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落とし穴で落としてみたい

 「今日も帰りにツクモカフェによって帰るから遅くなるね。それじゃあ、行ってきまーす」


ガチャリとドアを閉める音と共に家主は家を出ていく。

今日もこうしてわっちは1人。メイドのように家事や掃除に追われる1日が始まるのだ。


「さてさて、今日もがんばりますか……!!」


人間型付喪神が人間界で家事をしてるなんて変だと言われるかもしれないが………。

「ホームステイしてるんだし、クラシカルメイド服を着てるんだから、僕がいない間はお家のことお願いします!!」なんて頼まれたんだ。伝説の剣を狙う刺客なのに居候させてもらっているから、しょうがなく二つ返事で了解したが………。言わせてもらいたい。いや、断られても言ってやる!!!

この洋館………広すぎるのだ。

部屋いっぱいあるし、庭広いし!!!

掃除メンドクサイ。メイドモウヤダ。

でも、わっちは掃除ロボットの付喪神。

これは掃除系付喪神としては避けて通れない試練なのだ。


「掃除~掃除~今日もきれいにお掃除なのです~♪」


わっちは作ったお掃除の歌を歌いながら、部屋中を掃除していく。

この家中のすべての埃を駆逐してやるのが、わっちの役割なのだよ。フハハハハハ!!!




 3時間後………。本来の人間が掃除する3倍の速さでピカピカにお掃除を済ませた。この洋館に埃の欠片など何一つ残っていない。

さすがわっち、お掃除マスターと呼ばれても構わない程の実力だ。


「ふへへ~~(ニヤ~リ)」


こうして、モップを片手に自画自賛の笑みを浮かべている。

こんな弛みきった顔を他者に見られたら恥ずかしさで死んでしまいそうだ。

いや、死んでも魂さえあれば新しい依り代があれば復活できるし、保険も効くから死なないんだけどな?


「さてさて、掃除も済んだことだし………テレビでも見るか」


このあとのメイド仕事まではまだまだ時間がある。

だが、1日ゴロゴロと堕落な日々を送るわけにはいかない。

今夜のお買い物も動画企画も考えないといけないのである。

それほど万能付喪神メイドちゃんは超多忙生活なのだが、やはりテレビの誘惑には勝てないのである。




 時はお昼。なんか報道番組やバラエティー番組があるが、わっちが見るのはそういう番組ではない。

『視聴者企画ドッキリ~あなたの性癖大暴露』

わっちが視聴するのは変な番組名ではあるが、ドッキリ企画番組。

企画作成の際にいつも参考にさせていただいてるドッキリ番組である。

わっちはテレビの前にある椅子に座りながら、メモ用紙を片手に参考になる物を書き写す。

そうして候補の中から企画を選んで決行し、その様子を動画として投稿しているのだ。

そんなことを繰り返したお陰か。

前回の動画ですでに6人は視聴者が増えた。

だが、それでもまだまだ有名になるには程遠いのである。


「ほ!? なるほど……!!!

これはいいのです。素晴らしい企画です」


今日もこの番組は参考になる。

この番組のお陰で今日の企画は考え付いた。

これなら、作戦として使えるような物を遂に見つけた。

ありがとうドッキリ番組。わっち頑張るよ。あんたのためにわっち………やるよ!!!


「待っていろ。葛木…………今日こそお前の口から伝説の剣の場所をしゃべらせてやる」


テレビへと熱い決意を言葉にして発しながら、わっちは悪人面で必死にメモを取っていた……………。




 それでは、今回の企画を発表しよう。

題して、『『やられたらやり返す。目には目を歯には歯を………。それ以上でもそれ以下でもない。最適な作戦を!!!』』という歴史に名を残しそうな企画である。

さて、作戦を発表しよう。


①葛木が帰宅する時間帯に訪れるカフェの前に落とし穴を掘る。

②動けなくなった葛木に石を投げて攻撃ッ!!

③助ける交渉として伝説の剣の隠し場所を吐いてもらう。


見てくれ。まさに完璧な計画!!!

褒められたい。これはもう名誉悪戯大賞で金賞を取れるレベルである。

これこそが……………わっちの頭脳とドッキリ番組の企画を合わせた共同計画なのだ(許可無し)!!!





 さて、時は再び進み…………。夕方。

葛木がカフェに来店する1時間前。

わっちはカフェの近くの道路にやって来た。

片手にスコップを持ち、片手にコンクリートをどろどろに溶かすような異世界産の特別な液体を持っている。

その姿は戦地に佇む兵隊のようだ。なんて誉めてくれてもかまわないよ!!

…………とにかく、わっちは今からここに落とし穴を掘る。

掘らなきゃいけない。掘るんだ!!!


「ウオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」


雄叫びをあげながら、両手に力を込めて掘る。

人間よりもはるかに強い力で下を掘る。

クラシカルメイド服を汚したとしても、あとで洗濯すればいい話である。

メイドがこんなことを主人に行っていいのか。なんて、そんなことは頭の中にはない。

今は夢中なのだ。掘るのが愉しいのだ。

汗を流し、目を開きながら、力を込める。

それはもう…………単純にやめられない。

葛木がおちてしまって、これはもう泣き叫んで助けを求めるくらい掘ってやる。

ここに落ちてしまった時の葛木の表情が楽しみだ。わっちは泣き叫んでくれても構わないが、どうせなら泣きそうになりながら助かりたいと懇願する姿が見たいのだ。




 地上から4m。かなり掘った穴の中でわっちはようやくその手を止めた。

どうやら夢中になりすぎたらしい。

よっこらせッと地上に手を伸ばし、土で汚れたクラシカルメイド服をパッパッと叩く。


「ふぅ~我ながら頑張ったわ」


服の袖で汗を拭いながら、わっちは達成感に浸っている。

もし失敗したら、完璧に殺されるだろう。

だが、さすがにこの深さでは失敗はない。

そう、今回のわっちの辞書には失敗なんて文字はない。

あとはここに落とし穴を作るだけである。




 「はい、完成しました~」


速い。あまりにも速い。

わっちの目の前には先程の道路と比べ物にならないくらいの道路が完成した。

こんなところに落とし穴があるなんて誰が思うであろうか、いや思うわけがない。

これが異世界の技術。異世界クオリティー。

さすがのわっちも忘れて落とし穴の上を歩いてしまいそうだ。

それほどの出来映えなのである。


「さて、隠れますか………」


すぐ横の公園にある茂みに隠れて葛木がやってくる待ち伏せをしなければならない。

わっちは彼がここに落ちた時の事を考えながら、茂みに身を潜めていた。




────────────────

 その頃、福助西高校の頭である〈柴安しばやす景勝けいしょう〉は下校中に変なメイドと遭遇した。

喧嘩相手をボコボコに返り討ちにした日のごほうびとしてカフェでのひとときを楽しもうとしていたのだが…………。

そんな喧嘩の帰り道に公園に寝そべって茂みの中に頭を突っ込んでいるクラシカルメイド服を見つけた。

彼は最初、幻覚を見ているのか?

なんて考えてしまったのだが、隣にいる弟もその変質者が見えているようで、これは幻覚ではないと理解した。


「兄貴………あれなんですかね?」


隣にいる弟〈柴安しばやす松雄まつお〉が不思議そうにメイド服を指差す。

頭隠して尻隠さず。とはこういうことだ。

良くて、好きな男の子がカフェから出てくるのを待ち伏せするメンヘラメイド。

悪くて、好意を寄せている人のストーカーである変態。

………であると俺は判断した。

とにかく、兄貴はどう思っているのだろう。

俺が兄貴を頼りに横を向くと。


「あれは…………分かった。あれはUMAだ!!!」


「はぁ? UMA」


俺には兄貴がふざけているようにしか見えなかった。UMAって怪物みたいな奴のはずだ。

そんな怪物みたいな奴がこんな町でクラシカルメイド服を着て何をしているというのだろうか。とにかく、兄貴は誤解している。あんな変な格好で茂みに隠れている変態がUMAだと?

ただの変態じゃないか。

それよりも今にもあのUMA?を捕まえたいとソワソワしている兄貴を速く止めなければならない。


「兄貴………。こんな町にUMAなんていない。俺たちきっと疲れているんだよ。今日は帰りましょ?」


こんな幻覚を見ている状態で『シュラバカフェ』になんて行く気分にはなれない。それにあのUMA?はシュラバカフェへと行く道で待機している。

ここから公園を曲がればすぐにシュラバカフェに着くというのにあのUMA?のせいでたどり着けない。

俺は悔しさを堪えて兄貴の肩を掴んだ。


「………。確かにあれはUMAじゃないかもしれない。だが、シュラバカフェに行かない選択肢はない」


「いや、でも………あんな変なメイドの側を通るなんて俺は嫌だよ」


「シュラバカフェに行くのは喧嘩帰りの決まりだろうが!!

それにこの俺がUMAに恐れると思ってるのか?」


「いや、でもあれは変た…………」


「この俺が!!!!UMAに!!!!恐れをなす!!!!と!!!!お前は言うのか!!!」


すると、大声を出さなくても聞こえると言うのに、声を張って俺に語りかけてくる。

どうやら兄貴はあれがUMAではないと認めたくないらしい。

あと、ビックリマークの位置が微妙にずれていた。


「だから、あれは………UMAじゃありませんって!!!」


「そうか………あれはUMAじゃないのか………」


納得するのが速いッ!?

だが、結果オーライだ。

ようやく兄貴が自覚してくれた。

そう、あれはUMAなんかじゃない。あんなのがUMAなわけがない。やっと兄貴は誤解が解いてくれた。なんだかそれが俺は嬉しく感じてしまった。


「兄貴…………」


「あれは妖怪だ!!! 触らぬ妖怪に祟り無しっていう。無視してシュラバカフェにいこう」


俺の感動を返せ!!

やっぱり、ダメだ。兄貴ってば絶対変態だと認めたくないらしい。


「兄貴………!? そこは妖怪じゃなくて神です」


ああ、俺はこの人について大切な事を忘れていたようだ。

シュラバカフェへと歩いていく背中はかっこいいのに………。

残念なことにこの人はバカなのだ。


───────────


 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


そういえば、わっちは気づいた。

葛木がいつも行っているカフェはここじゃない。

シュラバカフェではなく。ツクモカフェだ。

ああ、なんという時間の無駄を過ごしてしまったのだろう。

こんな間違いをしてしまうとは、わっちにとって一生の不覚である。

穴があったら入りたい。

目の前の落とし穴ではなく別の穴に入りたい!!

もうわっちの顔は恥ずかしさで真っ赤に赤面している。

なんだかこうして茂みに隠れている自分が惨めに思えてきた。


「ああああああ~~撤退~!!!」


恥ずかしい。恥ずかしい。

数分の間、茂みに隠れて落ちる瞬間を待ち望んでいた自分の姿をもしも他人に見られていたとしたら屈辱物である。

ああ、誰にも見られていませんように~。

わっちは心の中で必死に神に祈りながら、走って家へと帰るのであった。





 「ただいま~」


帰ってきた。

あの屈辱的な時間から解放されて逃げ帰ってきた。

今回の企画は失敗だ。ドッキリ番組め!!………わっちの計画をお前が邪魔するとは思わなかったぞ。

完全に逆怨みなのかもしれないが、わっちは完璧にドッキリ番組に怒っていた。


「おっ、おかえり~」


どうやら葛木は先に帰っていたようだ。

彼は台所で料理の真っ最中。


「ご飯はどうする?」


「わっちの分はいらないわ。ちょっと今日は疲れちゃったの」


葛木からの夕食の誘いを断って、わっちは自室に戻って新しい作戦を考えるために階段を上がっていく。

なんだか、とてつもない恥ずかしさに襲われたせいで何をしていたのか忘れてしまった。

ただ、とても恥ずかしかったのは覚えている。

わっちは何をしていたんだっけ?

よほどショックがでかい事を経験したのだろう。

さっぱり、今日何をしていたのか覚えていない。

そんなとき、葛木が着けていたテレビのニュース番組からこんな音声が聞こえてきた。


『本日、夕方………。

福助町にあるシュラバカフェ前で道路に落とし穴が作成されており、穴の中にいた容疑者2名が連行されました。2人は依然として容疑を否認しており警察は……………』


へぇー落とし穴か~。

カフェの前に落とし穴を掘るなんてバカじゃないか。

やるなら、被害者が出にくいような家の前とか庭とかに作るべきだろう。

いつ誰が通るかわからないような場所に落とし穴を掘るなんて、そいつはよっぽどのバカに違いない。

バカだ。バカ!!!

わっちはその犯人への同情など全くなく。

興味もなさそうに階段を登っていくのであった。

結果発表!!!


・イクナ、覚えのない仕打ち。

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