24 狂気×狂気
「あたしは、あんたのことが好きなの」
七海は、能面のような表情で言った。その顔は、高斗が知ってる七海のものではなかった。
「な、なら……どうして……」
「だからこそ、よ」
「え……」
無表情で答える彼女に、ますます高斗は困惑した。好きだというなら、なぜこんな酷い仕打ちをするのだろうか。
「何を言ってるのか分からない、って顔してるわね」
「いや……ぼくは……」
「……誤魔化さないで。あんたはいつもそう。あたしの気持ちなんて何ひとつ分かってくれないんだわ」
「そんな……言ってくれれば……」
「そうね」
七海はフッと笑った。
「でもね、それが出来れば苦労はしないのよ」
だんだんと、七海が何を言いたいのか高斗にも理解できた。要するに、彼女は分かってほしかったのだ。素直になれない自分の思いを、誰よりも近くにいた高斗に。しかし、残念ながら高斗は七海の予想を遥かに上回るほど鈍感だった。そのもどかしさから、このような凶行に及んだというわけだ。
「だから、あたしなりに気持ちを伝えることにしたの。こうでもしなきゃ、あんたはあたしのことなんて気にしてくれないから」
「う……あ……」
そんなことはない。そう言いたかった。
しかし顎が砕けているので、どうにも上手く喋れない。そんな高斗の様子を見ながら、七海は苛々したように言った。
「何よ、言いたいことがあるならハッキリ言いなさいよ」
高斗は歯を食いしばりながら、ゆっくり一音ずつ発音した。
「どうして……言ってくれなかったんだ。君の気持ちを。ぼくだって、何も言われなければ何も気づけない。でも、苦しんでることくらい伝えてくれたってよかったじゃないか」
「ふ、ふん。今更遅いのよ」
七海は少しだけうろたえたように答えた。
「あたしが告白をしたらあんたはOKしてくれたの? 昔の約束どおり、お嫁さんにしてくれたっていうの?」
その言葉は高斗の胸に深く突き刺さった。
「それは……分からない。でも、七海は試しもしないで諦めたっていうの?」
「馬鹿にしないでよ!!」
見ると、七海は凄まじい怒りの表情を浮かべていた。いや、もしかしたら泣きそうな顔なのかもしれない。感情が爆発する時、決まって彼女はこういう顔をすることを思い出す。
「馬鹿になんて、してない」
「馬鹿にしてるわよっ! あんた、桂馬瑠璃のことが好きなんでしょ? 気づいてないとでも思ってんの? 何よ、あいつのこと話す時だけいっつもデレデレしちゃって。あたしがいつもどんな気持ちで聞いてたか分かってんの!?」
そう叫びながら、七海は高斗の頭に向かってバットを振り下ろそうとした。
「そんなこと関係ないじゃないか!」
顔面スレスレまでバットが迫ってきたところで、高斗が叫んだ。
七海が聞き返す。
「……関係ないって何よ?」
「だから、関係ないって言ってるんだ! ぼくが誰を好きかなんて!」
「関係あるわよ! あんたが桂馬瑠璃のことが好きな以上、あたしが入り込む余地なんてないじゃない。もう、殺して奪うしか……」
「ふざけるな!」
叫ぶ七海に負けじと高斗も怒鳴り返す。その迫力に、七海も一瞬だが気圧された。高斗は足――といってもバキバキに折れた足だが、何とか立ち上がって、
「気持ちを伝え続ければよかったじゃないか! いつか振り向いてくれるまで!」
「そ……そんなこと簡単にできないわよ。それに、そこまでして振り向いてくれなかったらどうするのよ?」
「諦めるよりはマシだ! 七海。君は怖かったんだ。告白して振られるのが。だから形だけの言い訳を作って逃げたんだ!」
「う、うるさいうるさい!」
七海は癇癪を起こして喚いた。その姿は、まるで子供に戻ったようだった。
「それが出来ればとっくにしてるのよっ。大体、あんた自分の立場分かってるの? あんたはあたしに殺されるのよ!」
焦っているのか、早口になって七海はがなり立てた。もし高斗が自分の保身を訴えるようなことを言ったら、即座に殺していたのだろうが。手痛い高斗の反論にあってひるんでしまったのだ。強がってはいても、七海の心は揺れ動いてるのだ。
「ああ、分かってるよ。七海に殺されるのはこれが二度目だね。でも、ナオが助けてくれる。そうしたら、またやり直すんだ」
「何よ! 何わけの分からないこと言ってんのよ!」
意味不明なことを答えた高斗に対して、七海はバットを振りかぶった。
びくっと高斗が首をすくめる。
(また、殺されるのか……!)
目をつむりながら、高斗がそう考えた時。
「先輩をいじめるなんて、ひっどお~い」
その場にそぐわない間延びした声が入った。あまりの楽天的な声に七海も面食らったろうが、高斗の驚きはそれ以上だった。
「芹奈……!?」
高斗が視線を向けると、そこにはサバイバルナイフを持った芹奈が立っていた。




