし両脚で相手の顔面へ鋭角に突き刺した。


見事な【ドロップキック】だ。


しかも相手を蹴ったあとに後方へ宙返りして着地するオマケ付きだ。


これにはムゾウと神通力持ちの観客たち双方がドッと沸いた。


「いいぞー!」

「アニィかっこいいぃー!」

「あぁ! きりっちさまけっぱれー!」

「あにぃさますんげぇじゃー!」



「おぉーっと!

 土俵外に吹っ飛ばされたキリッチ選手、動けなーい!

 審判の勘定点呼が進む!

 立てるか? 戻れるか? なんとか戻ったー!」


「うわぁお、戻った途端にアニィの連撃だよ、

 こりゃキリッチたまらんね。」


土俵内では権藤が桐橋に向けて回し蹴りを雨あられと浴びせまくっている。


観客として観ていたムゾウの女性たちもだいぶヒートアップしており、【アニィ派】と【キリッチ派】に分かれて熱い声援を送っている。


神通力持ちたちも久々の娯楽を全力で楽しんでいた。


普段無口な八街すら楽しそうに大声を上げている。


皆の熱狂を肌で感じ、尾城の実況にも熱が入りまくる。



 ガードの上からガツガツと蹴られ続けていた桐橋だったが、カッと目を見開き権藤の右前回し蹴りを左肘で捕らえ挟み込んだ。


そしてそのまま権藤の首に右手を巻き込み、全身のバネを使って後方へ投げ落とした。


「おおぉぉぉっ!! 【キャプチュード】っ!!」


六平、尾城、干崎、全員が声を合わせて技名を叫んだ。


有名過ぎるぐらいに有名な格闘王の必殺技だった。


権藤は土俵外に向けしたたかに頭から落とされぐったりしている。


ハッと我に返った六平が数を数えはじめる。


「あぁ! アニィ立ってー!」

「頑張ってー!」

「ただねんでけろー!」

「あにぃさまー!」



「はーち、きゅーぅ、じゅうっ!

 勝者! 【キリッチ】!」


六平の宣言に場内はワッと盛り上がった。


権藤の応援をしていた者は残念そうだったが、それでも満足そうだ。


ようやく立ち上がった権藤が土俵に戻り片手を差し出すと、桐橋がそれに応え、がっしりと握手してからもう一方の手を添える。


それに権藤も応え両手で握り返し、観客から大きな拍手が巻き起こった。



「以上で今回の実験は終わりとする。

 みんな付き合ってくれてありがとな!

 ムクゲさんたちもありがとう!

 どうです? 楽しかったかい?」


「まんずたのししたじゃぁ。

 こんどもまんださそってけろ。」


「そりゃ良かった。

 もし御館様が来たらまたやるかも知れん。

 そしたら皆さんも観れるようにしますよ。」


「はぁ~、ありがでじゃぁ~。」


六平とムクゲの会話を聞きながら尾城も充実感に満たされていた。


好きなことを存分に出来る幸せ、それが周囲に受け入れられるなら多幸感は何倍にもなる。


いずれもっと多くの人々に今日実験したような娯楽で楽しませてみせよう。


この閉ざされた狭い世界を、より広い世界で受け入れられるようにするのだ。


いまこの場にいる全員の笑顔の花を、国中に咲かせられるように。




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