11 真綾、光臨
七海が帰った後、ベッドの上で膝を抱えながら高斗は一人考えていた。
(七海と恋人になれば、ぼくは人として生き返ることができるんだよな……)
自分のためだけに七海の想いを利用しようとした自分が、どうしようもなく汚れてるように思えた。それが生き返るためだとしても。直毘は言った。自分が生き返るためには、女性と相思相愛になるしかないと。
直毘といえば、その直毘は一体どこにいったのだろうか。
「ナオー、いたら返事してー」
「なんじゃ」
「うわっ!」
試しに読んでみると、耳元から声がしたので、高斗はベッドの上から転げ落ちてしまった。顔を上げると、直毘の無表情が見えた。その姿を見て、高斗は驚嘆しながら言った。
「い、いつの間にいたの?」
「? さっきからおったぞよ?」
「ぼくには見えなかったよ」
「おお、そういえば言ってなかったか」
直毘は納得したように頷いた。思い返してみれば、いつも彼女は大事な説明を省いてた気がする。
「わらわには透明になれる能力があるのじゃ。本当に言ってなかったか?」
「間違いなく言われてないね」
「この力を使えばわらわのことは認識できず、姿も見えなくなるのじゃ。触れることは出来るが、触れていることには気づけないということじゃな。神は人間の前に無闇やたらと姿は見せられぬからな。この力のせいで、遊び友だちもできぬ」
少し寂しそうな表情で直毘は言った。自由奔放にやってるように見えて、彼女は彼女なりに孤独な思いをしてきたのだろう。
「……ん?」
その時、高斗は言い知れぬ違和感を覚えた。
彼女は遊び友だちは出来たことはないと言っていたが、自分は一度、どこかで直毘と会っているはずだ。なのに、どうしてその時のことを覚えていないのだろう。
(まさか……)
「ねえ……ナオは、ぼくと面識があるんだよね? ぼくは、その時のことを全く覚えてないんだけど」
「そうか。無理もない。ずいぶん昔のことだからのう」
「もしかして君は……ぼくの記憶を封印したんじゃないの?」
直毘と自分は初対面ではない。しかし、高斗にはどうあがいてもその時のことを思い出せない。これは、直毘に記憶の一部を封じられたということになる。
つまり、直毘にとって高斗の記憶を封印しなければならない「何か」があったということだ。そして直毘は、意図的にそれを隠してる。
「答えて。きみは何かやましいことがあって、それを僕に隠してるんじゃないの?」
「違う!」
今までで初めて、苛立ちをつのらせながら直毘は叫んだ。
「聞け、高斗。確かに、わらわはまだ全てをおぬしに話したわけではない。じゃが、それは悪意があってのことではないっ。だから、無用な詮索はするな」
「……でも……」
「それに、じゃ」
直毘は真剣な表情で高斗を見つめると、
「いつか、おぬしはわらわのことを思い出すはずじゃ。その時になれば分かる」
「ナオ……」
凄まじい剣幕に押されながら、高斗は何か言葉をかけようとした。その時、
「む……?」
「え……どうしたの、ナオ?」
途端に険しい顔で直毘が黙ってしまったので、声をかけづらくなってしまった。
しばらくすると、直毘は口を開いた。
「高斗。また客だ」
「ええっ!?」
予想だにしない直毘の言葉に、高斗は驚きの声を上げた。
「だ、誰。今度は誰が来たの?」
「行ってみれば分かる。今度のは堂々とリビングまで入り込んできておるぞ」
「はあ!?」
彼女の言葉に、高斗は部屋を飛び出した。階段を転げ落ちそうになりながら走り抜けると、急いでリビングの扉を開ける。そこに、彼女はいた。
「高斗さま、ごきげんよう。わたくし、どうしても我慢できずに、会いにきてしまいましたの」
彼女――羽波真綾はそう言うと、頭を下げて実に上品なお辞儀をした。




