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ヴァンパイアを退治するために召喚されたが、一緒に住むことにした  作者: たこす
第四章 イケメン狼男がやってきました
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scene4

「あやつは理性が吹っ飛ぶと、本能のままに行動するから厄介じゃ」


 シーラがどこか遠くへアランを捨てに行ったあと、シーラの寝室でオレにそう言った。

 オレもまさかアランがシーラの姿を見たとたんにあんなに豹変するとは思わなかった。

 やっぱり中身は狼なんだな。


「とにかく、今後やつが来ても近づかんことじゃ」

「でも、話してみると案外いい奴だよ」

「いい奴?」


 ははは、とシーラは笑った。


「あんな男のどこがいい奴なのじゃ。ただのかっこつけたがりではないか」

「まあ、狼男に変身したくはないとは言ってたけど……」

「狼男としての誇りも持たぬ輩とは、わらわは一切口を聞きたくない」


 こりゃ、思った以上に拒否られているぞ。

 アラン、可哀そうだけど、見込みないよ。


「ユータローはなぜアランと一緒におったのだ?」


 気を取り直してシーラが尋ねた。


「いや、単に一人で寒そうだなーって思って……」

「そこがおぬしの悪いところじゃ。良いところでもあるが」


 どっちだよ。


「我らの同族、全部が全部いい奴だとは思わぬことだ。中にはアランのように、中途半端に本能だけで生きているような輩もおる」

「キモに命じるよ」


 よっこらせ、とオレは座っていた床から腰をあげた。


「なんじゃユータロー、今宵はもう休むのか?」

「ああ。今日は昼間っからアランと狩りをしてたから。っていっても、一匹も獲れなかったけど」

「そうか、昨晩の続きをしたかったが無理強いはせぬ。ゆっくり休め」


 おやすみ、と言い残してオレはシーラの寝室を出た。

 やっぱりモンスターって、根本的に人間と違うのかな。

 アランの豹変ぶりにオレは少なからずショックを受けていた。



 ドンドンドン!!

 と玄関の扉を叩く音で目が覚めた。


 時計を見ると、朝の5時。

 いったい誰だ、こんな朝っぱらから。


 そう思ってベッドから降りて玄関の扉を開ける。

 するとそこには、身体中傷だらけになっているアランがいた。


「ア、アラン……!?」

「ぜえ、ぜえ、ぜえ……。おはよう」


 肩で息をしながら青ざめた表情でそう言った。


「ど、どうしたんだ、その傷」

「いやぁ、昨晩は愛しのマイハニーに崖から突き落とされてね。駆けのぼってくるのに時間がかかってしまった」


 そこまでするのか、シーラ……。

 いや、それでもめげずにここまで来るこの狼男もすごい。


「とりあえず入れ……あ、いや入れないんだっけ。ちょっと待ってろ」


 オレは慌てて部屋に戻ると、村人たちからもらった包帯とガーゼを持って玄関前へと戻った。

 そして、玄関先でへたり込むアランに巻いてやった。


「すまないな」

「いや、礼なんかいいんだけど……」


 それよりも、この状態でここまで来た理由を知りたい。

 さすがにここまでされたら命の危険を感じるぞ。


 オレの疑問を知ってか知らずか、アランは言った。


「ボクは大丈夫。これも、愛しい我が子を崖に突き落すライオンの試練だと思えば、へこたれないさ」


 いや、へこたれようよ……。

 死んじゃうよ、マジで。てか、シーラはライオンでもないしね。


「とにかく、ボクはどうしてもシーラに会いたいんだ」

「昨日会ったじゃん」

「まあ、会ったといえば会ったけど。いかんせん、記憶がなくて」


 動物的本能をさらけ出してたもんね。


「彼女と会うといつも記憶が途切れるんだ。だから、意識がはっきりしている早朝に会おうと思って」

「シーラはもう寝ちゃってるよ。ヴァンパイアだから」

「ね、寝てる……?」

「陽が昇っているうちは、外に出れないから昼間は寝てるんだ」

「そ、そうなのか?」

「そ、そうだよ?」


 ていうか、知らなかったの?200年もアタックしといて。

 まあ、結界が張られているわけだし、知らなくて当然といえば当然かもしれないけど。


「ということは、ボクがいくらここで呼びかけても彼女は出てこない、ということだね」


 そういうことだね。


「じゃあ仕方ない。また夜まで待つとするよ」

「また?」

「なあに、ボクは待つのには慣れている」


 そういう問題じゃないんだけどなあ。

 シーラの態度を見れば、アランに気がないことは一目瞭然なんだけど。いや、むしろ毛嫌いしている。


「あのさ、アラン。言いにくいんだけど、シーラは振り向いてくれないと思うよ」

「なんだ、昨日は応援してくれるって言ってたじゃないか」

「昨日はね。でも、アランの豹変ぶりを見て考えを改めたんだ」

「豹変ぶり?ボク、何かしでかしたのかい?」


 しでかした、というよりは本能に忠実になったというか。

 まあ、説明したところでわかってもらえないだろうけど。


「とにかく、応援するのはやめるよ。アランは仲間のところでいい人見つけた方がいいと思う」

「なんだいなんだい。結局はキミもあきらめろって言うのか。ふん、やっぱり人間なんて信じるんじゃなかった」


 耳が痛い。


「何度言われようと、ボクはあきらめないよ。絶対、シーラの貞操を奪ってやる」

「それがダメなんだよ!!」


 本気なんだもんな、彼。


「ダメ?愛する女性の貞操を奪うことが、なんでダメなんだ」

「アランのアプローチは、犯罪的すぎるんだよ。そりゃシーラも逃げたくなるわ」

「人間のくせにわかったような口を……」


 ピリッ、と空気が凍りつくのがわかった。

 アランの眉間に皺がよっている。かなり頭にきたらしい。


「貴様にボクの何がわかるっていうんだ!!」


 雄たけびを上げて飛び掛かろうとしてきたアランは、その寸前で強力な結界に阻まれて「ぎゃっ」と悲鳴をあげた。

 ビリビリと、感電したかのような音とともに弾かれる。


 そっか、結界ってこの玄関から内側なんだ。


 プスプスと白い煙を上げるアランに、オレは声をかけた。


「おーい、大丈夫かあ?」

「………」


 アランは地面に突っ伏したまま微動だにしない。

 死んだのか?

 一瞬、オレの脳裏に嫌な考えがよぎる。


「お、おい、アラン」


 慌てて玄関から飛び出し、彼の側に近づくと、待ってましたとばかりにアランが起き上がってオレに襲い掛かってきた。


「ふふふ、ひっかかったな!!」

「ひゃあ!!」


 鋭利な爪で引き裂こうとするのを間一髪避けたオレは、着のみ着のまま林の中へと逃げ出した。

 やべえ、こいつ本気じゃん。


「逃がすか」


 アランはそう言って追いかけてくる。

 シーラの影響で魔力が上がったらしいけど、館の外でも効果があるのか疑問だ。それ以上に、殺気立っているアランと戦う勇気はオレにはない。


 オレはアランに追われながら、林の奥深くへと入って行った。

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