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6 犯人はだれ?

「わらわが本物の神であると証明できたところで。話を戻すが高斗よ。早く恋人を見つけい。そうすれば生き返ることができるのだからな」


「そ……そのことなんだけどさ」


 高斗は言葉を返した。神道の神ともなれば、無償で生き返らせてくれてもいいような気がしたが。何が悲しくて生死をかけて恋人を作らなければならないのだろう。しかし、もはやそんなことは言っていられない。

 このままゾンビ人間として生き続けるくらいなら、生き返るついでに彼女もゲットした方がよっぽどマシなのだ。


「ぼ……ぼくには、その……他に好きな人がいて」


「おぬしは逐一文句が多いな。大体、相手を選べるような身分だと思うておるのか? この痴れ者が」


「そ、そんなこと関係ないっ。告白は好きな人にしたいんだ!」


「わがままな奴だのう。まあ、告白するのは勝手じゃがな。あんまり時間をかけているようだと、間に合わなくなるぞ」


「間に合わない? どういうことですか」


 意味深な直毘の言葉に、困惑する高斗。

 そんな高斗に向かって直毘は、

「さっきも言ったが、おぬしは既に死んでおる。免疫細胞も死に、新陳代謝も停止している状態じゃな。今はわらわの力で細胞腐敗の時間を遅くしているだけにすぎない。よって長時間経てば細胞は死に絶え、腐り落ちて生命活動を維持出来なくなる。つまり、時間をかけすぎれば生き返ることは出来ないということじゃ」


「ど、どうしてそれを早く言わないんだよー!」


 高斗の叫びが部屋中に鳴り響いた。まさか制限時間があるとは! しかも三人も恋人候補がいるだけに、一人に絞ることが余計難しくなってきた。

 

 頭を抱える高斗に直毘はずいっと顔を突き出し、

「どうする? 繰り返すようじゃが、相思相愛でなければ生き返ることは出来ぬ。しかしおぬしには、ゆっくり時間をかけて愛を育んでいる暇などないぞ」


「け……桂馬さんは?」


「桂馬さん?」


「今日、ぼくが告白しようとした相手だよ」


「おお、あの娘か」


 直毘は右手をグーにして、左手の上にポンと置いた。そして、

「桂馬瑠璃。年齢十六歳で、高斗とクラスは違うが同級生。ほっそりとした体つき、腰元まで届く薄桃色のストレートヘアーに、硝子のように大きく澄んだ瞳。学園でもっとも人気のある女生徒で、男子から告白を受けない日はない。しかし、それらを全て断っているにも関わらず、生来の温和な人柄ゆえか、男女問わず周りの者全てを惹きつけ虜にしておる。どうじゃ、合っておるか?」


「そ……その桂馬瑠璃さんだよ。彼女は、ぼくのことを好きじゃないの!?」


「いや、好きじゃぞ」


 直毘はキッパリと言い切った。


「しかし、それはあくまで良き友人としてじゃ。恋愛感情としてではない。要するに異性としては意識されていないということじゃな、おぬしは。可哀想に、同情するぞよ」


 直毘は少しも同情してなさそうな顔でそう言った。しかしそんなことよりも、桂馬瑠璃と両思いでなかったことに高斗は深いショックを受けた。


 直毘は無表情のままで、

「学園のアイドルが相手では分が悪い。告白するなら、なおさら生き返ることが先決じゃ。ゾンビのまま気持ちを伝えるわけにはいくまい」


「それは……そうだけど……」


「おぬしの気持ちはわかっておるぞ、高斗よ。桂馬瑠璃への告白に一年間かけてきたのだろう。できれば実らせてやりたいところじゃが、今から桂馬瑠璃の気持ちを動かすことは容易ならぬ。ここは、わらわの言う事を聞いたほうが懸命じゃぞ」


 美しい顔を少しだけ歪めながら直毘は言う。どうやら彼女は彼女なりに高斗のことを励ましてくれてるらしい。


「わ……わかったよ。言うとおりに、するよ……」


「うむ! ようやく話が進んだな!」


「それで……さっき言ってた三人? の、誰を選べば一番いいとかは……」


「そういうことまでは神でもわからん」


 ぷいっと横を向きながら直毘は言った。こうしていると、本当にただの子供にしか見えない。


「あ……す、すみません……直毘、様……」


 高斗は敬語で謝った。流石に神であることが分かった以上、タメ口はまずいと思ったのだ。しかしその瞬間、直毘は憤怒の表情を見せた。


「たわけが! そのようなおべっかなど使わずともよい! わらわのことはナオと呼べと言ったはずじゃ!」


「で、でも……」


「それにじゃ。おぬしとは知らぬ仲ではない。そのように媚びへつらわれても、虫唾が走るだけじゃ」


「あっ……」


 直毘の言葉に、高斗はハッとなった。

 やはり以前一度、直毘と会ったことがあるのだ。それがいつで、どんな状況だったかはとんと思い出せないが。これでハッキリとした。

 高斗は、直毘のことを前から知っている。


「わらわは、おぬしが恋人を作るまでの付き人みたいなものじゃ。しかしこれはわらわの仕事じゃ。おぬしも別に気を遣うな。わかったなっ」


「わ、わかったよ……直毘さ……いや、ナオ」


 高斗はおずおずと答えた。難しいことは分からない。しかし、目の前にいるのは高貴な神ではなく、ただ生意気で勝気な女の子だと思えば、少しは気が楽だった。


 すると、直毘は満面の笑みを浮かべて、

「うむ。分かればよい、高斗。わらわは寛容であるからして、これからも多少は馴れ馴れしく接することを許してやる。どうじゃ。惚れてはいかんぞ。わらわは神であるからな」


「いや、別に惚れないけど……」


「む……」

 

 高斗の返事に、直毘は口をすぼめた。そしてそのまま押し黙る。もしかして機嫌を悪くしたのだろうかと、高斗が声をかけようとした時、

「まさか、もう来るとはな……」


 直毘は険しい顔でそう呟いた。

 高斗は聞き返す。


「何? 何が来たの?」


「おぬしを殺した犯人じゃ」


 淡々と直毘は答えるが、高斗は飛び上がるほど驚いた。そうだった。忘れていたが自分は殺されたのだった。つまり、犯人がいるということになる。


「じゃあ、その人がここに向かってるってこと!?」


「そうじゃ。正確には玄関のすぐそばまで来ておる。ここからは声を忍ばせろ。わらわのことがバレてしまうからな。小声で話すか、独り言を装え」


「え? え? それってどういう―ー」


 狼狽して聞き返すより先に、その音は家中に鳴り響いた。


 ピンポーン。


 聞きなれたはずの電子音が、まるで死刑執行の合図のごとく、忌まわしく高斗の耳に残響したのだった。

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