星は瞬く
これはショートショート小説です。
やっぱりもう見えないのかな。
暗い夜の学校。
今日は五年生とその保護者とで10時まで星の観察をすることになっている。
今の時刻は9時。
みんなビデオを見ながら教室ではしゃいでいる。
でも僕はそんな気にはなれなくて、こっそりベランダへ出た。
ビューッ・・・
冷たい風が僕の頬をなでていく。
外は真っ暗で、近くの建物の光がポツポツと光っている。
グラウンドもなんだか淋しそうだ。
お昼時にはみんなの明るい声で溢れているグラウンドも、今は暗く静かに息をひそめている。
空を見上げてみる。でも空には分厚い雲が覆い尽くしていて、星なんて一つも見えない。
「もう、ダメなのかな。」
楽しみにしてたのに・・・
そう言って、教室へ戻ろうとした時だった。
「見えるよ。」
「えっ」
声がした方へ振り向くと、誰かが少し離れた所に立っている。
暗くてよく見えない。
でも多分、声からして僕と同じくらいの歳の男の子。・・・だと思う。
「見えるって、星が?」
「そう。」
落ち着いた静かな声。でも、なんだか少し楽しそうな声。
とても不思議な澄んだ声。
「こんなに曇ってちゃ無理だよ。」
「いや、見えるよ。」
「こんなに大きな分厚い雲が、あとたった一時間でなくなるわけないだろ。」
「なんでそう言い切れるの?まだわからないじゃないか。」
「なんでって、無理なものは無理だろ。」
「でも、見たいんだろ?」
そりゃ見れるもんなら見たいに決まってるじゃないか。
「ならそれでいいじゃないか。見たいなら見たいで、最後まで信じろよ。」
何も言ってないのに。まるで、心を読まれたようだった。
「で、見たいの?見たくないの?信じるの?信じないの?」
「・・・見たい・・・」
「じゃあ、信じろ。」
また、冷たい風が僕の頬をなでていった。
すると彼はもう、その場所にはいなかった。
笑った。と思う。最後にこっちを向いて彼は笑った。
とても楽しそうに。
僕は皆のいる教室に戻った。
心の中に小さな輝く星を抱いて。
「おい、どこ行ってたんだよ。」
「いや、別に。ちょっとベランダ出てただけ。」
「なんか楽しいことでもあったか?」
「え、なんで?」
「だってお前、笑ってる。」
ビデオを見終え、先生の星座の説明を聞き終えた頃、時刻は9時40分。
「はい。では、そろそろみんなでグラウンドに出てみましょうか。荷物も一緒に忘れずに持って行って下さいね。」
先生がそう言った途端、みんな「えー」と不満そうに言った。
もう終わっちゃうのー。帰りたくない。どうせ星見えないだろ。
みんな口々に不満を言っていた。
「俊、行こうぜ。」
「おう。」
みんなと一緒にバタバタと階段を下りていく。
急いで靴をはき、グラウンドへ走った。
「おい、俊!・・・すげーな・・・!」
「・・・うん・・・」
あんなに淋しそうだったグラウンドが、明るい声で満ちた。
僕らの上には数えきれないほどの星が瞬いていて、さっきまで空を覆っていた雲はもうどこかへ消え去っていた。
そして、僕の眼差しの先にはひときわ輝く星があった。
なんだか今にも踊りだしそうな、とても楽しそうな星が。
Fin..