第48話 ドヤ顔クラッシュ
リッカの合図で試合が始まった。
とりあえずは様子見、と向こうは思っているのだろう。
杖をこちらに向けたままこちらを見ている。
はぁ、めんどくさい。
「杖無しで私と戦う気ですか?舐められたものですね。」
「当たり前だろ。実力差思い知れ、天狗少女。」
舐めてる舐めてないの話を切り上げて早速ノーモーションで5つほど【火球】を打ってみた。手加減できるようになったおかげで安心して使える。
結果としては、たしかに【火球】は当たった。
しかし、リーパにではない。
リーパの前に展開された結界に当たったのだ。
いやね?まぁ〈絶壁〉なんて呼ばれてるし多分そうだろうなとは思ってた。
ちなみにあちらさんは少しドヤっていらっしゃる。
ガキか?…うん、ガキか。
「ふふっ、驚きましたか?これが私が〈絶壁〉と呼ばれる理由の【結界魔法】です。」
「別に驚いてはいないけど。結界張るしか能がないのかな?と」
この言葉にリーパのドヤ顔が一瞬にして般若面のようになった。
だが、それくらいの般若ではまだまだ序の口だ。
あと今更だけど、二つ名とかモンスターをハンターするゲームみたいだ。
ってかリーパはまぁまぁ怒ったらしく、結界を自分の前面に張ったままこちらへと走って距離を詰めてきた。
なにやら詠唱しているらしいが、「そんなの関係ねぇ」の某よしおスタイルでいかせていただこう。
「ーー光用いて我が矛となれ【シャインジャベリン】」
その体には見合わないような近距離から発射された巨大な光の槍は真っ直ぐこちらに飛来する。
うわぁ引くほど容赦ない。
手を前に出してそのままこちらも結界を張った。
触れた瞬間光の槍は砕け散り、細かい魔力となって宙に霧散する。
その光景を見てリーパは呆けたように口を開けている。
まっこともって愉快愉快。今ならリゾートも作れるほどだ。
……我ながらくだらない。
「い…今のは結界⁉︎どうやって⁉︎」
「どうやって、って…【結界魔法】使ってだけど?使えるのは自分だけ、とか思わない方がいいぞ?」
次こそこちらの番だ。
悪いがその伸びきった鼻は折るどころじゃすませない。木端微塵にしてやろう。ついでに結界魔法の弱点を教えてやる。
足を踏み出すとリーパは後ろにステップを踏んで距離を取ろうとするが一歩で懐に入り込んだ。マモン曰く、【縮地】とか【瞬歩】とかいうらしい。どこぞの死神代行が使ってそうな名称。
とっさに行動に出たのか、リーパは杖の先端でこちらを刺そうとしてきた。
待て、それ先端尖ってるから刺さると痛い、と思うから止めろ。
止めろと思いながらも軽く払っただけで杖を持っていた手は上へと弾かれた。
つまり、攻撃を弾かれたおかげで隙だらけの状態。
これを使うのは何気に初めてだが、さてどうなるかな?
「【反撃必殺】」
真っ直ぐに突き出された右拳はリーパの結界を貫いた。
結界奥にいた本人に当たる前に寸止めしたものの、衝撃波が出たらしく、リーパは後ろへと吹き飛んでしまった。
体制を立て直すことも出来ずにゴロゴロと転がるリーパに更に追撃をかける。
「聖者を貫き射殺して、光飲み込む剣を成せ【黒踊る刃】」
魔力で形作られた何十本、何百本もの細剣がリーパへと切っ先を向けて宙に浮き始める。
わざと結界を張らせる余裕を与えるためにご丁寧に必要のない詠唱までしてやった。
期待通りリーパは先程のよりもさらに厚い結界を張ってきたが、実はこの魔法は囮だ。
結界を張ったことを確認してからすぐに【黒踊る刃】の細剣の一本を残して発動を止め、別の魔法を使った。
「【目眩し】」
直後、左掌の上の野球ボール程度の光球から放たれる強烈な閃光が辺りを照らした。
某サングラスの大佐にとってはトラウマとも言えるほどの光である。
そう、これが結界魔法の弱点だ。
結界魔法は術者の力に合わせて強度が変化する。
それに伴い受け止めきれる攻撃量も増えるわけだが、それとは関係なしに戦闘中における弱点もある。
それこそが視界を奪うほどに光だ。
戦闘中に結界で自分の目に入ってくる光を遮ってしまっては敵の場所を捕捉できない。
故に光は通すように透明の、良くても半透明の結界となるわけだ。
今回はそこを突いて閃光弾のようなことをさせてもらった。
リーパはというと…
「っっ!目がっ!目がっっ〜!!」
と大佐と同じようなセリフを言いながら目を抑えてヨタヨタしている。
なかなかに完成度が高いじゃないか。そこはポイント高いぞ?
まぁ、何はともあれ、こうなったらどうしようもないだろう。
割とゆっくり背後に回り込んでから先程出していた【黒踊る刃】の細剣の一本を首筋へと突きつけた。
「悪いな。やるからにはとことんやる主義なんだ。」
前もってそういってから、リーパ首筋に当てた黒い細剣を手前へと引き抜いた。
一瞬動きが止まったあと、声も出さずに地に倒れたリーパを見てすごい勢いでリッカが走ってきた。
「リーパ!リーパ!あぁ!シド、何をしてるんだ⁉︎」
倒れたリーパの体を揺すりながら懸命に声をかけ続けるリッカ。
それを見て悲鳴をあげるほかの生徒。
「いや、リッカ良く見ろ。血とか出てないし息してるだろ、そいつ。」
「……へ?」
リッカが確認するも、リーパの首筋からは一滴の血も出ていないし、例の断崖絶壁はしっかり上下している。
そうなるようにしたのだから当然だ。
「え?じゃあこれはなんで?えっ?あれ?」
「落ち着け。さっきの【黒踊る刃】はたしかに普通なら確実に今ので命を刈り取れる。今回の場合は俺が内部術式をいろいろと弄って意識だけを刈り取れるようにしただけだ。」
うん、まぁ気絶させるだけなら【パラライズ】使えばいいけどこういう感じのってかっこいいよね。
内部術式を弄る際にはリーヴに協力してもらい魔法の根本である術式を可視化してもらった。
数式のようなものが延々と綴られていたが、そこは【完全記憶】の補助やらなんやらで乗り切った。
「内部術式を弄った⁉︎一体どうやって?外部術式を少し弄るだけでもとんでもなく難しいと言われているのに…」
「え?いや、まぁうん、そこはほら。俺グランテストの宮廷魔導師だし?その辺はさ、ほら。」
自分で聞いていても頭が痛くなる言い草。
語彙力低下とかそういうレベルじゃないだろ、これ。
こんな感じの会話をしていると闘技場がざわつき、なんかおっさんやらおばさんやらなんやらがドタドタと入ってきた。
ちょっと待て、最後尾にいるの黒猫だよな?猫人とかじゃなくて二足歩行の猫だよな?そうだよな?被ってる帽子にはバッチリ赤十字がついてるし、だぼだぼの白衣引きずってるんだが。
先頭にいた小太りのおっさんが顔の汗を拭き取りながら近づいてきた。
やだ、やめて来ないで。加齢臭が…。
「リッカ先生、これはどういうことですか?ニャンシー医師も聞いておられますが?」
「そうですニャ。一体どういうことですニャ?いきなり我輩の部屋に生徒が飛び込んできたと思ったら生徒が斬られたとか言いますのニャ。」
やっぱりお前が医師か。衛生的に大丈夫か?
てかどうやって話してんだよ。
『ケットシーと呼ばれる種族です。彼らは二足歩行で魔法に長けています』
ケットシー…ア◯ルーにしか見えない。
黒い短毛に爛々輝く金色の目。前世の家の近所にこんな猫がいたことを思い出した。
「ニャ?君は…ニャ!学院長が言ってたシドせんせニャね?」
「んぁ?あぁ、そうだけどそれがーー」
「じゃあ大丈夫ニャ!見たところ呼吸してるし血も流れてないのニャ。あと数分もすれば目を覚ますはずニャけど、念のため我輩の部屋のベッドに運んどくニャ。」
後ろのおっさんたちがぽかんとしている。
ニャンシーが手(肉球?)を叩くと闘技場の入り口から大量の猫の大群がやってきて、集合体の背にリーパを乗せると走り去っていった。
なに今の光景。ジ◯リ映画の恩返しで見たことある。
「ニャハハ。不思議かニャ、シドせんせ?今のは我輩の部下の猫軍団なのニャ。統一性、安定性共に抜群のチームプレイで患者を無事に運ぶのニャ!」
えっへん!と胸を張るニャンシー。
医師ならとりあえず様子見に行ってやれよ。
「いや、ニャンシー医師、彼ならば大丈夫、とは?見たところ手に持っているのは黒い細剣ですが…」
「魔力を感じるから魔法で作ったんでしょうニャ。波長的に意識だけを失くさせる類のものですニャ。それに学院長がわざわざ招いたせんせですニャ。いきなり問題起こさないですニャ。……たぶん。」
「いや、起こさないからな?」
たぶん、じゃねぇよ。起こさないから。あと学院長信用するのはやめとけ。
「ニャハハ、わかっているのニャ。まぁこんなところで立ち話もアレだし、とりあえず我輩の部屋に来るニャ。あ、生徒はリッカせんせたちに任せたのニャ。ささ、行くニャ!」
そういうとニャンシーは俺のズボンをクイクイ引っ張りながら闘技場の出口へと向かう。
お前は竜巻か何かか。ほかの奴らぽかんとしてるぞ。最初と顔が変わっちゃいない。
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しばらく歩くとニャンシーの部屋に到着した。
ご丁寧にドアには装飾されて「ニャンシーの部屋」と書かれた板が下げられている。
「じゃあ入るニャ。ニャ、ドアを開けて入って欲しいのニャ。」
そう言うとニャンシーはドアの下にある小さな穴から部屋へと入っていった。
これって俗に言うペットドアだよな。ってか俺がそこから入るわけないだろ。
言われた通りというか、当然というか、とにかくドアを開けて入ったニャンシーの部屋にはキャットタワーやらトンネルやらがいっぱいあり、それに群がるようにしてニャンシーの部下の猫がいた。
あっちを見ても猫、こっちを見ても猫、部屋の隅まで猫、猫、猫。
動物アレルギーを持つ人間から見るとさながら地獄のような部屋。
「ニャ、こっちニャこっちニャ。さっきのリーパさんはここで寝てるニャ。」
呼ばれた方へ行くと何十匹もの猫に囲まれたベッドの上でリーパが寝息を立てていた。
どうやらまだ意識が戻らないらしい。
俺が様子を確認している間、ニャンシーはどこからか煮干しの入った袋を取り出して、「お前たちよくやったニャ!ご褒美の煮干しニャ!」とか言いながらさっきリーパを運んだ猫たちに煮干しをばらまいていた。
お前も食ってんじゃねぇぞ。いや、そんな「お前にはあげないから!」みたいな態度とられてもいらないし。
そして気づくと足元には猫たちが集まって足を動かせる状態ではなくなっていた。
この部屋全部で何匹の猫がいるんだよ…
『この部屋だけで192匹の猫が住んでいます』
192匹…そりゃ学院内に猫がいっぱいいるわけだ。
尚、補足情報によるとここに住んでいない部下も合わせると軽く500匹以上いるとのこと。
単純に怖い。




