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ヴァンパイアを退治するために召喚されたが、一緒に住むことにした  作者: たこす
第二章 ドキッ!モンスターだらけの決起集会
9/24

scene2

 この館に住みだして1週間。

 だいぶここでの生活に慣れてきた。


 昼間はシーラは眠っているため、自由な時間が多い。

 オレは外の世界を探索したり、村人たちから食事をもらったりと有意義に過ごしている。


 そこでわかったことは、このラウルーラという世界、ほとんど地球(主に日本)の環境とほぼ同じだということだ。

 1年365日、四季があり、季節によって生活スタイルが変わる。

 今は秋なんだと。

 オレが召喚されたとき日本は春だったよな。半年の誤差があるということか。


 南へ行けば雪は降らないそうだが、この地域はすごい豪雪地帯らしい。

 これから冬に向けて冬囲いの準備の真っ最中だという。


 オレ、寒いの苦手なんだよなー。暑いのも苦手だけど。


 そうそう、肝心の食糧は村人たちから野菜やパンを分けてもらって食べている。

 野菜やパンも、日本のそれとなんら変わらない。名称こそ違うものの、ジャガイモや大根やニンジンがあったりする。


 服は、彼らの着なくなった布製の服とズボンをもらった。

 少し離れたところに大きな町があって、そこで野菜を卸すついでに買って来たりしているそうだ。意外と、ちゃんとした生活を送っているんだな(失礼)。



 午前中はそんな感じで外を見て回り、午後から夕方にかけて一眠り。

 陽が暮れてにシーラが目覚めると、オレも起きて二人で食事をとる。

 といっても、シーラはほとんど何も食べない。

 時たま、オレが村人からもらったパンや野菜スープを横取りするのだが、

「これのどこがうまいのじゃ」

 といって吐き出してしまう。


 いったい、彼女の栄養源はどこからくるのだろう。



 でもこの前、オレが召喚された時に持っていたカレーのルーを使ってカレーライスを作ってあげたら、ものすごい喜ばれた。


「ななな、なんじゃ、このうまさは!」

 と、それはもう大絶賛。


 どうやら日本のカレーは異世界のヴァンパイアの胃袋をつかんだらしい。

 以来、ことあるごとにシーラが独自のスパイスを使ったカレーを作るようになった。


 でもやはりカレーという名の別料理ばかり。

 まあシーラの料理は美味しいからいいんだけどね。



 そんなこんなで毎日食事と後片付けが終わると、オレはシーラとこの世界のこととオレの世界のこととで話し合った。

 なにせ、お互い知らない世界なのだ。

 この世界のこともびっくりだが、オレのいた世界について話すと、彼女はまるで幼い子供のように「ふむふむ」と目を見開いて聞いている。

 特に飛行機で人間が空を飛ぶという説明には「それは絶対ウソじゃ」と、まったく信じてなかった。



 この世界については、やっぱり魔法が存在するらしい。

 とはいえ、使えるのは限られた人間や種族だけということで、全員が使えるわけではないという。

 魔術師クラスになれば、テレポーテーションや姿を消すこともできるそうだ。

 それこそ絶対ウソだと思うのだが、実際にやってのける人物をシーラは知っているというから、本当なのだろう。人間なのかは疑問だが。


 そんなこんなで、さらに1週間はシーラと互いの世界について語らった。



 それからは、毎晩のようにオレたちはゲームに興じた。

 驚いたのは、この世界にもトランプが存在しているということだ。

 ハートやダイヤなどの種類は違うものの、1から13まである数字が4種類とジョーカーが含まれた53枚のカードで、主に占いに使うのだそうだ。


 オレはそのトランプで、向こうの世界でやっている“スピード”や“神経衰弱”、“ポーカー”や“ブラックジャック”などを教えて二人で楽しんだ。


 ジャンケンなるものを教えて、棒と水桶を用意して“たたいてかぶってジャンケンポン”をやったりもした。

 シーラの攻撃力がハンパなく、ジャンケンに勝って叩こうとした際、棒がオレの顔をかすめて床に叩きつけられ、木っ端みじんに吹き飛んだのを見てやめた。危うく死にかけた。



 オレとシーラとの生活は、そんな感じで約一か月続いた。



     ※



 そんな、ある日のことだ。


 いつものようにオレはシーラと神経衰弱を興じていると、コツコツと窓を叩く音が聞こえてきた。


 こんな夜中に誰だ?

 と思いながらも、ゾッとした。


 なぜならここはシーラの寝室、つまりは館の最上階だったからだ。

 外は言うまでもなく、高い外壁。

「ちょっと外から失礼」、というわけにはいかない。


 しかし、そんなオレの恐怖心などお構いなしに、コツコツと窓を叩く音は続く。


「あの、シーラさん……? なんか音がするんですけど……」

「おお、わかっておる。ちょっと待て、今、いいとこなのだ」


 そう言いながらシーラは自分の引いたカードの数字を見ながら、それと同じ数字がどこにあったかを真剣に思い出そうとしていた。

 そうこうしているうちに、コツコツと窓を叩く音が大きくなっていく。

 正直、ビビりのオレは今にもちびりそうだ。


「あ、あ、あ、あの、シーラさん……!?」

「待て。もう少し待て。あとちょっとで思い出せそうなのじゃ」


 そういって、うんうんうなる400歳のヴァンパイア。

 やっぱ、モンスターであっても歳をとると記憶力が低下するのかな。


「わかった、これじゃ!」


 そういってめくったのは、前のターンでめくったまったく関係のないカードだった。シーラって頭悪いのかな?


「……ちぇ」


 ふてくされながら、カードを裏返しにして元に戻していく。口元が数字の「3」のようなおちょぼ口になっているのが滑稽だ。

 しかし、その間にも窓を叩く音はどんどん激しさを増している。

 なんだか、もう、怒り狂ってるみたいだ。


「騒々しいのぉ」


 シーラは重たそうに腰を上げて壁沿いに行くと、ガチャリと窓を開けた。


 瞬間、外から一羽のカラスが入ってきた。


「おわ!」


 オレはびっくりして腰を抜かす。

 カラスにしてはやけに体が大きい。大鷲のような大きさだ。顔もでかい。


 カラスは天井付近を旋回すると、窓の縁にとまった。


「はあ、ようやく入れてもろうたわ。このまま無視されたら、どないしよ思たわ」


 窓の縁にとまったカラスがいきなりそう言った。

 甲高い声だが、確かに人間の言葉だ。この世界のカラスってしゃべるんだ……。


「おお、誰かと思えばライラの使い魔のホープではないか」


 シーラがカラスを見るたび、そう言った。

 ライラって誰……?


「10年ぶりくらいでんな」

「ライラは元気かの? 最近、会っておらんでな」

「もう元気元気。近頃じゃ、ホウキにまたがって世界一周しようと企んでいるくらいで」


 オレは、勝手に盛り上がるヴァンパイアとカラスに向かって尋ねた。


「あの、シーラ。このカラスは……?」


 オレの言葉に、カラスは「コケー!!」と鳴いた。いや、それニワトリだから。


「シーラのあねさん、誰でやんす? この冴えないガキんちょ」

「おお、ユータローと言ってな。わらわの友人じゃ」

「ふーん」


 まるで興味なさそうにオレを見つめるカラス。

 ううう、カラスごときに見下されるなんて……屈辱だ。


「ユータロー。こやつはホープと言ってな、ライラの使い魔じゃ」


 知ってるし。それ、さっき言ってたし。


「いや、ていうかライラって誰?」

「も、もぐりがおる! ここにもぐりがおる! 我らの偉大なるご主人様を知らんとは!」


 カラス、いやホープがコケコケ鳴きながら叫んでいた。

 あああ、鳥の丸焼きにしてやりてえ……。


「ライラはな、この辺り一帯を取り仕切る魔女じゃ」

「魔女!?」


 シーラの言葉にオレはびっくらこいた。

 おいおい、マジかよ。

 ヴァンパイアの次は魔女。どうなってるんだ、この世界。


「もしかして、魔女ってホウキにまたがって空を飛んだり、黒魔術で悪魔を召喚したりする、あの魔女のこと?」

「おお、詳しいのぉ。あぬしの頭は百科事典のようじゃな」


 いや、そんなに賢くないし。


「ライラはわらわよりも100歳ほど年下じゃが、魔力に関してはこの辺りで一番じゃろう」


 シーラよりも100歳年下?

 モンスターの年齢基準がさっぱりわからないが、もしかしたら某アニメ映画のように、黒いローブを着たかわいらしい少女なのかもしれない。


「ところで、そのライラがわらわに何の用じゃ?」


 ホープは待ってましたとばかりに一気にまくしたてた。


「実はですね、東のほうでウチら魔族と人間との間でちょっとしたイザコザがありやしてね。まあ、理由としては些細なことなんやけど、それがどうも若い連中に火をつけたらしくて。人間との戦争やーってイキり出しとるんですわ。古くからいる穏健派の年寄り衆たちがなんとか抑えておるんですが、どうも雲行きが怪しくなってきやしてね。そこでシーラのあねさんに仲裁をお願いしようと」


 おいおいおいおい、人間とモンスターの戦争?

 大丈夫か?

 本当だったら人間にものすごい被害が出るぞ?


「しかしその手の問題は、昔から何度もあったからのぉ。正直、またかという思いじゃ。ライラは何をしておるのだ?」

「ご主人様は、年寄り衆たちとともに若い連中を抑えとります。せやけど、もう、限界かもしれんて言うとりました」

「ふうむ、ライラで手こずるのか。これはいよいよもってヤバいのぉ。わらわにもどうしようもないぞ」


 ホープはプルプルと首を振って懇願するかのように頭を下げた。


「そ、そんなこと言わんと。シーラのあねさんは400年もの間、人間の近くに住みゆう経験と知識があります。どうか、ワシらに知恵をお貸しください」


 このホープというカラス、本気で困っているようだ。


「行ってあげたら?」

 というオレの言葉に、シーラは顔を向け、そして笑みを浮かべた。


「うむ、いいだろう」


 その笑みに、オレは悪い予感がほとばしった。

 そして、その悪い予感はすぐに当たった。

 


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