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今日は大漁だったということで、松山は外に待たせていた自分の子分たちを大勢呼び、紅科も快く彼らを招き入れて、急なことだが盛大な宴となった。
子供から大人まで屋形の広間いっぱいに集まり、松山自ら腕を振るった鰹汁をみんなで食べかわした。はしゃいだ子分によって酒も持ち込まれた。
彼らは裕福そうな身なりではなかったが、明るく気さくで、正体を知っていても稚武と風羽矢に遠慮しなかった。まるで以前からの身内のようにふるまうのだ。
困惑して二人が尋ねると、食事をともにするのはそういうことだと返された。さらに紅科に訊ねたところ、ここの人間は皇に対する畏敬の念が希薄であるし、紅科や松山の意向には絶対に従うのだと言われた。
ようするに、松山が警戒していないから警戒する必要はないと判断されたらしい。
いつの間にか宴は、都から来た少年たちを歓迎するものになっていた。これで稚武が上機嫌にならずにいられるわけがない。彼は苦い経験があるので酒は避けたが、よく食べ、よく話した。
もとから稚武という男は、初対面の人間と打ち解けるのにかけては天才的で、すこぶる人当たりのよい気質の持ち主であった。彼はすぐに皆の人気者になった。つられて、風羽矢も人見知りをしている場合ではなくなった。
宴会は盛り上がり、稚武と風羽矢は、都にいたころの堅苦しい宴などよりよっぽどくつろいで、心から笑っていた。
話の傍らでものすごい勢いで鰹汁を平らげていく稚武たちに、松山はあぐらをかいて機嫌よく言った。
「わしらとて、強きものに逆らおうというのではない。逆らえない時勢というものはある。大泊瀬皇子、お前が果たしてわしらの命を預けるに足る人物なのか、これからじっくり確かめる必要があるようだな」
「稚武って呼んでくれていいよ」
口に大量の鰹を詰め込みながら、稚武はこもった声で言った。
少年たちと松山を囲んでいる熟田津の人々は、緊張こそしていなかったが、彼らの話の行く末をさかずき片手に見守っていた。
稚武は気負いなく言った。
「それで? 確かめた後、どうするんだ」
「それはその時しだいだ。お前がちっぽけな男だと知れたら、秋津の軍に返すわけにはいかん。無能な王がたっては国が滅びるからな。秋津がどうなろうとかまわんが、わしらにもとばっちりが来る」
「逆だったら?」
不敵な笑みで稚武は訊ねた。応えるように松山も目を躍らせた。
「そうだな…熟田津の男は強い奴が好きだ。わしらは、愛比売さまの御声と強いものしか信じない」
松山の言葉に、広間に集まっていた衆は頷きあった。松山の言葉は彼らの総意らしかった。
「お前がもし強い男だったら、その時はわしらの仲間にしてやろう」
「なんだ、結局、熟田津から出す気がないんじゃないか」
風羽矢は苦い顔をして椀を空にした。松山はかっかと笑って彼におかわりをよそってやった。
「そうでもないさ。仲間になるということは、決して裏切らず、お互い命をかけて守るということだ。仲間に敵がいるなら、一緒に戦うのは当然だ。相手が倶馬曾国であろうとな。なぁ、みんな」
そうとも、と熟田津の衆は明るく答える。
少年たちは手を止め、幼い顔をして彼らを見つめた。松山は鋭く目を光らせ、笑った。
「お前が俺たちよりも強い男だったら、その時は黄泉の国の果てまでだって付き合おうじゃないか。一生日陰者で終わってたまるか、一旗上げてやろうという気にもなるというものだ。まぁ、もっとも、そんな望みは薄いだろうがな」
松山は笑いながらくいっと杯を傾けて酒を呑む。
「……熟田津が秋津国につくか倶馬曾につくか、全部俺しだいってわけか」
稚武がぽつりと言うと、宇受をあやしていた紅科が柔らかく笑った。
「ま、ゆっくりしていきなさいな」




