第6話 原因発覚
穴の空きまくった平原から帰るとコーラスはもう夕食の準備をし終わっていた。
「おかえりなさいませ。」
「ただいま。」
少し早いが夕食を終える。やっぱりコーラスの料理は美味い。
「なぁ、ちょっと教えて欲しいことがあるんだけど…。」
「?お教えできる範囲でよろしければ。」
「実は今日魔法の練習をしてきたんだけど………」
初級魔法が起こした災害のことを伝えると、コーラスは納得したように頷いた。
「昼間の落雷はマスターのものでしたか。晴れているのに雷が落ちるなんておかしいと思っていたのですが、そういうことでしたか…。しかし、蒼い雷ですか…。」
「魔導書の通りにやったんだけど、初級魔法でもあんな馬鹿げた威力が出るのか?」
もしそうなら絶対魔法だと世界ごとなくなるんじゃないか?
少し考えたコーラスが言う。
「おそらく魔力の流れをコントロールできていないのだと思います。どんなに理解できていて原理がわかっていても、基礎ができていないと暴発だってします。しかし、私は見ていないのでわかりませんが、初級魔法で落雷が起きる、というのは確かに異常ですね…。」
「やっぱりそうだよなぁ…。」
手元にある魔導書をパラパラとめくりながら考えを巡らす。
結果、この魔導書はおかしくなく、おかしいのは俺だということになった。
コーラスが思い立った様に言う。
「一度ステータスを見せていただいてもよろしいでしょうか?私も【鑑定】のスキルは持っていますので。」
「あぁ、別にいいけど。」
【鑑定】を発動したコーラスが俺を見ている。するとコーラスが驚いた様な表情をする。
「原因がわかったかもしれません。」
「本当か?」
「えぇ、おそらく…。念のため聞かせていただきますが、こちらに来てから自身のステータスは確認されましたか?」
「イヤ…そういえばしてなっかた気がする…。」
確かに、ヘスティアの前で確認して以来見ていない。
「俺のステータスがどうかしたのか?」
「おそらく見れば原因がわかるかと…。」
「?わかった。」
気まずそうに言うコーラスの言う通りにステータスを開く。
「ステータスオープン」
前と同じようにステータスが表示される。イヤ、正確には色々と違った。
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シド・テンペスト・シリウス(Sid・Tenpest・Sirius)Lv.1
年齢:16
種族:人間
性別:男
魔力:ERROR
速:20km/s
攻:100
守:100
スキル :【超再生】【言語翻訳】【マップ】【亜空間収納】【完全記憶】【再現】【強化学習】【全属性耐性】【瞬間移動】【創造】【進化】【武術Lv.1】【格闘術Lv.1】【全属性魔法Lv.1】【結界魔法Lv.1】【空間魔法Lv.ー】【時間魔法Lv.ー】
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絶句した。
●発覚したことリスト
•俺のこれからの名前はシド・テンペスト・シリウス
•この世界にはHPは存在しない
•俺の魔力はエラー級
•どうなるのかわからないがMAX秒速20kmで走れる
•いつ覚えたのか知らないが結果魔法が使える
•いつ覚えたのか知らないが空間魔法が使える
•いつ覚えたのか知らないが時間魔法が使える
もうこの際名前とかHPがないとかどうでもいい。
魔力:ERROR、ってなんだよ。俺はバグってんのか⁉︎
最高速度秒速20km=マッハ210!
もれなく周囲は吹き飛ぶぞ⁉︎
教師やってて暗殺対象の黄色のタコの約10倍の速さだぞ?
あと、結界魔法、空間魔法、時間魔法いつ覚えた?
そんなん魔導書に書いてあったか?
「…あの…コーラスさん?これは普通ですか?」
「これが普通だと既にこの世界は崩壊しているものかと思われます。」
あ、若干コーラスさん呆れてる。
そりゃこんなぶっ壊れステータス見せられればこんな反応するわな。
「初級魔法であの威力になるのも、魔力のコントロールができないのも、おそらくコレに影響されてのことでしょう。」
「じゃあどうしたらいいの……。」
元々これなんだからどうしようもないのか?
「…私にいい案があります。」
「どんなの?」
「魔法についてお教えする者を呼びましょう。」
「どこから?」
「上からです。」
上、というとヘスティアのいる神界のことだろうか?
「そんなことできるの?」
「はい、後で連絡を取っておきます。」
「ありがとう、コーラス。」
これでどうにかなりそうだ。
コーラスが頼むのなら変な奴ではないだろう。
コーラスを見ると、何故か顔が赤い。
「?どうした?」
「いっ、いいえ。きっ、今日はもうお眠りにになってはどうでしょうか?」
「?あぁ、そうするよ。おやすみ。」
「おっ、おやすみなさいませ…」
変なコーラスを残して俺は自室へと向かう。
確かに今日は色々あったせいで疲れた。
もう寝よう…。
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コーラス視点
マスターが自室へと戻っていく。
そんな背中に「どうしたもこうしたもあるかっっ!」と言いたくなってしまう。
あんな優しい顔でお礼を言われればばどうやっても顔ぐらい赤くなってしまう。
こんなことを言ってはなんだが、鈍いマスターでよかった。
なんとか気付かれずに済んだ。
マスターが自室に戻ったのを確認してから、神界へと通信をつなぐ。
相手はコーラスの創造主、ヘスティアだ。
繋がると目の前のウィンドウにヘスティアが映し出された。
「はーい、どうもヘスティアです。どうかしたの?コーラスちゃん?」
「少しお聞きしたいことと頼みが。」
「何かな何かな?」
こうして見ていると、神界にいたヘスティアとは全く違うので、別人では?、と疑いたくなる。
「マスターの件で御相談があります。」
「涼太くん、いや、シドくんに何かあったの?」
「はい。今日マスターは家を出て、ヘスティア様が作られた杖を持って魔法の練習へと行きました。私は家にいたのでどうなったのかは知りませんが、帰ってくると、「初級魔法で災害が起こった。」と聞かされました。聞く話では雷属性の初級魔法で落雷を引き起こしたそうです。しかも蒼い雷を。その他全ても自然災害級の被害が出たと。もちろん初級魔法で、です。その後原因を見つけるためにマスターのステータスを見ると、魔力の欄にはエラーとありました。速さの欄には秒速20kmとありました。蒼雷から始まり、魔力欄のエラーといい、秒速20kmといい、一体どういうことですか?」
「え、ちょ、ちょっと待って、蒼雷?本当に?蒼色の雷?」
「はい、私も見えました。光の都合でそう見えただけかと思いましたが、マスターの話を聞いて確信が持てました。もしマスターが蒼雷を操ることができるなら、これは早急に対処しなければなりませんよね?」
「…どうしよう…。l
ヘスティアが頭を抱え、冷や汗をかいている。
「あと魔力と速さもです。どうされるおつもりですか?」
「本当にどうしよう………!」
ヘスティアの顔が青くなってきた。
ダウン寸前だ。
そろそろ助け舟を出そう。
「そこで提案なのですが…」
「何かいい案でもあるのッッ?」
すごい勢いで食いついてきた。後ずさりしながらコーラスは提案する。
「カトルをこちらに寄越してください。あの娘なら魔力のコントロールや、気をつけることについてなど、教えることができるでしょう?そうすれば、もしかしたら蒼雷の一件がバレる前に収めることができるかもしれません。」
「わかったッッ!早速言って明日の朝にはそっちに着かせる!」
「よろしくお願いします。それでは。」
「うんっ、じゃあねっ!」
そういって通信は切れた。
これでマスターの悩みも解決するだろう。
カトルには悪いけど、こちらで頑張ってもらおう。
嫌がったら何かを作ってあげればいいだろう。
餌付けと同じ容量でいける筈だ。
さて、それでは我がマスターのために明日の準備をしよう…。