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2 死んだり生き返ったり

 ……とまあ、あんまりな幕切れから。高斗はまだ生きていた。いや、果たしてそれが生きていると言えるのか。死んでいるのとほぼ同様であることにはまだ気づきようがなかった。


「いき、てる……?」


 高斗は目を覚ますと、そう呟いた。

 さらにキョロキョロと周りを見渡す。どう見ても自分の部屋だ。

 ボンヤリとした頭で、これまでのことを思い返してみる。確か屋上で桂馬瑠璃を待っていて……。


(あれ? ナイフで刺されたはずなのに……)


 さらに記憶を辿ってみる。背後から現れた何者かに、刃物で心臓を一突きにされたのだった。しかし、自分はこうしてピンピンしている。まさかと思うが、寝ぼけて夢でも見ていたのだろうか。


 と、いうことは桂馬瑠璃は?


 まだ屋上に待たせっぱなしなのではと、高斗はベッドから飛び起きた。

 正確には、飛び起きようとした、だ。


「ぷぎゃっ!」


 上手く体を動かせず、ベッドから転がり落ちてしまった。関節は硬く、五体が言うことを聞かない。まるで何年か寝たきりになった後のようだ。


「あ、あれ……。どうしたんだろ。寝すぎたのかな」


 高斗が身体を起こそうとしたその時。


「おお、気がついたか」


 その声は、高斗のすぐ後ろから聞こえてきた。高斗は全身に違和感を覚えながらもゆっくりと振り向く。

 そこに立っていたのは、朱塗りの着物を着た少女だった。無論、知り合いではない。


(綺麗だ……)


 高斗はその少女をまっすぐ見つめて思った。腰のあたりまで下げられた青髪は湖のよう。肌は透き通るほど白く、水晶球みたいな大きな双眸は、碧天のように澄みきっている。まるでおとぎ話の神様みたいに崇高かつ、神々しさに満ち溢れていた。自分の部屋でなかったら、ここは天国かと勘違いしたほど。


(あれ? でもこの子、どこかで見たような……)


 高斗はいわゆる既視感を感じていた。この少女を前にどこかで見た覚えがあるのに。どうしても思い出せない。こんな美少女と会っていれば、忘れようもないはずなのだが。


  流麗なる少女は、見慣れた高斗の自室と妙にミスマッチだった。


「死後硬直はまだ解けておらぬでの。無理に動くと二次障害を起こすぞ」


 少女は見たところ十歳前後のように見えたが、まるで年寄りのような喋り方をした。しかし、そんなことよりも少女の発した言葉に高斗は食いつく。


「し、死後硬直!?」


「そうじゃ。何も覚えておらぬようじゃな。まあ、それもそのはずじゃ」


 高斗に向かって、少女は穏やかな声で話しかける。その冷静な口調に高斗はハッとした。

 さっきまでは屋上にいたはずなのに、今いるのは自分の部屋だ。そして目の前には面識のない少女。


(ぼくは……一体……)


 ふと少女の顔を見るが、まるで能面が張り付いたように無表情だった。もしかしたら、屋上で桂馬瑠璃を待つうちに貧血か何かで倒れ、気を利かせた生徒が自宅まで運んできてくれたのだろうか。そう推測する高斗に少女は言った。


「死後硬直に関しては問題ない。血液の循環が上手くいってないのじゃ。なに、じきに慣れる。安心せい」


「そ、そうなんだ。じゃあ安心だね――って、そんなわけないだろ! 死後硬直ってなんだよ! ぼくは一体どうなったんだ!?」


「だから言っておるじゃろう。死没したとな」


 少女はまるで世間話でもしているかのように淡々と答えた。

 死没。

 愛らしい少女からそんな言葉を聞こうとは、夢にも思わなかったが。


「つまりは、こういうことじゃ」


「え?」


 少女は音もなく高斗との間合いを詰めた。鼻先スレスレまで顔が近づき、高斗はドキッとする。すると少女は、手を振り上げると思い切り高斗の頬を引っ叩いた。


「痛! 何するんだよ!」


 高斗の不満の叫びに対して、


「よく感じてみよ。痛くはないはずじゃ」


 少女は落ち着き払って答えた。渋々高斗はぶたれた頬をさすってみる。言われてみれば、確かに痛みはなかった。これだけ近距離でビンタをされれば、少しは痛みがあるはずなのに。


「まさか……」


 考えたくもないことが脳裏をよぎり、高斗は思わず呟いた。

「ぼくは、ぼくは本当に死んだのか……? あれは、夢じゃなかったのか…………?」


「うむ。さっきからそう言っておろうが」


 少女はようやく分かったかとばかりに頷いたが、そうハッキリ肯定されても現実味が沸かない。そんな高斗に、

「正確には半死人と言ったところじゃな。まだ完全に死んでおるわけではないぞよ」


「はあ……?」


「おぬしは今日ナイフで刺された。心臓を一突きにされて死んだのじゃ。しかし、わらわの神力で傷をふさぎ意識を持たせてやったのじゃ。どうじゃ、すごいであろ」


 少女は小さな胸を張りながら得意げに言うが、その姿はどう見ても凄そうには見えない。さらに神力とか言っているところが、怪しさMAXである。そもそも、彼女は何者なのだろうか。高斗は疑問をぶつけた。


「えっと……ところで君は誰なの?」


「ん? わらわか?」


「いきなり人の部屋に現れて、お前は死んだとか言われても信じられないよ……。それに、君どこかで会ったことないかな? 前に一度見た気がするんだけど……いや、そんなことより、君は一体……」


 高斗がそこまで言うと、少女はニンマリと満面の笑みを浮かべた。そして、

「わらわは直毘(なおび)。穢れを払い、禍を直す厄払いの神じゃ。堅苦しいのは好きではないゆえ、親しみをこめてナオと呼ぶがよい」

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