scene2
「シーラ、なんでここに……」
「大きな物音がしたのでな」
「で、でも、普段は何をしても起きてこないのに……」
オレの疑問に答えるかのように、シーラは目の前の男を見やった。
「こんな強烈な殺気を放つ者がやってきて、気づかぬわけあるまい」
そうか、この男の剣気は、やっぱりシーラでも目が覚めるほどのものだったんだ。
そんなに強いんだ、この人……。
「ユータローは下がっておれ。いくらおぬしがこの館の魔力で多少強くなっておるとはいえ、こやつの気はただものではない。人間のおぬしなら、油断した瞬間にやられるぞ」
「あ、ああ」
オレは慌てて物陰に隠れて様子を伺った。
男は動揺した素振りもなく、冷静に言った。
「なるほど、ヴァンパイアと人間が共存しているわけか。気が付かないわけだ」
「おぬし、巷で噂のモンスターハンターか」
モンスターハンター?
それって、携帯ゲーム機とかで人気の「獲ったどー」とか言ってるようなやつ?いや、言ってるのか知らないけど。
「よくわかったな。まあ、わかったからといってどうなるわけでもないがな」
そういって、男はなんの躊躇もなく剣を離した。剣の重量がすべてシーラにのしかかり、バランスを崩す。そこへ、男は懐からクイを取り出してシーラの心臓めがけて突き刺してきた。
「あ、危ない!!」
オレの叫び声と同時にシーラは身体を横にくるりと回転させて見事避けきった。
はやい。
その反動で放り投げられた剣を、男は空中で受け取ると、そのまま回転して身動きが止まったシーラの胸の突き刺した。
「があ……!!」
「シーラ!!」
シーラの顔が、恐ろしいヴァンパイアのごとく変わっている。いや、もともとヴァンパイアなんだけど。
両目が釣りあがって、耳を尖らせて、口からは顎にまで届きそうな長い牙が生えている。
胸に突き刺さった剣は、そのまま背中まで貫かれ、さらにその切っ先が館の壁に突き刺さった。
まさにシーラは身動きが取れない状態となっていた。
「さすが、不死身のヴァンパイア。この状態でも、ピンピンしているのか」
男はニヤリと笑うと、再度クイを取り出した。
「だが、これを心臓に突き刺せば死ぬんだろ?」
ヤバい。
どこをどう巡って伝わったのか知らないが、オレが村人たちに言ったヴァンパイア退治の方法をこの男は知っている。
シーラのほうを見ると、険しい顔で額から汗が滴り落ちていた。
なんとか助けないと。
オレはとっさに物陰から出て、クイを握る男の背後に飛びついた。
「とおおーー!!」
とおってなんだよ。とおって……。
「うお」
オレの不意打ちにも似た飛びつきに、男はバランスを崩した。
すぐさま、渾身の力で男を締め上げる。
館の魔力で多少は強くなっているはずだ。
「シーラは殺させない!!」
ギリギリ、という音が聞こえる。
正直、人間を傷つけるのは不本意だけど、この際、骨を折るぐらいしないとシーラが殺されてしまう。
「貴様、人間のくせに邪魔をするのか」
男はジタバタしながらオレを引き離そうとしていた。
てか、なにこの力……。
悪魔すら撃退するオレの力を無理やり引っぺがそうとしている。
ほんとに人間なの?この人……。
「シーラはオレの友達だ!!友達が殺されるのを黙って見てることなんてできない!!」
「友達だと?笑わせるな。人間が下等なモンスターと相いれることなど、ありえん」
「ありえるから、オレはここにいるんだよ!!シーラ、今のうちに逃げて」
オレは剣に串刺しにされているシーラに向かって叫んだ。
太陽がさんさんと輝く館の外に出ることはできないから、どこに逃げればいいのかなんてわからないが、少なくとも館のどこかに身を潜めてもらうしかない。
それだけ、この男の強さは尋常じゃなかった。
「バカを申すな。おぬしをおいて逃げられるか。というより、身動きすらできん」
シーラは「うんうん」とうなりながら身体を貫いている剣を引き抜こうと必死だった。
オレが引き抜けばいいんだけど、そうすればこの男の身体が自由になってしまう。
このモンスターハンターは、動きも素早い。きっと、オレよりも早くシーラの心臓にクイを打ちこむだろう。
「それよりも、わらわを助けようとすればユータローも殺されるぞ」
確かに。
今、この男の標的はシーラだけだ。
同じ人間であるオレは殺されないかもしれない。
でも、それじゃダメなんだ。
「オレは死んでも元の世界で悲しむような家族はいない。でも、シーラが死んだらライラやマーキュリー、アランが悲しむ。オレは、そんなの嫌だ」
いろんなモンスターと接してきたからこそわかる。
彼らはオレたち人間と同じなんだ。
嬉しい感情や楽しい感情、怒りや悲しみ、喜怒哀楽があるのだ。
たとえモンスターだからといって、問答無用で殺していいはずがない。
そんなオレの言葉に、シーラは言った。
「バカか、おぬしは。ユータローが死んだら、わらわが一番悲しむわ!!」




