4 ドッキリ疑惑
「さ、三人……? なんでそんなにいるの?」
「そんなことまでわらわが知るか。おぬしがモテてるだけであろう」
驚きを隠せない高斗に直毘は面白くなさそうに答える。確かに、三年生で生徒会長を務める羽波真綾先輩と、一年生で後輩の恵実河芹奈とはいろいろと仲良くしている。しかし残った一人、幼馴染の千堂七海に関しては疑わしかった。
そんな高斗の様子を直毘は見かねて、
「ん? どうした。死人みたいに顔色が悪いぞ」
「いや、もう死んでるんですけど……。というか、本当にその三人なの? 何かの間違いじゃない?」
「わらわに間違いなどあるか!」
「いや、だってさ……」
「疑問があるならハッキリ口にするがよい」
いまひとつ煮えきらない高斗を直毘は促した。
「七海がぼくのことを好きだなんて、嘘でしょ? 登下校こそ一緒にしてるけど、口を開けばバカバカ言うし。アンタなんか嫌いって何回言われたか分かんないよ?」
「にぶい。にぶすぎるぞ。おぬしは乙女心というものを何も理解しておらぬな。本当に嫌いな相手と、毎日学校に通うと思うか? あの娘は本当なら高斗好き好きラブリーなのじゃが、極度の緊張から思ってることと反対のことを言ってしまうのじゃ。まあ、いわゆるツンデレというところじゃな。しかし、想いの強さでは三人の中で一番かもしれぬぞ。案外この女を選べばすぐに生き返れるかもな」
いけしゃあしゃあと直毘は言うが、高斗は困惑した。毎日顔を合わせるたびに憎まれ口を叩いてた七海が、高斗好き好きラブリー!? そんなことが分かるわけがないし、自分がまるで鈍感みたいな直毘の言い方も癪に障った。
そんな高斗に直毘は上から目線で、
「どうした? 童貞の高斗に一人に絞れというのは難しかったか?」
「う――うるさいな! そもそも、どうしてその三人がぼくのことを好きだなんてことが分かるんだよ!?」
「それは、わらわが神だからじゃ」
直毘は誇らしげに答える。
「人が人に抱く恋心は分かるのじゃ。反対に誰が誰を嫌っているか。なんとも想っていないか。そやつの脳を覗き見ることができる。神らしい能力であろ」
直毘は大威張りでそう言った。
その様子を見て、高斗の脳裏に再び疑問が生まれる。
「証拠はあるの? 君が神だっていう証拠は」
「証拠とはまた無粋な言い方をするな。おぬし神に向かって少し恐れ多いぞ」
疑われたのが不服だったらしい。口をとがらせる直毘に対して高斗は、
「こんな小さな子が神だって言われても……普通誰も信じないよ」
「う……うるさいうるさいっ。背のことは言うでない。もう三百年もあればグラマラスになる予定じゃ!」
またよくわからないことを言い始めた直毘を、高斗はじっと見つめる。
さらに冷静に考えてみた。
そして、ある結論にたどり着いた。
(これはたぶんドッキリだ。いや、そうに違いない!)
結論に達したというより、現実逃避に近かったが。しかし、あながち的外れではないはずだ。そもそも神様なんているわけがない。いるわけがないということはいないのだ。
ということは、七海たちが仕組んだドッキリだ。こんな大仕掛けなドッキリをしてまで自分を陥れて何の得があるのかという話だが、神様がどうとか言われるよりよっぽど現実味がある。さっき心臓の音が聞こえなかったのは……まあ何かの間違いだ。
そんな高斗の思考を見透かしたかのように、直毘は声をかけた。
「ならば、証拠を見せればよいのじゃな?」
「……え?」
困惑する高斗に、直毘は言った。
「ようするにおぬしは、わらわのことを信用していないのであろ? ならば人にあらざる力を見せれば気が済むということじゃな? 何でも申し入れるがよい。神の力、とくと見せてやろうぞ」