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剣を守る一族から奪ってみたい

 ─────魔界動画。

それはこの魔界で最近ブームになっている動画投稿サイトである。

一番視聴者数が多い魔王は、『勇者を倒してみたpart35』とか『国を滅ぼさせてみた。』とか伝説級となった神回を何個も作っており。

今、もっとも熱い投稿者なのである。


─────────


 そんな魔界動画に1人のかけだし投稿者が現れた。

その彼女の名前は〈イクナ〉。

彼女はロボット掃除機の付喪神であり、魔王に憧れて動画の世界に入った者の1人である。

だが、憧れの魔王に近づくにはあまりにも知名度が無さすぎる。人気がない底辺投稿者なのだ!!


「何故に何故に何故に!?

わっちの動画は底辺なのだ?」


視聴数の延びない日々。彼女はそれでも動画を上げ続けた。憧れの魔王に近づくには動画を上げ続けるしか方法がないのである。

しかし、彼女には他人に自慢できる特技も財力もなかった。

同種族の付喪神であるダイナマイトの付喪神でさえ、毎日過激な動画を投稿し続け、『お城で爆発してみた』とか『驚愕!! 古代遺跡を爆破せよ』など、自害動画で話題になっているというのに………。

ちなみにそいつは自害しても、保険に入っているため、魔界工場で魂と新しい物品を合わせれば簡単に復活できる。


なにか、なにかないのか?

話題になれるようなアイディアはないのか?


そんなとき、ふと彼女の頭の中にアイディアが降りてきた。


「そうか、伝説の剣を手に入れるチャレンジをすればいいのです!!」


こうして彼女の伝説の剣獲得チャレンジ動画計画は始まったのである。





 ─────伝説の剣。

それは勇者がかつて魔王を討伐した時に使われていた剣である。

光を味方につけて闇を祓い浄める伝説の剣。

その剣を来るべき時に備えて、勇者として選ばれた者に渡すため、その剣を守る一族がいるという。

そして、代々その一族の長男にその剣を預かる資格が与えられるというのだ。


「………と文献には書かれているのです。これはもう殺してでも奪い取るしかないのです。ヒヒヒッ!!」


1人部屋で不敵な笑みを浮かべる付喪神。

伝説の剣を奪い取れば、魔王からの信用も頂けるし、知名度も上がる。

……………………これはもうやるしかない!!!

 人間界にあるという福助町ふくすけちょう

今日も太陽は朝の訪れを町に知らせてくれる。

爽やかな風が吹き、鳩たちが飛ぶ。

いつも通りの日常。いつも通りの朝。


『おはようございます。今日も福助町ラジオにようこそ。今日のお相手はこの私でございます。では本日の曲に参りましょう!!』


とある家ではラジオを流しながら、朝食を作っていたり、朝のラジオ体操をしたり、ランニングシューズを履いてランニングを行ったりとみんないつも通りの朝を過ごす。

そんな平穏な町。それが福助町なのである。


─────────────────


 人間たちは知らない。いや、知ることすらできなかった。

その平穏な雰囲気を壊そうと、1人の付喪神がやって来たことを───。

その日の朝も晴天で、よい1日の始まりであった。

しかし、いつも通りの日々を送ることができるはずの人間たちの町へと奴はやって来たのだ。

時代に合わない馬車に乗り、奴は闇の世界からやって来た。

奴は馬車の窓を隠していたカーテンをチラリと捲り、外の景色を眺めてみる。

そのときはちょうど通勤通学時間。

スーツを来た大人や制服を着た子供達が、ゾロゾロと目的地へと歩いている。

そんないつも通りの生活を過ごしている人間たちが奴にとっては滑稽であった。


「フフフ、人間達よ。今のうちにその平穏を味わうがいいですよ。


『『伝説の剣を奪い取る!? 前代未聞の企画にわっちが挑んだ!!』』


この企画が成功すれば……魔界は大喜びでこの人間界を支配しにやってくる。そうすれば、わっちは大出世。みんなのアイドルになっちゃうのです~」


この企画が成功すれば、いったいどれだけの人間たちが平穏を失い、平和を失うこととなるだろう。

希望の光を失った人間たちなんて最早敵ではない。

剣がない勇者がいる世界なんて簡単に落とすことができる。


「あーあーもう始まる前からニヤニヤが止まりませんわ~。出世コースまっしぐらですわ。

あーあー人生って最高!!」


奴は馬車の中で1人、これから自分の身に降りかかる幸運を妄想しながら楽しんでいる。

富、名声、権力、金。

成功を納めることができれば、ありとあらゆる幸運が奴のもとへとやってくるだろう。

だが、そのリスクが大きすぎるということを奴は計算にいれていなかった。

─────バカなのだ。





 今回、イクナが向かっている伝説の剣があるお宅は、福助町南区お住まいの家。

その自宅は〈葛木かつらぎ〉一家が住んでおり、古くから伝説の剣を護っている家系らしいのです。

洋館、大きな庭もあるという…………。まったくうらやましいかぎりだ。

わっちの家なんて普通の一軒家だというのに、勇者の剣を守護するだけで立派な洋館に住めるなど、ずるいズルすぎる。


「これが宿敵の家か。相手にとって不足はありませんわ」


馬車から見えた大きな洋館。

剣を奪い、魔界の軍勢が押し寄せた後でこの家は奪い取ることにしましょう。わっちはこの家が気に入ったのだ。

さて、そろそろ歴史に残る撮影の準備をしないと。

わっちは側に置いていたバックの中から、小さな妖精みたいな生き物を取り出す。

人形みたいな白い体に頭はカメラというカメラの付喪神ちゃん。その大きさは両手に収まるくらい。

こいつを使ってわっちの勇姿を記録に残すのだ。


「よし、カメラの付喪神ちゃん。いい? 録音機能フル稼働してよく聞きなさい。

わっちは今から歴史的な挑戦をします。

魔界の今後に関わる重大な事件を起こすの。

撮影は任せたわ!!!」


わっちにやって来た最大のチャンスなんだ。

伝わってくれ!!! わっちはカメラの付喪神を両手で握りしめて自分の思いを伝える。

すると、先程まで暗い場所にプルプルと震えていた付喪神が暗い馬車の中で親指を立ててグッジョブのポーズで返してくれた。




 カメラの付喪神ちゃんのお陰で気合いは入った。計画も万全だ。あとは成功するかしないかである。

落ち着けわっちの心!!!

わっちは遠足の前にドキドキして夜に眠れないタイプなのです。

戦を前にわっちの心臓の鼓動はドクドクと高まっている。


「もちろん計画は万全にできているわ。

ここにホームステイすることになった少女のわっちが、馬車からピョンと現れる。

そして、出迎えに来た奴をわっちの能力で殺!!

大騒ぎになる洋館内を走り回り、逆らう奴は殺!!

あとはゆっーくり剣を探すのです」


ざっくりとした計画だが、これこそがわっちの考えた作戦なのだ。

無事に企画がうまく行くといいのだが………。

いや、ここでわっちが自信を持たなくて誰が持つ。




 そして、馬車は家の洋館へと入っていく。

ここが敵陣本部。だが、わっちにはこの洋館についてはすでに調べていたのだ。罠の数も、敵の人数も、今日の朝食のメニューだって調べあげている。

ちなみにここの家主は〈葛木かつらぎ令志れいじ〉さん18歳の男性。

中学生に見える程の小柄な青年で、家系を継ぐために日々努力しているがんばり屋さん。

そう、敵達はただの人間!!!


「へっ、勝てる!!!

たかが人間の少年。簡単に花壇の肥料にして差し上げようか!!」


門を突破できればこっちのものだ。

内部からの奇襲作戦。我ながら頭がいい。

冴えている。我が頭脳を褒め称えたいくらいだ。

いや、自画自賛をするのもこれくらいにしておこう。

馬車は家の前に急停車する。この中に自分達を追い込む兵器わっちを乗せているとも知らずに哀れな奴だ。

しかし、これも運命…………恨むならこの家系に生まれた自分を恨んでもらいたい。

さぁ、わっちの大いなる一歩が今始まる!!!


────────────────────────


 僕が出かけようと玄関の扉を開くと、目の前には時代を間違えている馬車が庭で存在感を放っていた。


「なんだ?」


朝から変なものを見たようだ。これが夢であってほしい。

いや、そういえば、今日うちにホームステイの少女が来ると親父から聞かされていた気がする。

……ということはあの馬車にホームステイの少女がいるということだろうか。

ドドドドドドド!!

緊張する。優しい子だったらいいな……と僕は思っていた。

その時、馬車のドアが大きな音を立てて開き、中からかわいらしい女性の姿が現れる。

太陽光に照らされて輝くその少女は長い金髪の女性。

彼女はロング丈のクラシカルメイド服を着ている。

顔は色白で目は青色。喋っていると口の間から少しだけ八重歯が見えていた。美人さんである。


「やぁ、君がイクナだね」


この彼女がホームステイに来た少女なのだろう。

馬車の上から僕を見下している少女は僕が名前を呼ぶと、彼女は僕を見下しているような冷笑を浮かべているようだ。

まるで、ネズミを狙うネコちゃんのように獲物を狩るような目付きをしているのだが……。

そのときの僕は気づいておらず、不審にも思っていなかった。

彼女は成績優秀海外からのホームステイに来たと聞いたのだが、この町に来たことがそんなに嬉しいのかな?

なんて、彼女の冷笑に対して思っていたのだ。


「そうか。君が葛木なのですね…………………………」


すると、表情を影で隠して、彼女は自分の足元を見ている。

急に先程までの冷笑は消え去って、落ち込んでいるように見える。

何か悲しいことでもあったのだろうか。

僕が何か悪いことでもしたのだろうか。

始めてのホームステイを相手に僕の気持ちは高まっているようだった。

だって異性。そして美人。そんな彼女に僕は一目惚れをしている。

一目惚れをしている僕には冷静に彼女の冷笑の意味を把握することができなかった。




 しかし、あのようにうつむいている彼女を放っておくなんて僕にはできない。

僕はそんな人を放って大学へ行くような冷たい男ではないのだ。

僕が心配して彼女に声をかけようと駆け寄った瞬間!!


「…………馬鹿めぇ~!!!

貴様はわっちの攻撃範囲に入っているのさ!!!!」


彼女は顔をあげて僕を敵意むき出しの眼で見下してくる。

しかし、攻撃範囲内とはいったいどういうことだ?

まさか、僕の家に伝わる伝説の剣狙った強盗なのか。

そんな……………僕を利用しようとしていたのか。

ショックだった。一目惚れしていた自分を恥じたくなってきた。


「残念でした。わっちは実はロボット掃除機の付喪神なのさ。一目惚れでもしましたか?

さぁ、長男であるあんたを倒して、伝説の剣の場所を自白させてやるわ!!!!」


そんな一目惚れをされていたなんて知らない彼女は自分が付喪神であるということを自白してきた。

なんという事だ。僕は人間でもなく付喪神に一目惚れをしてしまったなんて………。

すると、ショックを受けて落ち込んでいるはずの僕の体がだんだん彼女の方へと引き寄せられていく。

風だ!!!

彼女はロボット掃除機の付喪神という特性で僕を吸い込もうとしているのだ。

彼女の背後に出来た黒い穴が周囲の空気を吸引して風を起こしている。

ああ、僕の体が吸い寄せられていく。彼女のブラックホールのような吸引力は少しずつ少しずつ僕を吸い寄せていく。


「こいつ……………!!!」


「悔しいのか? ほらほら、わっちが貴様の方へ行ってやろうか?

君には聞かねばならぬことがある。」


こいつもか………。

こいつも僕の家で保管されている伝説の剣を狙ってきたのか。


「………ふざけるな。なんで、毎回毎回僕が巻き込まれなきゃいけないんだよ!!!」


───────────────

勝てる。いや、勝った。

この青年。なにもしてこない。

無力な人間だ。わっちとの差を嘆きながら、剣の隠し場所を吐いてもらわなければならない。


「勝ったわね!!!

助かりたければ剣の隠し場所を教えてもらうわ。

おーほほほほ、ねぇ? カメラの付喪神ちゃん、ちゃんとわっちの勇姿を撮影してくれてるかい?」


わっちは馬車から降りると、庭の草を吸い込みながら青年の側へと歩き始めた。

これから、わっちは青年を慰めて優しく剣の隠し場所を聞く……と思っているのか?

いや、違う。わっちがこれから行うのは拷問だ。奴の腕を掴んで、わっちの背後にあるブラックホールに吸い込んでやるのさ。

さすがわっち、悪の塊。付喪神界のダークホース。

これは別にブラックとダークをかけたわけではない。

さて、わっちはゆっくりゆっくりと青年のもとへと近づいていく。


「さぁ、腕を失いたくなければ剣の隠し場所を教え…………」


ズボッ……!!!


「ふぇ?」


突然、わっちの耳に聞こえてきたのは、謎の音。

まるで地面が消えたような、落とし穴にハマったような音。

そして、わっちが見下していたはずの青年の姿を見上げている。

あれ? いつの間にわっちは落ちていたァ?

地面に落ちていく。


「ああ、それは対魔界用殺害落とし穴(¥350+税)だよ。

魔界の生物に反応して作動する罠なの。

勇者を補助する家系なめんな!!」


遥か上の地上から、青年の声がこだまして聞こえてくる。

落ちていく。わっちの体が落ちていく。

悔しい。あと少しで葛木から剣の隠し場所を聞き出せたというのに………。


「覚えてろよ葛木!!!

おや? 古い血の匂いと鉄の匂いがかすかに匂ってくるのです?」


わっちが下を見ると、落とし穴の底にはたくさんの武器や剣の残骸が、刃を上にして設置されていた。

かすかに血が残っていたり、骸骨などが散らばっていることから、きっとわっちのようにここに落とされた先人達がいたということだろう。


「なるほど、わっちもあの髑髏のように身体に刃が突き刺さり死ぬんですね~。」


ああ、これが最後の時。わっちの敗因は負けることを計算にいれていなかったことか。

どうせ死ぬなら、最後に辞世の句でも遺して逝きましょう。


「我が敗けは 悪の定めと聞きしけば………アグギギャァァァァァァァァ!!!」


彼女の断末魔は3秒ほど落とし穴内で木霊して静かになった。

結果発表!!!


・イクナの挑戦失敗


・葛木の一目惚れ失敗

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