表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/33

24 狂気×狂気

「あたしは、あんたのことが好きなの」


 七海は、能面のような表情で言った。その顔は、高斗が知ってる七海のものではなかった。


「な、なら……どうして……」


「だからこそ、よ」


「え……」


 無表情で答える彼女に、ますます高斗は困惑した。好きだというなら、なぜこんな酷い仕打ちをするのだろうか。


「何を言ってるのか分からない、って顔してるわね」


「いや……ぼくは……」


「……誤魔化さないで。あんたはいつもそう。あたしの気持ちなんて何ひとつ分かってくれないんだわ」


「そんな……言ってくれれば……」


「そうね」


 七海はフッと笑った。


「でもね、それが出来れば苦労はしないのよ」


 だんだんと、七海が何を言いたいのか高斗にも理解できた。要するに、彼女は分かってほしかったのだ。素直になれない自分の思いを、誰よりも近くにいた高斗に。しかし、残念ながら高斗は七海の予想を遥かに上回るほど鈍感だった。そのもどかしさから、このような凶行に及んだというわけだ。


「だから、あたしなりに気持ちを伝えることにしたの。こうでもしなきゃ、あんたはあたしのことなんて気にしてくれないから」


「う……あ……」


 そんなことはない。そう言いたかった。

 しかし顎が砕けているので、どうにも上手く喋れない。そんな高斗の様子を見ながら、七海は苛々したように言った。


「何よ、言いたいことがあるならハッキリ言いなさいよ」


 高斗は歯を食いしばりながら、ゆっくり一音ずつ発音した。


「どうして……言ってくれなかったんだ。君の気持ちを。ぼくだって、何も言われなければ何も気づけない。でも、苦しんでることくらい伝えてくれたってよかったじゃないか」


「ふ、ふん。今更遅いのよ」


 七海は少しだけうろたえたように答えた。


「あたしが告白をしたらあんたはOKしてくれたの? 昔の約束どおり、お嫁さんにしてくれたっていうの?」


 その言葉は高斗の胸に深く突き刺さった。


「それは……分からない。でも、七海は試しもしないで諦めたっていうの?」


「馬鹿にしないでよ!!」


 見ると、七海は凄まじい怒りの表情を浮かべていた。いや、もしかしたら泣きそうな顔なのかもしれない。感情が爆発する時、決まって彼女はこういう顔をすることを思い出す。


「馬鹿になんて、してない」


「馬鹿にしてるわよっ! あんた、桂馬瑠璃のことが好きなんでしょ? 気づいてないとでも思ってんの? 何よ、あいつのこと話す時だけいっつもデレデレしちゃって。あたしがいつもどんな気持ちで聞いてたか分かってんの!?」


 そう叫びながら、七海は高斗の頭に向かってバットを振り下ろそうとした。


「そんなこと関係ないじゃないか!」


 顔面スレスレまでバットが迫ってきたところで、高斗が叫んだ。

 七海が聞き返す。


「……関係ないって何よ?」


「だから、関係ないって言ってるんだ! ぼくが誰を好きかなんて!」


「関係あるわよ! あんたが桂馬瑠璃のことが好きな以上、あたしが入り込む余地なんてないじゃない。もう、殺して奪うしか……」


「ふざけるな!」


 叫ぶ七海に負けじと高斗も怒鳴り返す。その迫力に、七海も一瞬だが気圧された。高斗は足――といってもバキバキに折れた足だが、何とか立ち上がって、

「気持ちを伝え続ければよかったじゃないか! いつか振り向いてくれるまで!」


「そ……そんなこと簡単にできないわよ。それに、そこまでして振り向いてくれなかったらどうするのよ?」


「諦めるよりはマシだ! 七海。君は怖かったんだ。告白して振られるのが。だから形だけの言い訳を作って逃げたんだ!」


「う、うるさいうるさい!」


 七海は癇癪を起こして喚いた。その姿は、まるで子供に戻ったようだった。


「それが出来ればとっくにしてるのよっ。大体、あんた自分の立場分かってるの? あんたはあたしに殺されるのよ!」


 焦っているのか、早口になって七海はがなり立てた。もし高斗が自分の保身を訴えるようなことを言ったら、即座に殺していたのだろうが。手痛い高斗の反論にあってひるんでしまったのだ。強がってはいても、七海の心は揺れ動いてるのだ。


「ああ、分かってるよ。七海に殺されるのはこれが二度目だね。でも、ナオが助けてくれる。そうしたら、またやり直すんだ」


「何よ! 何わけの分からないこと言ってんのよ!」


 意味不明なことを答えた高斗に対して、七海はバットを振りかぶった。

 びくっと高斗が首をすくめる。


(また、殺されるのか……!)


 目をつむりながら、高斗がそう考えた時。


「先輩をいじめるなんて、ひっどお~い」


 その場にそぐわない間延びした声が入った。あまりの楽天的な声に七海も面食らったろうが、高斗の驚きはそれ以上だった。


「芹奈……!?」


 高斗が視線を向けると、そこにはサバイバルナイフを持った芹奈が立っていた。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ