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ヴァンパイアを退治するために召喚されたが、一緒に住むことにした  作者: たこす
第一章 ヴァンパイアを退治するために召喚されました
6/24

scene5

 山賊のアジトはすぐにわかった。

 岩肌を削り取った、天然の要塞。

 なぜここがわかったのかと言うと、このヴァンパイアが以前この場所で彼らと遭遇しているからだという。


「あの時は、むこうがビビって手を出してこなかったからの。わらわも干渉することなく無視したのじゃ」

「そ、そうですか……」


 答えながらも、今はオレのほうが明らかにビビっていた。

 茂みの中から様子を見てみると、目の前にはヤバそうな連中が2人いる。見張りだろう。

 かがり火を焚いている入り口付近に、ものすごい目つきで立っていた。

 オレが人間だったら、たぶん怖くてちびってる。いや、今でもちびりそうだ。


「ほれ、倒してこい」

「はっ!?」


 いきなり言われて、思わず聞き返した。

 何を言っているんだ。


「今のおぬしは不死身だ。パワーもスピードもわらわと同じくらいある。あんなゴロツキに負けはせん」

「負けはせんて……」


 怖い。

 彼女と出会う前も怖かったけど、今はリアルな怖さがある。

 ヤクザの事務所に殴り込みに行くようなもんですよ。


「ほれ、さっさといかんか」


 首根っこを掴まれると、オレは猫みたく放り投げられた。


「ぎゃあああああ」


 ドスン、と見張りの前に落ちる。

 コントロール抜群だな。


「誰だ、てめえは!」


 オレの姿を見た瞬間、見張りの一人が叫んだ。

 声の質が、もう普通じゃないですよ。

 本物のヤクザっぽい雰囲気ですよ。


「ひいい! ぼぼぼ、ぼくは、通りすがりの旅人です!」

「旅人ぉ? 全然そうは見えねえぞ」

「い、いえ、ほんと、旅人でして……」

「おい」


 見張りの二人がお互いに目配せをすると、いきなり手に持った棍棒でオレの頭を殴りつけた。


「ぎゃふん!!」


 ……。


 あれ、痛くない。


 見れば、オレの頭に振り下ろしていた棍棒がプルプルと震えている。


「ってぇ~……」


 見張りは小さくうめきながら、そのプルプルと震える手をおさえていた。

 見れば、確かに棍棒はオレの頭を打ち付けている。

 しかし、痛くもかゆくもない。むしろ、こそばゆい?


「な、なんつう石頭だ……」


 石頭で済ましていいものかどうか。

 しかし、オレの身体がとてつもなく丈夫だということがわかった。


「てめえ、やりやがったな!」


 そう叫びながら、もう一人の男がナイフを突きつけてきた。

 いや、何もやってないんだけど。


 グサリ、と柔らかい感触が腹にくる。


「あ……」


 ぬおおお~!?

 腹に刺さっとる!!

 きらりと黒光りしているナイフが腹に刺さっとる!


「ぐ、ぐふ」

「へへへ、死ねやクソガキ」


 完璧、悪者のセリフじゃん。

 ヤバい、やっぱ無理だった……。

 結局はヴァンパイアではなく人間に殺されるのか……。さよなら、オレの命。


 ……。


 ていうか、死んでない。


「あれ?」


 見れば、確かにナイフが突き刺さっている。

 しかし、ズボッと引き抜くと、たちまち傷口がふさがれていった。

 そうか、不死身ってこういうことを言うのか。


「て、て、て、てめえ、なにもんだ!?」


 山賊たちは明らかに狼狽している。

 いやぁ、無抵抗なヴァンパイアを殺すのはためらったけど、悪逆非道な人間はためらう必要ないわ。

 オレは山賊二人に思いっきり腕をふるった。


「げぼお」


 山賊たちは血反吐を吐きながら吹き飛ばされ、岩壁に激突して倒れ込んだ。

 ふたりともピクピクと痙攣している。

 よかった、死んでない。

 にしても、すごいパワーだ。ヴァンパイアの力ってすごいな。

 それに、避ける間もなかったようだ。


「ふむ、まあこんなもんじゃろ」


 そう言ってヴァンパイアが出てきた。手伝ってくれたらよかったのに。


「この調子で山賊どもをこらしめるぞ」

「殺さないようにしてくださいね」

「わらわは加減が難しいからの。保証しかねる」


 その時、わらわらと中から山賊集団が姿を現した。


「おお、出てきおった出てきおった」

「何気に楽しんでません?」

「てめえら、なにもんだ!?」


 リーダー格らしき大男が尋ねる。


「なにもんだとは、ずいぶんじゃのお」

「あ」

 と、山賊たちが目を丸くする。


「て、てめえはヴァンパイアのシーラ! てめえ、なんのつもりだ。人間の世界には不干渉だったんじゃなかったのかよ!」


 声は震えているが、顔つきは怒りでいまにも爆発しそうな雰囲気だ。

 ていうか、シーラっていうのか、このヴァンパイア。人間ぽい名前だな。

 シーラと呼ばれたヴァンパイアは、つん、とすました顔で言った。


「そうだったのだがな、気が変わった」

「けっ、やっぱりヴァンパイアなんざ信じるんじゃなかったぜ。おいヤローども、こいつらをバラバラに刻んでしまえ」

「おおう」


 勢いやよし。

 しかし、彼らの攻撃は一つたりともオレたちには効かない。

 いや、シーラと呼ばれたヴァンパイアは効かないどころか攻撃をまともに受けていない。ヒラヒラと華麗にかわしている。


「な、なんだ、こいつら……」


 案の定、山賊たちの顔に戸惑いが浮かぶ。


「おい、早くこらしめろ」


 シーラがこっちを見ながらそう言う。

 わかってますって。


 オレは戸惑った顔を浮かべる山賊たちに拳をふるった。


「ぎええええぇ」

「ぎゃああああす」

「ぴぎいいいいい」


 さまざまな悲鳴をあげながら、吹き飛ばされていく。

 オレ、本当に強くなってる。

 ヴァンパイアの力ってすごいんだな。

 よく生きてたな、オレ。


「な、な、な……。バケモンが二人いやがる」


 誰がバケモンだ。

 最後の一人を拳で殴ろうとした瞬間、異変は起きた。


 急激に身体が重くなり、山賊に向かって放つパンチにキレがなくなっている。


 パシン、と乾いた音が山賊の顔を直撃する。


「んあ?」

「……」


 オレの拳は、わずかなダメージも与えることなく、山賊の頬に当たっている。


「なんの真似だ、てめえ」

「あ、あの、シーラさん?」


 キリキリキリ、とシーラに顔を向ける。

 彼女はしれっと言った。


「あ、わらわの力の効力がなくなったようじゃ」


 そんな、いきなりですか!?

 今、まさに攻撃を繰り出している最中に、いきなりですか!?


「てめえ、ふざけやがって!」


 山賊がそう言って棍棒を振りかざす。


「ひ、ひええええ!!」


 頭を抱えるオレの前に、颯爽とシーラが割り込んできた。


「まったく、何をしておるのだ貴様は」


 言うなり、棍棒を振り下ろす山賊に華麗な蹴りをお見舞いした。


「ぐふう!!」


 叫びながら山賊は吹き飛ばされていく。すごい早業……。オレ、ほんとよく生きていたな。


「わらわの力を与えたというのに、なんとも情けない」


 いや、だってこんなに早く切れるとは思わなかったし。

 とりあえず、山賊に言わないと。

 オレは地面に突っ伏しているリーダー格の男に声をかけた。


「おい」

「へ、へ、へ、へい……?」


 そんなビビんなくても。まあ、逆の立場だったら、オレもビビるか。


「今後、村の畑を荒らすなよ」

「へ、へ、へ、へい……」


 しゅん、とうなだれる山賊。

 ヴァンパイアの力って本当にすごい。

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