8
初めて陽里に足を踏み入れたのは、まだ十二か十三の頃だったと思う。
阿依良郡の長だった父のきまぐれで連れて行かれただけで、まだ何も知らない子供だった。華やかな衣裳を身にまとう巫女たちに、ただただ見惚れて。
一年にたった二度しかない祭り。そのうちの、春の祈年祭。
男の立ち入りが認められる貴重な一日。
今でもあの日を思い出さない日はない。
『君の名前は?』
思わず訊ねてしまった。
それは許されないことだった。
けれど、そのとき周りは祭りの熱に夢中で、見つめ合う幼い少年と巫女を見咎める者はいなかった。
『美津保……』
そう、君は答えてくれた。
* *
ずっと気持ちよく寝ていた稚武であったが、急にぞくぞくとした寒さが全身を包み、身震いして目を覚ました。
「……う……」
顔をしかめて瞼を持ち上げると、鋭利な白の光が目を突き刺した。思わずまた目を閉じ、反対側を向いて、恐る恐る開く。今度見えたのは、薄暗い洞窟の奥側だった。穴は深そうだったが、奥に行くに連れて天井が低くなり、これ以上入り込むことはできないようだ。
そんなことを考えていると、またぞっと悪寒があって振り返った。見ると、洞窟の外は一面の雪だった。しかし空は青く晴れ渡っている。それゆえに、雪が照り返して眩しいのだった。
「どうりで寒いわけだ……」
震えながらつぶやいて、稚武は自分が一人であることに気がついた。
「あれ? ……咲耶?」
見ると、洞窟の入り口のあたりの雪に足跡がたくさんあった。咲耶が自分から出て行ったのか、それともまさか何者かが……
「きゃ――ッ」
疑いようもなく咲耶の悲鳴だった。弾かれるように稚武は剣を手にし、洞窟を飛び出した。
「咲耶! どうした―」
しかし、稚武が剣を振るうことはなかった。目の前の光景にしばしきょとんとし、それからガクリとうなだれて深くため息をつく。
極寒の雪山の中、咲耶は真夏の太陽のように笑っていた。
「もう、やったわね、このっ。待ちなさーいッ」
咲耶ははしゃいで遊んでいた。つもりにつもった雪と、そして、雪に溶けてしまいそうな真白い鹿と。
あきれ返って声をかけることもできないでいる稚武に、咲耶と白鹿はようやく気がついた。
「あっ、稚武! 良かった、目を覚ましたのね」
気づくなり駆け寄ってきたので、まあ文句は言わないでおこう。けれども不満いっぱいの声音と顔で、稚武は白鹿を見やった。
「……なんでまだいるんだよ、お前。何してんだよ」
フン?と白鹿は可愛らしく小首を傾げた。同じようなしぐさで、咲耶も首を傾げる。
「あ、このコ、稚武の知り合いなの?」
「いや、知り合いっていうか……」
「気がついたらいきなり隣にいるんだもの、びっくりしちゃった。でも温かかったから助かったわ。ね、カムジカ」
咲耶がにっこりと微笑みかけると、白鹿もフンフンと嬉しそうに鼻を鳴らした。
「……なんだよ、『カムジカ』って」
恐る恐る稚武が訊ねると、咲耶は真顔で返した。
「このコの名前よ。どう見ても普通の鹿じゃないし、神の鹿でカムジカ」
「勝手に名前なんかつけるなよ」
腹立たしくなって稚武が言うと、咲耶もムッとしたようだった。
「じゃあ、このコには他に何か名前があるの?」
「……それは、ないけど」
「ならいいじゃない。カムジカも気に入ってるみたいだし」
ねー、と咲耶とカムジカは頷きあった。よく考えてみればカムジカは雌で、そこには何か、女の友情という、稚武には未知なるものが存在しているらしい。
(なんなんだよ、ちくしょう)
何となくぶすくれて、ぶつぶつと文句を垂れながら稚武は洞窟に戻った。ありがたいことに焚火の跡が残っていたので、まだ使えそうな木屑を集めて火を起こす。そうしてやっと暖を得ながら、ふっと頭の中に疑問符が踊った。
(なんで焚火の跡なんかがあるんだ……?)
思い返してみれば昨夜、ほんのわずかに稚武が意識を取り戻したとき、確かにここに火が燃えていた。――しかし一体、誰が火を起こしたのか。
洞窟から顔を出し、稚武は、まだカムジカと戯れている咲耶に呼びかけた。
「おい、咲耶。お前、いつの間に一人で火が起こせるようになったんだ」
「ええ?」
咲耶はカムジカを引き連れて洞窟の中に入ってきた。
「その焚火のこと? わたしじゃないわよ、稚武でしょう」
「そりゃ、今火をつけたのは俺だけどさ。夕べの夜のことだよ」
「昨日だって、わたしじゃないわ。気がついたら洞窟にいて、火があって、カムジカがいて……稚武は、うなされてた」
咲耶は稚武を見て、少し声を小さくした。
「その……稚武は一度だけ目を覚ましたんだけど、覚えてる?」
「覚えてるよ」
あっさりと稚武は返したが、咲耶がかすかに頬を染めていることには気づいていなかった。
「そっか、俺、うなされてたのか」
「熱があったの。でも、また眠ったときには、嘘みたいに良くなっていたわ。どうしてかしら」
「お前の力だろ」
当然のように稚武が言うと、咲耶は目を丸くした。
「え、え? そうなの? だって、『鏡』はあらわれなかった。だから、わたし―」
手を当てることしかできなかったんだもの。
言いかけて、咲耶は口をつぐんだ。何だか気恥ずかしかったのだ。
「ま、何にしたって助かったよ、ありがとな」
稚武がニッとして言うと、咲耶はますます声を小さくした。
「……それ、昨日も言われたわ」
「あ? そうだったっけか」
あまり気にしていない様子で稚武は返した。そしてカムジカと睨めっこを始め、「まさか、お前が火を起こしたのか?」などと訊ねている。
咲耶は息をつき、火にあたった。遊びつかれて冷え切った指先が、じんわりと温められる。
(ありがとう、か……)
言われ慣れていない言葉だ、と咲耶は思った。
(わたしはみんなに助けてもらってばかりだから……ありがとうって言う側なんだわ、いつも)
旅を始めてから、何度助けられ、ありがとうと言ってきたことだろう。それに比べ、誰かから礼を言われたことなどあったろうか。
(一度だけあるわね……「鏡」のおかげで桐生が助かったとき。でもあれは、神器があったからこそだわ。それも、わたしが意識して使ったんじゃない。偶然だわ……)
神器もろくに扱えない自分は、なんて役立たずなのだろう。
咲耶は打ちのめされる思いだった。明るい火にあたりながら、胸の奥が暗く沈んでいく。が、その淵にぽちゃんと石が投げかけられたように、咲耶の脳裏で少年が言った。
『彼女を説得して、連れて行くよ。だから君は先に戻って、稚武にこのことを伝えておいてくれないかな。待っていてくれって』
『わかったわ。すぐに戻って伝える。一緒に待っているわ、あなたのこと』
『ありがとう』
咲耶は息を吸い込んで目を見開いた。
あれは誰だったか――すぐに思い出した。
「風羽矢……」
思わず咲耶が呟くと、カムジカの相手をしていた稚武がさっと目つきを変えた。
「その名前を口にするな。風羽矢は死んだんだ」
「違うの、待って」
耳を塞ぎ、咲耶は必死に思い出そうとしていた。あの時、風羽矢と何を話しただろう……。もっと他に、何かあった気がする。
桐生やユキニたちと別れる前、咲耶は、阿依良の宮で風羽矢と会ったことを彼らに話した。けれど、それだけだった。
風羽矢は禍の王。陽里を焼き、陽巫女を殺した。倭を滅ぼす男。
そして、稚武と咲耶の目の前で、兄であった桐生を無情に切り裂いた男。
だから、騙されたのだと思っていた。あの時の風羽矢は、穏やかな少年に見せかけて咲耶を欺いた偽りの姿だと。王の居場所を知らないとは笑わせる、なぜ見破れなかったのだろう、と奥歯を噛んで悔やんだものだ。
けれど。
(だったらどうして、風羽矢はわたしを助けたりしたの……)
思い返せば、先に会った「風羽矢」と、後で会った「王」とでは、明らかに様子が違っていた。演技やふりなどではない、何かが。
「王」の姿を思い描いて、咲耶は顔をしかめる。
(あの時、隣にいた女の子は――確か、穂尊は「ヒミコ」と呼んでいたわ。あれがヒミコを騙っている女。黄泉還りの術をもつという……)
そして「風羽矢」は、あのとき。
――――彼女を説得して、連れて行くよ。
「妹」
咲耶は叫んだ。どうして今まで思い出せなかったのだろう。
「稚武、そうよ。妹よ、ヒミコは」
「はぁ?」
突然言われても、稚武は怪しむように顔を歪めるしかない。じれったがって、咲耶は早口に言った。
「だから、妹なのよ、あの子。阿依良の宮で風羽矢の隣にいた子よ。風羽矢の妹なの、きっと。それでヒミコで、悪いやつだわ」
「何を言っているんだよ。風羽矢には妹なんか……」
いない、と言い切れないことを、稚武は思い出した。熟田津で紅科が言っていたではないか、風羽矢には双子の弟妹がいると。
無言で考え込む稚武に、咲耶はさらに言った。
「ねぇ稚武、聞いて。わたしが先に会った風羽矢は、あんな人じゃなかった。もしかしたらヒミコに操られているのかもしれないわ……そうよ、ヒミコは黄泉還りの術だって使えるほどだもの、そのくらい簡単だわ、きっと」
風羽矢は妹を説得すると言っていたが、逆に言いくるめられてしまったのかもしれない、と咲耶は考えた。考え始めると、不思議なほどあっという間に確信に変わった。だって咲耶はその目で見たのだ、稚武の名に救いを得たような、風羽矢の澄んだ目を。
――風羽矢は、無理やり「王」を演じさせられているのか。
(だとしたら、本当に忌むべきは―)
「……もしそうだとしても、俺は風羽矢を許さないよ」
稚武はため息をつくように、だがはっきりと言った。咲耶は驚いて見やる。
「どうして」
「どうしても、こうしても。……風羽矢は死んだんだ。お前は知らないことだけど、あいつは崖から海へ飛び降りたんだよ、俺の目の前でな。……そして、死んだ」
何かを思い出しているような間があった。
「だから……あれは、風羽矢じゃない。操られているとしたら、それは風羽矢の抜け殻だ。だったら、また殺してやるしか救う方法はない。あいつをちゃんと黄泉に送ってやるのが正しいんだ」
噛みしめるように言う稚武に、咲耶は首を振った。
「違うわ、風羽矢は生きてた、ちゃんと。――あんなに寂しそうな瞳をした人を、わたしは見たことがなかった。だから絶対、稚武に会わせなきゃと思ったのに」
「お前に風羽矢の何が分かるんだよ!」
突然激昂して稚武は怒鳴った。
「あいつはな、俺なんかよりずっといい奴なんだ。優しい奴なんだ。操られてたって、桐生兄を殺したりするもんか。あれは風羽矢じゃない、風羽矢じゃない……!」
握り締めた拳を震わせ、稚武はうつむいた。
「……風羽矢が、俺を怨んだりするはずない……」
独り言のような呟きを、咲耶は聞き逃さなかった。
(この人――)
稚武は目を閉じて息をつき、抑えるような声音で言った。
「悪い、俺……」
咲耶に背を向け、力なく座り込む。
「だめなんだ、ガキで。 ――お前が言ってることは正しいかもしれない。だけど俺は、そんなの……受け入れられない」
「稚武」
「お前だって、もし穂尊が操られているだけだとしたら、許せるのか」
咲耶は何も言えなかった。答えなど決まっていた。
(――どうしてだろう……)
咲耶は胸に手を抱いて、うなだれる彼の背中を見つめた。汚れた白い衣に、赤い炎の影が揺らめく。咲耶よりもずっと大きく、力強い背中。けれども同時に、咲耶が知る誰よりももろく、危うい背中だ。
(どうして、禍の王が風羽矢だったのだろう。剣を持つのが稚武なんだろう。どうしてこの二人が殺しあわなきゃいけないの……)
ふと、風羽矢を殺すことは誰の救いにもならないのではないか、と咲耶は思った。風羽矢自身にも、稚武にも、そして咲耶にも、きっと救いになどならない。
稚武はきっと、風羽矢を殺した人物を許さないだろう。たとえ、それが自分であっても、風羽矢自身であっても――だから稚武は、風羽矢を奪い去った「禍」を、その手で滅ぼしたいのかもしれない。
(だけどそんなの、哀しいだけだわ……)
今までとはまったく違う意味で、咲耶は、稚武に禍の王を殺させたくないと思った。いいや、殺させてはいけないのだ。それはきっと、新たな禍を招く。
風羽矢が死んで、誰が喜ぶのだろう。禍が滅びれば倭は救われるはずなのに、それならどうして、稚武の救いにはならないのだろう。
咲耶が考え込んでいると、稚武がぴくりとも動かずに言った。
「……風羽矢な……」
驚いて、咲耶はその場にきちんと座った。カムジカも火にあたりながら咲耶に寄り添う。
「うん、なに?」
稚武が風羽矢を語るなら、一言だって聞き逃せないと咲耶は思った。
しかし、稚武は微妙に言い直した。
「風羽矢の、な。父親……薙茅皇子と、母親さ、兄妹だったんだ。同腹の」
咲耶は息を呑み、わずかに頬を青くしたが、すぐに落ち着いた声で口を開いた。
「それで?」
「それで、ってお前」
思わず稚武は振り返る。しかし咲耶の目は真剣そのものだったので、重い声で続けた。
「……天地の理からはずれた子供だ。あいつが禍と呼ばれる理由の一つが、そこにあるんだと思う」
真面目に言った稚武に、咲耶は目を丸くした。
「だってそんなの、風羽矢のせいじゃないじゃない。風羽矢はただ生まれてきただけだわ」
「――そりゃ……そうだけど」
稚武が虚をつかれて言いよどむと、咲耶は訝しむように眉根を寄せた。
「それで稚武は、風羽矢を忌み嫌うの。その理に反した子だからっていうだけで?」
「違うよ」
ムッとして稚武は答えた。
「ただ、濃すぎる血は何らかの歪んだ力を生み出すかもしれない、それが禍なのかもしれないって言っているんだ。……なんだよ、お前。まるで風羽矢をかばうみたいに。おかしいぞ、あいつはお前の仇なんだろうが」
「かばうわけじゃないわ、禍の王は憎いわよ。だけど……風羽矢は何か違う気がするんだもの」
「違うって、何が」
剣呑な声音にも、咲耶は怯まず答えた。
「わたし、禍の王って血も涙もない冷酷な男だと思っていたの。穂尊のような男だったならまだ頷ける。……けれど、風羽矢は違うわ。少なくとも、わたしが会った彼は」
「風羽矢は桐生兄を殺したんだぞ!」
「でも、わたしを助けてくれたわ」
食い下がって咲耶は言った。
「わたしの目の前で笑ったし、ありがとうと言った。悪い人だとは思えなかったわ」
「……惚れたのかよ」
無感動な声音だった。
咲耶は目を見開き、白けたような目の稚武を凝視するばかりで言葉がなかった。一体何を言われたのか、うまく把握できなかった。
稚武はやがてふいっと視線をそらして、何も言わずに洞窟を出て行った。
「稚武」
何とか声を取り戻したが、咲耶は彼を引き止めることはできなかった。違う、とすぐに言い切れなかった自分に、他の誰よりも戸惑いを感じていた。
(――でも、違う。違うわ、そんなはずない。風羽矢に会って感じたのは、もっと、違う……)
恋というものは、胸が高鳴り、頬が上気するものだと聞いていた。けれど咲耶が風羽矢を目の前にして感じたのは、そんな熱情ではなかった。風羽矢の微笑みに触れて胸に溢れたものは、もっと穏やかで、切ない、懐かしさにも似たような。
(……わからない……)
けれど確かに「何か」を感じたのだということだけは、咲耶にも知らないふりはできなかった。
清々しいほどの雪景色の中に突っ立って、稚武は頭をかいた。
どうも、調子が狂う。
(馬鹿か、俺は……)
要らぬことを、色々と口走りすぎた。
青い空を見上げて、ふうとため息をつく。
―――『そんなの、風羽矢のせいじゃないじゃない』
言った咲耶の声音の率直さに、後ろ頭を鈍く殴られたような気がした。
(ついこの前まで、仇を討つってあんなにうるさかったくせに……)
どうして素直に、風羽矢を肯定できるのだろう。
空の青を仰いだまま、稚武はしゃがみこんだ。
咲耶は多分、風羽矢に惹かれたんだ、と稚武は思っていた。禍の王と知らずに風羽矢と出会って、言葉を交わして、何か感じるものがあったのだろう。そうでなければ、風羽矢が妹に操られているなどと馬鹿なことを言い出すわけがないのだ。
(どうせ、自分じゃ気づいてないんだろうよ)
立ち上がり、真白な雪を踏みしめる。だが、ふいにぴたりと足を止める。
(……気づいても、認めないんだろうな。強がりな上に意地っ張りだからな……)
そして自分もまた、強がりな上に意地っ張りというやっかいな気性の持ち主であると、稚武はそろそろ認めざるを得なくなってきた。
むすぅ、として足元の雪を見つめ、また盛大にため息をつく。そして何とはなしに顔を上げ、いきなり目の前にいたカムジカに心臓が飛び出る思いをした。
「うわあッ……なんだよ、お前か。おどかすなっての」
まったく、と息をついたときだった。
ぶるん、と腰の剣が大きく震えた。
反射的に空を仰いだ。青く晴れ渡ったそこには、まだ何のかげりもない。それを確認してから、洞窟に駆け込む。
「咲耶」
咲耶は火のそばにうずくまり、右手を握り締めていた。苦しそうな息がもれる。
「稚……武……」
「神器が痛むのか。――そこでじっとしてろ」
こうなったら迎え出たほうがいいと決断し、稚武は咲耶を残して表へ飛び出した。空は変わらず、濃く青い。
(どっちだ……どっちから来る?)
じりじりと迫りくる緊張に、震える剣に手をかける。その稚武の背を、カムジカがとすとすと頭でこづいた。
「なんだよ―」
稚武が苛ついて振り返ると、カムジカはくいっと首を振り、何かを合図する。乗れ、と言っているのだとすぐに察した。
「よし」
稚武はうなずいてすばやくカムジカの背に飛び乗った。すると白いカムジカの毛並みに銀色の光が走り、四本の足がふわりと雪の地を離れる。
そうと思ってから空高くまで駆け上ったのはあっという間だった。稚武は両足でしっかりと体を支え、冷たい風を受けながら、白く鳴動する剣をかまえた。
――わかる。神の力を宿した宝のかけらが、そこにある。呼んでいる……
稚武は寂しい白銀の山の一角を睨み据えていた。彼の念じるままに、カムジカは迷うことなく空を翔ける。
禍つ玉の主は、そこに。
(戦おう、風羽矢。お前が、俺を――大王を怨むというのなら。俺だって、お前を生かしてはおけない)




