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19 ドSな真綾

 一方その頃。時刻は六時五分。羽波真綾は学校裏にある大きな木の下にいた。

 その古木には、こんな伝説がある。この木の下で告白すれば、その男女は永遠に結ばれるというものである。そして、噂どおりこれまでに何人ものカップルを生み出してきた、まさに「伝説の木」なのだ。


 真綾の目の前には、端正な容姿の男子生徒が緊張した面持ちで立っている。


「羽波生徒会長。こんな早朝から申し訳ありません。ずっと前から、あなたのことが好きでした。どうか、どうか僕と付き合ってください!」


「いやですわ」


 しかし、返ってきたのはその一言だった。


 男は生徒会の副会長で、学内では真綾に次ぐ二位の成績。財力も羽波家には劣るが、そこそこの御曹司である。真面目で学内の評判も上々。しかも、伝説の木のジンクスにまであやかっている。


 なのに、フラれた。


「ど、どうしてですか。僕のどこがいけないんですか」


「そういうことではありませんわ。わたくし以前からずっとお慕いしている方がこの学園におりますの。その方が振り向いてくださるまでは、操を守ると心に誓っているのですわ」


 真綾は端麗な顔を少しだけ歪めながら笑った。


「ですから、あなたとお付き合いすることは出来ないのです」


「そんな、今すぐじゃなくてもいいんです。お友達からでも駄目ですか?」


「お断りいたしますわ」


「な……なぜ?」


 羽波真綾の学内での評価は「完全無欠な美少女」である。その美しい容貌はもとより、誰にでも優しく公平に接している。清潔感のある綺麗な身なりも、礼儀正しい彼女の心をそのまま反映してると言える。何より特筆すべきは、周りの全てを惹きつけるカリスマ性を備えていることだ。生徒会長に就任して以来、誰も彼女の陰口を叩く者はいない。周囲の信望者も多く、今朝のような告白は後を絶えない。しかし、真綾はその告白は全て断っているのである。

 

 その真綾が、男に向かって信じられない発言をした。


「あなたのようなゴミ虫( ・・・)と会っていることがその方に知られては、あらぬ誤解を招いてしまうからですわ」


 真綾の話し方はまるで、昨日見たテレビの話でもするようだった。男は一瞬きょとんとしたが、すぐに顔をしかめて、

「ゴ……ゴミ虫って、僕のことですか?」


「うふふ、他に誰がおりますの?」


 ニッコリと、真綾は答えた。


「困るのですわ。人間失格のガラクタと付き合っているなどと噂されては、わたくしの品位にも関わってきますし」


「ぼ、僕は勉強もスポーツもできるし先生方からの評価も得ている! それに由緒正しい名家の生まれで、断じてガラクタなどではありません!」


「あら失礼。それでは犬コロとでも呼んでおきましょうか。成績もわたくしに劣り、親の七光りがなければ何も出来ないおぼっちゃまには、相応しい爵位です」


「い……犬コロ?」


 男は真綾の言葉に、慌てて顔を真っ赤にした。

 しばらくして、彼は口を開いた。


「あなたが好きな人というのは、一体誰ですか?」


「あらいやですわ。レディーに向かってそのようなことを聞くおつもりですか?」


「はぐらかさないでください! この僕をこれほど侮辱するのですから、さぞ立派な方なんでしょうね。せめて名前くらい聞いていいと思います!」


 整った顔を醜く歪めて男は叫んだ。真綾は嬉々として、

「そうですわね。とにかくそのお方の魅力は人知を超越していますわ。慈悲深く、どなたに対しても優しく人情味のあふれるお方です。お顔も今世紀最大の美男子と言ってよいでしょう。わたくしなど及びもつきませんわ」


「そ……そんな凄い人この学園にいましたっけ? 人知を超越した魅力の、今世紀最大の美男子? 少し言いすぎじゃないですか? とてもそんな人がいるとは思えませんよ?」


「あなたの意見などはどうでもいいのですわ。とにかく、わたくしはそのお方の虜なのです」


「……その人に会わせてほしいと言っても無理ですか?」


「無理ですわ♪」


 キッパリと真綾は切り捨てた。


「最下層民が皇帝に気安く謁見できますか? ましてあなたのような犬コロが。身の程をわきまえなさい」


「……うう」


「しかし、あなたの『頭脳だけ』は評価していますよ。高望みさえしなければ、これまで通りわたくしに仕えることを許可します。理解できたならば、これ以上怒らせない内に黙ってわたくしの前から去りなさい」


 穏やかにそう言うと、真綾は輝きの消えた目で笑みを見せた。


「…………」


 男はもう何も言い返すことなく、急いでその場を走り去った。やがて男の姿が見えなくなると、真綾は周囲に誰もいないのを確認してから口を開いた。


「まったく……いちいち告白を断るのも大変ですわね。かといって無視をしていてはあらぬ噂を立てられるかもしれませんし……こうなっては、一刻も早く高斗さまをわたくしのものにするしかありませんわね」


 そう言うと真綾は空を見上げた。雲ひとつない見事な青空。その中に高斗の顔を浮かべてみる。思えば、高斗と出会ってからずいぶんと骨抜きにされたものだ。


 目を閉じると、真綾はその時のことを思い返してみた。

 

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