16 二日目の朝
翌日の朝、高斗と直毘は仲良く食卓を囲んでいた。
といっても、朝食にありついてるのは直毘だけで、高斗は食欲が出なかったので何も食べずにいた。そんな彼の様子を見て、直毘は白米を味噌汁で流し込みながら言った。
「少しは食べんと、いくらゾンビとはいえ体がもたぬぞ」
「いや、死人がご飯を食べるなんておかしいでしょ」
気落ちした表情で高斗は答えた。しかし、直毘の言うことにも一理ある。高斗は午後に備えて体力を蓄える意味で、
「でも、少しはいただこうかな?」
と、自分の茶碗に米を盛った。
「うむ、それがよい。朝食はきちんと食べないと、力が入らぬものじゃ。人間も神もな」
「そうみたいだね」
テンション低めに高斗は返事をした。自分には生きていられる時間が限られているのだから、いつの食事が最後の晩餐になるかは分からない。そう考えると、文字通り生きてる心地がしない。
「ところでさ、神でもご飯は普通に食べるんだね?」
焼き鮭の身をほぐしている直毘に、高斗は質問をぶつけてみた。やはりこうして見ると普通の人間にしか思えないという意味をこめたのが、直毘は淡々と答える。
「まあ、食べても食べなくてもどっちでもいいのじゃがの。わらわは神ゆえ食事などとらなくても死にはしない」
「へえ、そうなんだ」
高斗は相槌を打った。やはり神の体は人間と構造が違うらしい。
「でもさ、もっとゆっくり食べたほうがいいんじゃない? ナオも一応女の子なんだからさ。せっかく可愛い顔してるのに太っちゃうよ?」
高斗がそう言うと、
「…………!」
直毘は食べてた魚の骨を思い切り喉に詰まらせた。そして苦しそうにゲホゲホと咳をし、あわててお茶をごくごくと飲み干すと、ようやく一息ついた。
「ナ、ナオ。大丈夫?」
心配しながら高斗が顔をのぞきこむと、
「う、うるさい! 大丈夫じゃ!」
顔を真っ赤にして返ってきた返事はこうだった。
(なんか昨日の晩から様子がおかしいんだよなあ……)
そんなことを高斗は考えたが、詮索しても無駄なのは分かってるので、食事を続けることにした。
それから数分ほどして。
「――高斗。今日こそは恋人を作ってもらうぞ。よいな?」
「うん、わかってるよ、ナオ」
朝食を食べ終えた後、高斗と直毘は沸かしたお茶を飲みながら話していた。
直毘にいたってはデザートに大福まで要求してきたが、運よく買い置きがあったので出してあげることにした。なにやら、食後は大福で締めるのが彼女にとっては大事な儀式(?)らしい。
直毘はその大福を美味しそうに食べながら、
「体が朽ちてしまっては、わらわの力でも生き返らすことは出来ぬ。ゆめゆめ忘れぬようにな」
「わ……分かってるよ」
高斗はゴクリと唾を飲んだ。
生き返ることができない。つまり完全なる死だ。
そんなこと冗談じゃないと、高斗は決意を固めた。
「今日こそは告白してみせるよ」
「うむ、それでよい」
高斗は携帯を開いた。待ち受け画像にしているのは、以前撮影した桂馬瑠璃の写真だ。やはり告白するなら桂馬瑠璃がいい。いや、彼女以外には考えられない。それがたとえ叶わぬ恋であったとしても。高斗は決心を新たにしていた。
直毘は、そんな高斗の様子を見るやニッコリと笑って、
「高斗よ。上手くいくとよいな」
「え? あっうん……」
「わらわは、おぬしが幸せになることを切に願っておるぞ」
そう言いながら直毘は小さな手で大福餅をかじった。
その姿を、高斗はポカン、と見つめていた。
幸せ――? 確かにそう聞こえた。直毘は自分の幸せを願っていると。彼女の様子から嘘をついてるようには思えなかった。その言葉を聞いて、高斗は少し罪悪感にかられた。自分のことをこんなにも想ってくれている直毘に対して、高斗は思い切り疑っていたのだから。
(やっぱり……ナオは敵じゃない)
彼女は神だ。だから人間である自分とは、価値観が少し違うのだろう。しかし、たかがそれだけだ。死んでしまったことにはいまだショックを受けている。どうして自分がこんな目にと、全てが恨めしく思うこともある。しかし、こんなにも親身にしてくれる直毘がいたから、こうして立ち直ろうとしている自分がいる。全ては直毘のおかげだ。ちょっと、子供っぽいところはあるけど。
何か、恥ずかしいやら、少し照れくさい気持ちになってきた。
そんな高斗に、直毘は声をかけた。
「高斗よ。また小うるさい女がやってくるぞ。覚悟しておけ」
「えっ」
高斗はドキリとした。
小うるさい女というのは――彼女しかいない!
今からでもどこかに姿を隠そうか。そんなことを考えていると、インターホンの呼び出し音が鳴ると同時に、
「たーかーとー! 迎えにきてあげたわよー! さっさと開けなさーい!」
当惑する高斗の耳に、千堂七海の叫び声が響き渡った。




