14 なんでこうなるの?
恵美河芹奈は高校一年生で、高斗の後輩に当たる女の子だ。
赤髪のツインテールの女の子で、小動物的愛くるしさを持ち、人懐っこく、誰とでも仲良くなれる。しかし体系はちっこく、まるで大人の色気を感じさせない。あまり、ではなく、まるで、である。
「とりあえず、ありがとう。おかげで助かったよ」
高斗が礼を言うと、
「あーっ! それだけで済ませないでほしいです! もっと芹奈に感謝して、抱きついたり、しなだれかかったり、もたれかかったりしてほしいです!」
「な、なんでそんなことを。芹奈はぼくにとって可愛い後輩なんだから。そんなこと出来ないよ」
「先輩ひどいです! それは女の子にとってNGワードですよ!? 芹奈は後輩ポジじゃなくて、先輩の彼女ポジを目指してるのにいぃいいぃっ!」
芹奈が叫ぶ。
高斗は、それを無視した。
とりあえず左右の手を動かして自由が効くことを確認してから、体を起こした。まだビリビリと痺れてはいるが。
「あっ……それよりも」
目を閉じたまま気絶している真綾。
手を取り脈を測ると、わずかながら鼓動を続けていた。
ホッと高斗は息をついた。
「よかった……生きてる」
「おっぱいオバケなんか放っといて、あたしの方を見てくださいです!」
芹奈は握りこぶしを振りながらプンプン怒っている。
「……ほっとけないよ。倒れてる人を」
「ぅぁあああん……先輩、芹奈のこと見捨てるですかぁ?」
「見捨てるとか、そういうことじゃないよ。もしもショックで心臓麻痺とか起こしてたら大変だろ? それに……」
「うぇぇん……先輩に捨てられた……っ、見限られた、裏切られた、突き放された。あぁぁぁんんっ!」
「芹奈……」
大粒の涙を流しながら泣き崩れる芹奈を、見下ろしながら高斗は呟いた。
芹奈は、七海や真綾と違って、感情表現の仕方がどストレートである。ちょっとした会話の機微で、よく泣き、よく笑う。今回のように衝動が爆発した時など、一番手に負えない人物でもある。
「と、とにかく。真綾先輩を家まで送らなきゃ」
そう言って、高斗が真綾を起こそうとした時だった。
足が動かない。何かと思って下を見ると、がしっと芹奈が足元にしがみついたまま、離れなかった。
「胸がないから!? おっぱいオバケみたいに胸がないから、金も地位も権力もないから、先輩は芹奈に冷たくするですか!?」
見上げる芹奈の目は、雨の日に捨てられた子犬そのままだった。
(ああ……めんどくさい)
高斗がそう思っていると、まるでゾンビのように、芹奈は高斗の足元から這いずり上がってきた。
「そう……芹奈には、何もないです……。先輩に見捨てられたら、ただのおっぱい小さい子ですう。でもね? さすがにそれは酷すぎじゃないですかぁ?」
巻きつく芹奈の腕に、どんどん力が込められ、高斗の体はきしんでいく。
「せ~んぱ~い」
「ちょっ……! まっ……」
(こいつ……この体のどこに、こんな力が……)
驚異的な力で抑えられ、高斗はまったく抵抗することができなかった。
やがて、よりかかる芹奈の体重を支えきれず、高斗は押し倒されてしまった。
「いったっ! 芹奈、何するんだよ!」
「先輩が悪いです。先輩が、浮気するから」
芹奈が上から高斗の顔を覗き込む。その目は、狂気をはらんだようにギラギラと怪しく光っていた。
その目を見て高斗は気づいた。
ヤバい、全然助かってない、と。
「大体なんでおっぱいオバケが先輩と揉みくちゃしてるですか!? ひどい、ひどい裏切りですー!」
「……ち、ちがう。お前が想像してるようなことは、してない」
「あんなに服が乱れてるのに、まだ潔白だと言い張りますか!? この卑怯者ー!!」
「あれは真綾先輩が自分で脱いだんだ!」
高斗も叫び返す。
しかし、こうなってしまっては全てが無意味だった。芹奈は怒ると、人の話を全く聞かないのだ。相手が自分の意見を聞き入れるまで、何時間でも泣きじゃくるため、高斗に分が悪かった。
「せ、芹奈決めたです! 先輩が誰の手にも渡らないように、先輩を殺して芹奈も死ぬです! そうすれば、ずっと一緒にいられるですね!?」
「ま、待て! 早まるな!」
高斗がそう叫ぶより早く、芹奈はポケットから折りたたみ式のナイフを取り出し、その手に持った。
「えへへえ……。これで、未来永劫先輩と一緒ですぅ……。もう決して離れることはないですからねぇ……」
ニタニタとナイフを見ながら微笑むその姿は、完全に常軌を逸していた。
高斗は何とか芹奈から離れようと、のたうちまわりながら必死にもがいた。
その様子に気づいた芹奈が、逃すものかと高斗の上半身にまたがる。
「ぐええっ!」
さらに、身動きのとれなくなった高斗の首を絞めながら、
「それじゃあ、向こうで会いましょうね? せーんぱいっ」
そう言って、高斗の胸にナイフを突き刺した。




