3 本物? 偽者?
自信満々に自己紹介をする直毘を、高斗は訝しみながら見つめた。
直毘神と言えば、日本神話では津日神が禍を直すために生みだした存在、とある。つまりは日本書記に登場する偉い神様が、この女の子だというのだ。
「君ねえ。馬鹿も休み休みにして早く帰らないと。お父さんもお母さんも心配するよ?」
「何が馬鹿じゃ。死んでいたところを助けてやった恩を忘れたのか」
「だからぼくは死んでないって!」
たまらず高斗が叫ぶと、直毘はぷんぷん怒りながら言った。
「死んでおるっ! これだけ言うておるのにまだ分からんか。そんなに疑うなら自分の胸に手を当ててみい」
「む、胸に手を……?」
直毘の言葉を高斗は繰り返した。
彼は学校の屋上で何者かに胸を刺され気を失った。それが夢であるか現実であるかは別として。そして今は見知らぬ少女によって自宅に運び込まれている。これでもし心臓が止まっていたとしたら……。ああ、死んでいることが確定してしまう!
「そ、そんなことありえない。ぼくは生きている。死んでなんかいるもんか!」
「ならば、確かめることができるな?」
直毘に言われ、高斗は自分の身体を隅々まで見た。これで死人なわけがない。手足だって自由に動く。思考だって働く。どこからどう見たって生きてる人間じゃないか。高斗は意を決して左胸に手を置いた。それドックン、ドックン……。
しかしなんと、あるべきはずの心臓の鼓動がなかった!
高斗はとても立っていられず、ベッドに倒れこんだ。
「は、はは……。嘘だ。こんな……」
その様子を見て、直毘は慰めの言葉をかける。
「死んでしまったものは仕方ないじゃろ。そんなに気を落とすでない」
直毘は一応励ましてるつもりのようだが、どうも口調が楽観的すぎてフォローになっていない。そもそも、死んでいる人間に気を落とすなと言う事自体おかしいのではないか。しかし今の高斗にそこまで突っ込みを入れる気力はなかった。
「そうか。ぼくはやっぱり、あの時死んだのか……」
そう呟くと、直毘は高斗の肩にポンと手を置き、
「そう残念がるな。生き返る方法がないとは言っていない」
直毘の言葉に高斗は食いついた。
「ほ、本当に!?」
「もちろんじゃ。そうでなければ何のために細胞腐敗を遅らせ、意識を持たせてやったのか分からぬではないか。おぬし次第じゃが、ちゃんと生き返る方法はある」
宝石のように眼をキラキラとさせながら、直毘は言った。
もしそれが本当なら、と高斗は直毘の肩をがっしりと掴んで、
「お……教えてください! 何でもしますから! どうしたらいいんですか!?」
恥も外聞も捨てて叫んだ。傍から見えればいい男子高校生が、女の子相手に何をしているのだというところだが。そんなことにかまってなどいられない。直毘が本物の神であるかはまだ不明だが、少なくともこの少女は高斗が生き返る方法を知っているのだから。
「かのじょをつくるのじゃ」
気ばかり焦る彼に、直毘は冷静な口調で答えた。
対する高斗はポカンと口を開ける。
「は……? か、彼女……? それとこれとどういう関係があるの?」
「だから言っておろうが。わらわは禍を直す神じゃと。おぬしのように恋半ばで果てた者に機会を与えるのが仕事じゃ。そのためには、おぬしが自身の体に渦巻く負の力を正に変えねばならぬ。つまり、彼女を作り相思相愛になれば生き返れるということじゃ。よかったな。ド○ゴンボールより簡単ではないか」
「ちっとも簡単じゃないじゃないか!」
泣きそうになりながら高斗は反論した。自慢じゃないが年齢=彼女いない歴で、生まれてこのかた彼女など出来たこともないのだ。そんな高斗に直毘はニッコリ笑って、
「じゃから安心せいと言うておろうが。どうもおぬしは自分のことを過小評価しすぎるな。おぬしは自分で思ってるより沢山の人間に愛されてるというのに」
「え? じゃ、じゃあ、ぼくのことを好きな人がいるの?」
思い切り言葉を詰まらせながら高斗は尋ねた。生き返れるというのもそうだが、こんな自分を好きな女子がいるということにも驚いた。もしこれが桂馬瑠璃なら言う事なしなのだが。いやいや、それよりもまずは生き返ることが先決だ。告白ならその後でいい。
「三人じゃ」
直毘は指を三本立てて言った。
「おぬしを好いている女子は三人おる。千堂七海。羽波真綾。恵美河芹奈。この中から一人を選び、恋仲になれ。そうすれば、おぬしは人として生き返ることができるぞよ」