5 直毘神
「どうじゃ。何か要望はあるか?」
「……本当に、何を言ってもいいんですか?」
「もちろんじゃ。神の力にも限度があるがな。それでも普通の人間には到底叶わぬようなことは出来る」
「じゃあ、火を吐いたり、雷を操ったり、雨を降らせたりしてください」
高斗がそう言った瞬間、直毘に頭をはたかれてしまった。
相変わらず痛みはないが。それでも人に叩かれるということはあまり気分のいいものではない。
「いた……くはないけど、何するんだよ!」
「アホかおぬしは!」
直毘は目尻を上げながら怒っていた。
「そんなことできるか! おぬしは神を何だと思うておるのじゃ!」
まるで心外だと言わんばかりの態度に、高斗は一瞬面食らってしまった。
「で……でも。さっき何でも言えって……」
「神の力には限度があるとも言った。おぬし、神を怪物か何かと勘違いしておるのではないか?」
「い……いやあ。そんなことはないけど」
実はそう思っていた高斗は慌てて首を振った。
そして改めて尋ねた。
「じゃあ、どんなことならできるんですか?」
「そうじゃな。では、こういうのはどうじゃ?」
「へ?」
高斗はその光景を見て、口から心臓が飛び出そうなくらい驚いた。
直毘はふうっと一息ついて体の力を抜いた。それと同時に、足元が徐々に床から離れ、ついにはプカプカと浮き上がり始めた! いわゆる空中浮遊というやつだ。
直毘はそのまま高斗の頭の辺りまで浮かび上がりピースをした。高斗は開いた口がふさがらなかった。確かにこんなことは普通の人間にはできない。
直毘は浮遊したまま高斗に近づき、
「どうじゃ。こんなことがおぬしらにできるかの。これこそ、わらわが神である証拠ではないか」
「はあ……いや、でも……」
高斗が気になったのは、以前これと同じトリックを見た記憶があることだった。例えば、足元に透明な箱を置いたり、上から見えないピアノ線で吊り下げられていたり……。
「な……ない。どこにも……」
直毘の頭上を探ってみても、足元を丹念に見つめても、それらしき仕掛けは何にもなかった。
「ふはは。種が見つからぬということは、わらわは本物ということでよいな?」
「あ、はい……」
もはや頷くことしか出来なかった。高斗は自分で直毘を本物の神だということを認めたのだった。それでもいくつかの疑問は残っていたが。もういちいち細かいことを気にするのは止めることにした。