プロデューサー、異世界行くってよ 《短編版》
「次、『ウラヌス』の皆さん、ステージにお願いしまーす」
スタッフのお姉さんの声に「はーい!」と大きな声で返事をし、俺は目の前に立つ少女たちの顔を見つめる。皆緊張しているのか、表情がぎこちない。それは当然だろう。なんせ、彼女達にとってこれが初めてのステージでのライブだ。緊張しない方がおかしい。
そして、そんな彼女たちの緊張をほぐすのは、プロデューサーである俺の仕事だ。
「ミナミ、マイ、ユメ、ハナ、メグミ。お前達なら絶対にやれる!! 観客席に、お前らという核爆弾を撃ち込んでこい!!」
「いやいや、核爆弾撃ち込んじゃダメでしょ!!」
大袈裟なガッツポーズと共に彼女たちを激励すると、リーダー格のミナミが鋭いツッコミを入れてきた。そのおかげで、他のメンバーの顔にも自然な笑みが浮かぶ。うん、本番前に程よく肩の力が抜けたみたいだな。
「よーし、頑張るぞ~!!」
「全力でいこう!!」
「が、がんばります!!」
「ちゃっちゃとライブ終わらせておやつ食べたい⋯⋯」
うん、皆気合いは十分だ。メグミだけおやつのことを気にしているけれど、あれはいつものことだから大丈夫。むしろ、この状況でマイペースで居られるのは心強い。
「いいかお前ら。ステージの上には俺は付いていけない。けれど、ステージの裏からお前達のことをずっと見守っている。だから心配するな!! いつものレッスン通りにやれば絶対に大丈夫だ!!」
「へへっ。プロデューサーが見守ってくれるんなら百人力だね。よーっし、皆、初めてのステージライブ、楽しんでいこー!!」
「「「「おーーーー!!!!」」」」
そして、彼女たちはステージへと飛び出していった。自信満々にあんなことを言ってた俺だが、内心ではかなりドキドキしていた。しかし、その心配は余計だと言わんばかりに、リーダーのミナミの力強い歌声が観客席中に響き渡る。
彼女たちの歌声に合わせ、観客がペンライトを振り、拍手を打ち鳴らす。それは、初めてのステージライブにおいては大成功と呼ぶに相応しい盛り上がりだった。
自然と目頭が熱くなる。観客と一緒に拍手をしながら、俺はここまでの道筋を思い返していた。
始まりは、ミナミを街でスカウトした時だ。そこから1人1人、地道なスカウト活動でメンバーを増やしていき、この5人のメンバーが揃った。ハナをスカウトする時は両親の反対が凄くて大変だったな。何度も頼み込んでようやく認めて貰えた時は嬉しかった。
プロデューサーである俺にとって一番の喜びは、俺がプロデュースしたアイドルが笑顔になることだ。そして、俺の夢は、彼女達の歌と踊りで世界中を笑顔にすること。そのためならどんなことだってしてみせる。この初のステージライブは、まだまだ彼女たちにとってのスタートに過ぎない。これから先もずっと彼女達が笑顔で居られるように、俺ももっと頑張らなくてはいけないな。
そうやって1人決意を新たに顔を上げた、その時だった。俺は、ステージの真上に付けられた照明がグラリと揺れたのに気が付いた。それに気が付いたのは、偶然か。はたまた運命か。とにかく俺は、考えるより先に足を動かしていた。背後からスタッフの制止の声がかかるが、止まらない。俺の目の前には、落下する照明と、その真下に立つミナミが見える。
「間に合えーーー!!!」
俺の叫び声に反応したミナミが、こちらを見て目を丸くする。そんなミナミの体を慌てて抱きかかえ、俺はミナミを守るようにしてその上に覆い被さった。
その直後、頭部にもの凄い衝撃が走った。俺の頭の上でワンバウンドした照明は、ステージの床に落ちガッシャーン! と音を立てて壊れる。
「「「「プロデューサーさん!?」」」」
マイとユメとハナとメグミが、俺を呼ぶ声が聞こえる。しかし、俺は頭が痛くて彼女達の声に応えることが出来ない。なんだか意識も徐々にぼんやりとしてきた。
「ぷ、プロデューサーさん? あ、頭から血が⋯⋯!! やだ⋯⋯やだ、死なないでよプロデューサーさん!!」
ミナミが俺の頭を抱きかかえて泣き叫んでいる。おい、そんなことしたら折角の衣装が血で汚れるじゃないか。クソ、注意したいのにもう声を出す気力がない。俺は、ここで死んでしまうのか⋯⋯? まだ、彼女達のことを支えていかなきゃいけないのに。俺たちの夢は、まだ始まったばかりなのに。
「す、すまない。俺はもうここまでみたいだ。ミナミ、あいつらのことは、お前に任せた、ぞ⋯⋯」
「やめてよプロデューサー!! そんなこと言わないでよ!! いつもみたいに馬鹿なこと言って皆を笑わせてよぉ!!」
ああ、ダメだ。俺は、お前達の笑顔が見たくて、プロデュースをしていたのに。最後の最後でアイドルを泣かせるなんて、俺はプロデューサー失格だな⋯⋯。
ミナミ達が俺を呼ぶ声が、徐々に遠くなっていく。瞼が重い。俺は、きっともうすぐ死ぬ。やり残したことだらけだっていうのに。
もし、もう一度チャンスがあるのなら⋯⋯。今度こそ、アイドルを絶対に泣かせたりしない。そして、やり残した夢を、必ず叶えてみせる。
最期にそう決意した俺は、ゆっくりと目を閉じた。これは、きっと永遠の眠りだと思いながら。
――しかしながら、開くはずのない瞳は再び開かれた。その目が見たのは、さっきまで倒れていたステージの上ではなく、何もない真っ白な空間だった。
そして、目の前には、仰向けで倒れる俺の顔を覗き込むようにして顔を近づけている、金髪の美少女が居た。
『お、ようやく目覚めたかね、君。全く、無駄に想いが強い者は困る。また私の仕事が増えてしまったではないか』
「あの、貴女は一体⋯⋯? そして、ここはどこでしょうか。もしかして病院ですか?」
『馬鹿者。私の格好をよく見ろ。どの時代にトガを着て治療をする医者がいる。お前は死んだのだ。そして、神である私の元へとその魂が送られてきた。ここは、言うなれば天国と現世のちょうど中間地点といったところだな』
一瞬、自分は助かったのかと淡い希望を抱いたが、どうやら俺はあの時死んでしまったみたいだ。クソ、いくら命を助けるためとはいえ、目の前で俺が死ぬのを見た彼女たちには一生トラウマが残ってしまうかもしれない。やっぱり俺はプロデューサー失格だ。
『それだよ、君。死んでもなお自分ではなく君の育てたアイドルたちのことを考える、その想いの強さ故に君はここに連れてこられたのだ』
「? どういうことでしょうか?」
『お前の世界には「地縛霊」という概念があるだろう? 深い後悔を残して死んだ者はその魂がいつまでも現世に残り続ける。そういう魂は実際に存在するのだが、近年その数が増えすぎていてな。恐らく原因は過労死や自殺で死ぬ者が増えたことだろう。そのせいで、現世では地縛霊の数がキャパオーバー寸前なのだ』
「地縛霊のキャパオーバー」
『うむ。そのため、地縛霊の中でも比較的まともな魂の者を異世界へと送ることが神々の定例会議でつい50年前に決定してな。ほら、最近流行っているだろ? 異世界転生とかいう奴。あれだ』
「名前は聞いたことがありますが、生憎そういった作品を読んだことはありませんね。アイドルのことだけを考えて生きてきましたので」
『まあ、複雑なことではない。ただ単に別の世界で生まれ変わり第二の人生を送れるというだけだ。ちなみに転生パターンは選べるがどうする? 1つは、赤子からやり直すパターン。こちらのメリットは、バブみを感じてオギャれる点と、淡い青春時代をやり直せる点だな。もう1つは、今より少し若返った身体でランダムな地点に召還されるパターン。こちらのメリットとしては、やりたいことをすぐやれる点と、赤子時代の羞恥を味わわずに済む点だな。君はどちらを選ぶ?』
「後者の方で」
迷うことなく即決だった。生まれ変わっても俺がやりたいことはただ1つ。アイドルをプロデュースすることだ。死の間際に決意したように、今度こそアイドルを絶対に泣かせることがないようにする。そして、世界中を笑顔にするという果たせなかった夢も必ず叶えてみせる。
赤子から成長するまでの時間を待つことなどとても出来ない。死んでもなお、この決意の炎は胸の奥で激しく燃え上がっているのだから。
『うむ、その心意気やよし! しかし、君のその希望を果たすには、今の君では少々力が足りないだろう。なんせ、君がこれから転生しようとしているのは、剣と魔法のファンタジー名世界なのだからな』
「魔法が使えるのですか!! アイドルのパフォーマンスの幅が広がりますね!! プロデュースしがいがあります」
『⋯⋯とことんアイドル脳だな、君は。しかし、そこまで一途だと逆に気持ちいい。よし、本来、転生者に授ける恩恵は、言語翻訳機能と1つの特殊な能力のみと定められているのだが、特別にもう1つ特別な能力を授けてやろう。このカタログから欲しい能力を2つ選ぶがいい』
そう言って神が渡してきたのは、広辞苑が薄く見えるほど分厚い本だった。ゆっくりと選んでいいと言われたので、俺はその言葉に甘えてゆっくりとカタログに目を通していく。
しかし、物心ついた時にはアイドルの虜となり、成人してからはプロデュース業に専念していた俺は、ろくにゲームすらしたことがなかった。そのため、どんな能力が良いのかがよく分からない。
「そんなわけで神様、なにかおすすめの能力はありますか?」
『おすすめの能力と言われても、選ぶ者によって欲しい能力は異なるものだ。君はどんな力が欲しい? なりたい自分を強く念じて、目を瞑ってみろ。そうすれば、本が君の意志に応えてくれるはずだ』
なりたい自分、か。俺がやりたいことは、やはりプロデューサーだ。しかし、プロデューサーとして必要な技能は既に身につけている自信はあるので、今更欲しいとは思わない。
それならば、俺が欲しい力は⋯⋯!
『ほう、『パーフェクトボディ』と『マスタートレーナー』を選んだか。『パーフェクトボディ』は、決して傷つくことがなく、疲労を感じることもないまさに完璧な身体を得る能力。『マスタートレーナー』は、他人の指導をすることに長けた能力⋯⋯。なるほど、自分に足りない力を選んだというわけか』
「はい。この2つの力があれば、俺はアイドルを守り、またプロデューサーだけでなくトレーナーの役割も果たせると思います」
『よろしい!! それでは、新たな世界へと旅立つ強き魂よ!! お前の第二の人生に、大いなる幸あれ!!』
神が両手を高々と上げると、何もない真っ白な空間にぽっかりと大きな穴が空く。俺の身体は、たちまちその穴の中へと吸い込まれていったのだった。
――こうして、俺は異世界へと転生した。そこからは、まさに怒濤の日々だった。
まず、異世界に来て早々森の中に召還された俺は、その森の中でエルフの少女、ジャスミンと出会った。
ジャスミンは生まれつき目が見えないせいで他のエルフたちから迫害されており、森の中の小屋でひとりぼっちで暮らしていた。しかし、そんな彼女の歌声はとても素晴らしく、彼女が歌うと精霊達が自然と傍に集まってくるほどだった。
彼女の歌声に一目惚れした俺は、初対面で名刺を渡し、スカウトを試みたが当然断られた。しかし、その後も諦めずに何度もスカウトを繰り返し、何とかジャスミンをスカウトすることに成功したのだった。
ちなみに、その過程で彼女の仲間達の村を襲ったドラゴンを倒したりしたが、それは些細なことだ。俺よりも、歌で精霊に呼びかけて村人を癒やした彼女の方がよっぽど素晴らしい。その一件のおかげで、ジャスミンは村人に認められるようになったことは本当に喜ばしいことである。
村人に受け入れられたジャスミンを俺の勝手な願望で連れて行くのは可愛そうかと思い、一時はスカウトを諦めたが、彼女は俺についてきてくれた。今では、立派なセンターボーカルだ。
次に出会ったのは、公爵令嬢のメリディエース・ポワロだ。通称メリィ。庶民でも参加可能なダンスパーティの会場にジャスミンと一緒に参加し、ダンスのレッスンをしようと考えていた俺たちは、そこで一際存在感を放っているメリィと出会ったのだ。
メリィは、その佇まいから動きまでが、とにかく洗練されていた。他の令嬢達に比べても、彼女だけはそのレベルが段違いだった。
あそこまで動きを洗練するのには、相当な努力が必要だったろう。そう思った俺は、ジャスミンが慌てて止めるのも聞かず、半ば反射的にメリィへと名刺を手渡し、スカウトを試みていた。そして、牢屋に捕まってしまった。
考えずに動きすぎた、後でジャスミンに叱られるだろうなぁ⋯⋯。などと牢屋の中で1人反省していると、なんとメリィがこっそりと俺の捕まっている牢屋へとやって来た。彼女曰く、貴族に対して全く動じることなく意味不明な行為をした俺のことが気になったそうだ。
なので、俺はここぞとばかりに彼女へのスカウトを再開した。アイドルの魅力を余すことなく伝え、是非アイドルになって欲しいと頼んだのだ。
「君のその洗練された動きは、絶えまぬ努力の結晶だ。プロデューサーの俺にはそのことが良く分かる。努力は絶対に裏切らない。アイドルとは、努力が必ず実を結ぶ職業。まさしく、君にピッタリだ!!」
俺のその言葉が響いたのかどうかはよく分からない。しかし、後日、婚約者だった王子に婚約破棄されたとやけにすっきりした表情で語った彼女は、俺たちと一緒にアイドルをすることを約束してくれた。今では、彼女は誰よりも努力するリーダーとしてメンバーを支えている。
それから、俺はさらに3人の少女をスカウトすることに成功した。
3人目は、とある国の王国騎士だったカタリナ・ワルツだ。幼少期から騎士として育てられた彼女は、女性らしく見られないことに悩みを抱えていた。俺は、そんな彼女の父親に決闘を申し込み、何とか彼女をスカウトすることに成功した。
カタリナには、その体幹の強さとスタイルの良さから、ダンスリーダーとして頑張って貰っている。若干天然タラシなところがあり、行く先々で女性ファンを増やしているが、それは彼女の個性という奴だろう。
4人目は、シルキーと呼ばれる種族の少女、グラースだ。シルキーというのは、衣服を作ることに非常に長けた種族であり、彼女はその能力を欲した心ない人間によって奴隷にされていた。
彼女をスカウトするために、俺は奴隷商人の本拠地に殴り込み、奴隷魔術の解除方法を聞き出すことで何とか彼女のスカウトに成功した。そのせいで奴隷商人に追われることとなってしまったが、今では彼らも俺のスカウトしたアイドル達の立派なファンになっている。
ちなみに、グラースにはコスチュームを作って貰っている。勿論、アイドルとしての活動もして貰っているが、彼女のおかげでよりアイドルらしくなることが出来た。スカウトして本当に良かったと思っている。
最後のメンバーは、ドワーフの少女、ソーンだ。彼女に関しては、スカウト自体は非常に簡単だった。名刺を渡してスカウトを試みたところ、1発でOKしてくれたのだ。活発で明るい彼女が加わったことによって、メンバー全体の雰囲気がさらに明るくなった。
しかし、実は彼女は、魔王軍のスパイだったのだ。5人での初めてのステージライブを行おうとしたその日、彼女は本性を現し、俺たちに襲いかかった。どうやら、魔王は行く先々でファンを増やしながら魔王の住む魔界へと近づいている俺たちのことを、勇者のパーティだと勘違いしたらしい。そこで、魔王城へたどり着く前に始末してしまおうと、ソーンを潜り込ませたのだ。
幸い、俺は何とかソーンの攻撃からアイドルたちを守ることに成功した。しかし、正体を明かした彼女は、俺の元から去り、魔王の元へと帰って行ってしまった。
普通なら、彼女のことは忘れて新しいメンバーを探した方が良かったのかもしれない。しかし、俺にとってソーンは既に守るべき対象、プロデュースすべきアイドルだった。
俺は、ソーンを再びスカウトすべく、ジャスミンやメリィの反対を押し切り、単身魔王城へと乗り込んだ。そこで、俺はソーンが魔王の娘だということを知る。そして、ソーンが俺たちを襲ったのは彼女の意志ではなく、魔王に命令されてのことだったということも改めて知った。ソーンは、ごめんなさいと何度も謝りながら泣いていた。
そんな彼女を見た俺の胸には、かつて無い程の怒りが湧き上がっていた。それは、魔王に対しての怒りではなく、アイドルをまた泣かせてしまった自分自身に対する怒りだった。俺は、ソーンの笑顔を取り戻すべく、魔王と戦うことを決意した。
しかしながら、流石は魔王。神によって決して傷つくことのない身体を与えられた俺だったが、呪いにより身動きを封じられ、魔眼の力で石へと変えられるところまで追い詰められてしまった。
ああ、またしても俺はアイドルの前で死んでしまうのか⋯⋯。そう思い目を閉じた、その時だった。
「――精霊たちよ、我が唄に応え、彼の者を癒やしたまえ、『完全回復』!!」
すっかり聞き慣れた美しい歌声と共に、光が俺の身体を包む。すると、石に変わっていた俺の身体が元に戻り始めた。
「ジャスミン!? どうしてここに居るんだ!?」
「全く、プロデューサーさんはいつも私の話を聞かないんですから。私は、貴方の行くところならどこへでも着いていきます。⋯⋯それに、私だけではありませんよ!」
ジャスミンが指さす方向を見ると、そこでは剣を持ったカタリナと、魔法の糸を操るグラースが、魔王の動きを必死に封じ込めている最中だった。
「ははっ! 久々にマイクではなく剣を握ったが、あまり腕は衰えていないようだ!」
「プロデューサーさんに、手出しは、させない⋯⋯!!」
呆然と2人が戦っている様子を眺めていると、ふいに頬をパチンッと誰かに叩かれた。ジャスミンは俺の身体を治しているし、カタリナとグラースは魔王と戦っている。そうなると、残すは1人しか居ない。
「⋯⋯メリィ」
「ふんっ! アイドルを置いて1人でこんなところまで来るなんて、貴方はプロデューサー失格ですわ」
「はは、その通りだな。俺は、プロデューサー失格だ」
「⋯⋯けれど、アイドルを決して見捨てないそんな貴方だからこそ、こうして皆ついてきたのですわ。貴方はよく、自分の仕事はわたくしたちを守ることだと仰いますけれど、わたくしはそうは思いません。アイドルとプロデューサーは、一心同体。共に支え合い、成長していくもの⋯⋯そうではなくって?」
メリィのその言葉は、俺の胸にストンと落ちてきた。確かに、その通りだ。俺は、アイドルを守ると言っておきながら、今こうしてその守るべきアイドル達に守られている。転生前も含めれば数十年間プロデューサーをしてきて、今更こんな大切なことに気が付くなんて、俺にはプロデューサーの才能が無かったのかもしれない。
それでも、俺は彼女達のプロデューサーだ。そんな俺が、今一番しなければいけないことは、一体何だ?
その答えを確かめるために、俺は改めて名刺をポケットから取り出し、1人泣き崩れていたソーンの元へと歩み寄る。そして、両手で持った名刺をビシッと差し出し、お決まりの台詞を言う。
「君には、アイドルの才能がある。俺に、君をプロデュースさせてくれないか?」
――さあ、終わらなかったステージライブの続きをしよう。会場は、魔王城。観客は、魔王とこの俺だ!!
ゾンビランドサガ、いいですよね