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海苔が大好きのりこちゃん!

「じゃじゃーん! のりちゃんでーす! みんなよろしくー! はいぺこー!」

 観客は二十人ほど。その前でちょっとしたショーをしているのは、放浪パフォーマー歴3年の山田(三十六歳)と、相棒の虎、私だ。

 捨てられて死にそうだったところを拾ってもらったのは助かったが、なんでこんな宿無し男に拾われてしまったのか。そんなことを考えながらも、私は今日も芸をする。これをしなければ山田も私も食っていけないからな。

「のりちゃんのー、のりちゃんによるー、のりちゃんのためのー、スーパーパフォーマンス! はい、お手。んーすごい! 虎なのにかしこい!」

「ほんとこいつバカだ。腹立つ。はい、お手。……というかこれで金くれんの? 人間ちょろっ! おうおう、エサ代あざーっす」

 人間たちが写真を撮り、笑い、金を投げる。うん、やっぱり道の駅はいいなー。みんな昼休憩とか、長旅のひと休みとかで暇してるから、珍しがって見に来る。しかも、家族とかカップルで旅行に来てるから、勢いで金をじゃぶじゃぶくれる。まじあざーっす。

 ショーが終わり、近くの岩影でひと休みする。

「ひぃふぅみぃ、うっほ! さっきのショーだけで三万だぜ! 見ろよのりこ!」

「おー、やるな無職ー。というか全部私のおかげだからな。わかってんのかおい」

 山田はアホ面で笑っている。今日は高級ディナーだな、とかいっている。それ、私にもくれるんだろうな、ハゲ。

 その後も順調にショーをこなしていった。恒例のクイズが始まった。

「のりこちゃんの好きな食べ物は、何でしょーか?」

 女の子が手を挙げる。「えびー!」

「ぶっぶー! ほかにはー?」山田がバカ面で訊く。

「にくー!」「ほねー!」「さかなー!」

「ぶっぶー! 正解は、海苔でしたー!」

「いや、肉も骨も魚も大好きだわ。てか、海苔が好きってどういうことだよ。お前いい加減勘違いに気づけよ。あ、ちなみにえびは嫌いだよ、お嬢ちゃん」

 山田がポケットから私の大嫌いな海苔を出す。それを私の口に放り込んだ。

「のりちゃんは、海苔が好きすぎて、こんな芸を覚えちゃったんだよー! ほら! お口あーん!」

 私は大きく口を開け、歯を見せた。観客に見えるように左右に首をまわす。

 観客がワ―、とかキャーとかいって笑っている。なぜかというと、私のキバと歯に海苔がびっしりくっついているからだ。しかも変顔になっているので、なおさら面白い。

 ショーの途中だが、海苔のあまりのまずさのせいで、私は昔のことを思い出した。

 山田という人間は、まあ金がなかったから、食べ物を残すと厳しく叱ってくるやつだった。だから私は、まずい飯でも大抵は食べるようにしていた。でも海苔を口にした瞬間、「これは無理だ」と思った。そこで私は考えた。飲み込むふりをして、なんとかやり過ごそうと。口に入れた後、なるべく味を感じないように噛む。それから、ベロをうまく使って上あご、歯の裏側、歯の表面などに海苔をくっつける。それからゴックンと喉を下げ、ベロを出す。「おいしかったよ! えへ!」みたいな感じでね。

 そしたら山田が、「本当か?」といい、私の口を無理矢理開けてきたのだ。また叱られると思った。

 だが山田は、ぷっ、と吹き出し、腹を抱えて笑い転がった。何がそんなに面白いのかと思い、川に映った顔を見ると、口の中が海苔だらけ。それからこの芸は定着していったのだ。

「おまえ、今日からのりこにするわ、名前」

 それから私は改名された。最初の名前もマイキーで、オスっぽくて嫌だったけど、のりこはもっと嫌だった。

 兎にも角にも、今日のショーは無事終わった。

「のりこ、やったな! 今日は大・大・大成功だ! 今夜は焼肉でも行くか!」

「え! まじ? 久々の肉だー! たまにはいいこというじゃん、山田」

 宿無しの無職でも、焼肉を奢ってもらえるなら神も同然。そのハゲも意外とイケてるよ!などと心な中で褒めておいた。

 焼肉屋についた。私は外に待たされていた。

 二時間くらい経っただろうか。一人にしては遅すぎる。私はこっそり店に入った。すると個室で山田が泥酔していた。

 私は山田の頭を軽く引っかき、起こした。

「なんだ? のりこか。……あ、肉残しとくの忘れてたー!」山田の馬鹿さに私は腹が立った。

 つい私は山田の腹をかじった。まずかった。いや、本当に食べてはいないよ。ちょっと甘噛みしただけだよ。でも、腹が減って機嫌が悪くなってきたのは本当。山田に何か買ってこい、と目で訴えた。

「すまんすまん、今からコンビニで買ってくるから」

 焼肉屋を出てすぐ、山田はコンビニに走っていった。数分後、袋を提げて帰ってきた。

「これ大好物だろ、のりこ」

「わぁ、ありがとう! ……って、これ海苔じゃねえかー!」

 本当にぶっ殺した。


おわり

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