第7話 新しいメイド
今日も鳥の鳴き声で目が覚めた。
2日連続でこんなに早く起きたのは、中学校の部活での遠征の時以来だと思う。
ここら一帯の木を伐採すれば少しは鳥もいなくなるかな?
自室を出て居間へ向かう。
すると、何故か話し声が聞こえてきた。
「いいですか、カトル。あなたが来たのはマスターの悩みを取り除くのが理由であって、決して私の料理を食べに来たのではありませんからね?」
「はーい。でもねー…、私でも魔力の底が見えない人に魔法教えるなんて出来るかどうかわからないよ?」
「そうですか。その場合は出来るまであなただけ断食となりますね。」
「死に物狂いで教えますのでそれだけはご勘弁をッッッ!」
2人いるようだ。
1人はコーラスのようだが、もう1人の活発そうな声は誰だ?
そう思って居間に入ると、コーラスの前に一人の少女が土下座していた。
さっきの会話の内容から察するに、この娘が活発な声の主だろう。
「マスター、おはようございます。」
「うん、おはよう。で、…その娘誰?」
「あぁ、申し訳ございません。この娘はカトルといいます。カトル、ご挨拶を。」
コーラスがそういうと、土下座していた少女は立ち上がった。
見た目は15歳ぐらいで、コーラスと同じようにメイド服を着ていて、赤い髪はボブになっている。
「どうもおはようございます!私はカトルです!今日から魔法を教えることになったのでとりあえずよろしくっ!」
だいぶグイグイくる娘だ。
その様子を見ていたコーラスがカトルに向かって言い放つ。
「この様子だとおそらくだんじ…」
「貴方様に全力で魔法をお教えさせていただきますカトルです!どうぞよろしくお願いします!だから、なにとぞ断食はご勘弁を!」
凄い剣幕でカトルは迫ってくる。
どんだけこの娘食に貪欲なんだよ。
「はぁ…マスター申し訳ございません。」
「いや、全然いいよ。それより、魔法を教えてくれるってことはカトルが昨日言ってた案ってのは…。」
「はい、この娘のことです。第一印象はこれですが、魔法の扱いに関しては一流です。魔力のコントロールについても大丈夫かと思われます。」
「えーと、カトル、よろしくね。」
「はい、よろしくお願いします!」
とても元気な娘だ。
コーラスが思い出したように言う。
「それでは紹介も終わりましたし朝食としましょう。マスター、今日もお出かけになられますか?」
「うん、せっかくカトルが来てくれたんだし、昨日と同じところで練習するつもりだよ。」
「わかりました、それでは2人分のお弁当も同時に用意しましょう。時間がかかりますので少しお待ちください。カトル行きますよ。」
「はいはーい。」
こう見ていると姉妹みたいだな。
少し時間がかかるといっていたし、今のうちにいつ覚えたのか不明だった魔法の説明でも読むことにする。
「ステータスオープン」
昨日と同じようにウィンドウが開いた。
スキルの欄にある【結界魔法Lv.1】の表示に触れると説明欄が開かれた。
【結界魔法Lv.1】・・・指定した場所、もしくは自身の周りに結界を張る。結界は耐えられる限度の衝撃が蓄積されるまで、もしくは術者の解除の命令があるまではあり続ける。強度は消費魔力量とレベルによって変わる。より多くの魔力を注げば強度は増す。
まんま結界を張る魔法のようだ。
防御中心の魔法だな。
残りは【空間魔法】と【時間魔法】。
【空間魔法Lv.ー】・・・この世界とは違う次元に新しく空間を作る。消費魔力量は多い。空間が大きくなればなるほど消費魔力量も増える。レベル無し。
【時間魔法Lv.ー】・・・指定した物の時間を自分の思う時間まで巻き戻す、もしくは時間を進める。巻き戻せば元どおりになり、進めれば古くなる。生命も可。レベル無し。
【空間魔法】は【亜空間収納】を自分で作り出せるような感じだな。
カバンなどに付与出来れば簡易異空間の完成だ。
【時間魔法】、これは恐ろしい。時間を巻き戻せるだけでなく進めることもできる。
しかも生きているものでも可能ときた。
コレ生命体に使ったらどんどん朽ちていくんじゃないか?
いや、そんなことしないけどね。
本当に恐ろしいのは巻き戻しだ。
死体に使えば死者を蘇らせることが出来る。
もしそんなことをしたら、禁忌に触れたとか言って足とか持っていかれないだろうか。
まぁ、俺には【超再生】があるからそれは大丈夫だ。(大丈夫ではない)
コレが他の人に気づかれたら。
そうなれば俺はその国の軍隊のために死者蘇生をし続ける人形と化してしまう。
そうならないためにも【時空魔法】はしばらく封印だな。
何か大切な物が壊れた、もしくは身内に何かあった時だけ使おう。
「シドさーん、朝食できましたよー。」
「わかった、今行く。」
ひとまずウィンドウを閉じてテーブルに着き、朝食を始める。
カトルは俺と一緒に食べた。
どうせならということでコーラスも誘うと、
「いいのですか?」
と、聞いてきた。
「いいも何も多くで食べた方がいいだろう?」
と、答えるとコーラスは俯いてテーブルに着いた。
何故かコーラスの横に座るカトルはそれを見てニヤついている。
なんか恐怖を感じる。
豪華な朝食を食べ終えて、俺とカトルは出かける。
カトルが弁当を持つと言ったので【亜空間収納】に入れるように言うと、
「うわぁ、シドさんインベントリ持ちですか!」
「これって珍しいのか?」
「えぇ、とっても。確か商人の人は容量が小さくても重宝すると聞きました。」
確かに商人なら少しでも多く荷物を運べる方がいいだろう。
俺の【亜空間収納】は容量に制限が無いから他の人の前では使わない方がいいだろう。
商人に捕まって仕舞えばただの荷物持ちにもなりかねない。
…何でだろう?
どうしても悪用面に考えが向く。
「シドさん、早く行きましょう!数十分はかかるんでしょう?」
カトルが急いだように言う。
「あぁ、大丈夫だよ。すぐに着くから。」
「どう言うことですか?」
首をかしげるカトルに腕をつかませる。
「しっかり握っててね。」
「何をするんですか?」
「こうする。【瞬間移動】」
一瞬フワッと浮いたかと思ったら目の前は昨日の平原だった。
うん、成功。
「………。」
カトルがこっちを呆れたように見てくる。
「【インベントリ】だけじゃなくって【テレポート】も使えるんですか?しかもこんな長距離を。」
「なんか変?」
「こんなこと言うのもなんですけど、かなり変です。【テレポート】自体希少なスキルです。普通の【テレポート】なら見えている範囲にしか移動できません。それを見えていない、こんな遠くにまで移動出来るなんておかしいです。」
「そうなのか…。」
【瞬間移動】も封印かな…。
「あ。」
「どうしたんですか?」
「杖忘れた。」
「無くても大丈夫なのでは?」
「いや流石に不安だし、取りに帰ってくる。そこの小屋の中で待ってて。」
そう言い残し俺は家にテレポートした。
コーラスは掃除をしていた。
突然現れた俺を見たコーラスが驚いて言う。
「どうかされたのですか?」
「いや、杖忘れてたから取りに帰って来ただけ。」
「そうですか。カトルは失礼をしていないでしょうか?」
「大丈夫だよ。」
「しかしマスターのことをシドさん、などと。」
「街に出たら嫌でも名前で呼ばれるからね。今のうちから慣れとかないと。」
「そうですか、ならわかりました。しかしあの娘はこう、何というか…。」
「どうかしたの?」
「はい、興味のあるものにはすぐ手を出してしまうので手綱を握るのが大変なのです。」
コーラスお姉さんは妹に苦戦しているようだ。
杖を取り、【瞬間移動】の準備をする。
「それじゃあ行ってくるよ。」
「改めて、行ってらっしゃいませ。」
そう言ったコーラスを残してテレポートする。
平原に着くなり、俺はさっきのコーラスの言葉を理解した。
「興味のあるものにはすぐ手を出してしまう。」
先に言っておくべきだった。
俺の目の前では大太刀を持ったカトルと、黒光りし、口からイナズマを放っている巨大なドラゴンが激しい交戦を繰り広げていた。