32 ハーレムの果て
その日の授業が終わると共に、高斗は七海、芹奈、真綾の三人から屋上へと連れ去られた。高斗に拒否権はなかった。というより、腕をぐいぐい引っ張られて強制連行されたので、断る暇もなかったのだが。昨日のこともあるので、彼女たちとは出来るだけ顔を合わせたくなかったというのが本音だ。
「な、何ですか三人とも……。ぼくに、何か用ですか?」
そう言った瞬間、まずは七海が不機嫌な顔で口を開いた。
「何か用じゃないわよ!」
「え……え? どういうこと?」
「あああ……! あれよ、あれ!」
「? ごめん、ちょっと意味が分からないんだけど」
「だ、だから……その……」
高斗が問いかけると、彼女はなぜか顔を真っ赤にしてモジモジしだすが、どうにも要領を得ない。
「お待ちなさいな、七海さん。そこから先は、わたくしがお話します」
そう言って割り込んできたのは、真綾だった。昨日は視聴覚室を爆破し、高斗らを巻き込む暴挙に出たのだが。幸いなことに直毘が昨日の記憶は全て消しているらしい。彼女は大きな胸をたぷんたぷんと揺らしながら解説した。
「わたくしたち、誰にもはばかられることなく、堂々と高斗さまを奪いあうように決めたのです。つまり、他者を出し抜いたり抜け駆けしたりせずに、真っ直ぐな気持ちで高斗さまを手に入れようということですわ。まあ、こうなったらわたくしの一人勝ちは決まったようなものですけどね」
巨乳を揺さぶりながら、彼女は勝ち誇るような声を上げた。その大言壮語に対して、芹奈が噛み付く。
「あーっ! こら! 抜け駆けはしないと言った先からこのおっぱいオバケは! 先輩、誰か一人を選ぶなら、芹奈を選んでくださいです! ぶりっ子のデカ乳女や暴力ストーカー女よりも、ぴちぴちの可愛い後輩の方が絶対いいです~!」
「……ぶりっ子のデカ乳女? 聞き捨てなりませんことよ?」
「誰が暴力ストーカー女よ! 誰が!」
激しく言い争いをするが、三人の主張は一貫していた。
(ぼくを……取り合う?)
「あの~、すみません。仰ってることは理解できのたですが……。要するに、今まで以上にお誘いが激しくなるってことですかね?」
出来ればそうであってほしくない、と願いを込めて聞いたのだが。
現実は無常だった。
「だだだ……誰がいつそんなこと言ったのよ! まあ、高斗がそこまで言うのなら仕方ないわね。昔の約束どおり、あたしが高斗のお嫁さんになってあげるわよ!」
「ちぇすとー! ですわ! それならわたくしの方が高斗さまの婚約者にふさわしいはずです。何しろわたくしは羽波財閥の令嬢でお金持ちでプロポーションも抜群でそれからそれから……」
「せんぱーい! せんぱいせんぱーい! 芹奈を選んで~~!」
三人の多種多様なアプローチが高斗を襲う。
高斗はたまらず、
「す、すみません! 今日はぼくこの辺で!」
そう叫んで三人に背を向け、屋上の扉へと走りだした。
すぐさま美少女たちは、高斗を追いかけてくる。
「こらー! 逃げるな、高斗ー!」
「お待ちになって、高斗さま~~! せめて、婚姻届に判を押して、わたくしの夫になると誓ってからお逃げになられて~~~~!」
「せんぱーい! 走るってことは追いかけてキャッキャウフフしてほしいってことですよね!? 分かりました! 芹奈、地獄の果てまで追いかけるです~!」
こぞって追い掛け回す三人から、高斗は必死に逃げ出した。
(というか、逃げないとぼくの体が持たない!)
全身全霊、ありったけの力で疾走を続け、高斗は何とか三人を振り切ることに成功した。
(でも、あの三人。少し雰囲気が変わった……?)
高斗は帰路につきながらそんなことを考えていた。昨日までの彼女たちなら、「殺してでも奪い取る」と言っていただろうし、事実そうしていた。なのに、今日の三人は積極的ではあるが攻撃的ではない。直毘に記憶を封印されたことが、人格に何らかの影響を及ぼしたのだろうか。
「まあ、考えていても仕方のないことだ」
一人ごちると、高斗は自宅の玄関に上がった。
その時、何らかの気配を感じた。
嫌な気配ではない。むしろ懐かしささえ覚える。
そして懐かしさと共に、なぜか煩わしさも感じるのだ。
高斗はその原因を確かめるために、リビングへと向かった。
「あ」
「む?」
思ったとおり、彼女はいた。
直毘は頬いっぱいに大福を食べながら、バツが悪そうに高斗と目を合わせた。




