scene3
オレとアランは、とりあえず林の中で狩りをはじめた。
今の時期は、脂肪を蓄えこんでいるラビーというウサギによく似た小動物が旨いのだそうだ。
正直、あまり気乗りはしなかったが、たとえ異世界であっても弱肉強食の世界。彼らはそうやって飢えをしのいでいるのだという。
「いいか、物音を立てるなよ。静かに近づいて、一気に襲うんだ」
そういってアランは、木々の隙間から見つけたラビーに狙いを定めた。
そういえば、狼男って満月にしか変身できないのだろうか。
以前、見たウルフは見るからに狼男だったけど、このアランは狼に変身したところを一度も見ていない。
今これから狩ろうとしている瞬間でさえも、人間の姿のままだ。
「いまだ!!」
ダッシュで飛び出したアラン。
しかし、その動きにいち早く察知したラビーは、その手をするりと抜け一目散に走り去って行った。
「………」
「………」
「………」
「ま、こんなこともたまにはある」
アランて、狩りが下手なのかな。
どう見てもド素人な人間の動きそのものだ。
「なあ、アランて狼男には変身しないのか?」
オレの素朴な疑問にアランは「ハハハ」と笑った。
「変身だって?このボクが、なんだってあんな醜いバケモノに変身しなけりゃならないのさ」
み、醜いって……。
「あんな姿で平気でいられるのは従兄弟のウルフくらいだよ」
「そ、そうなの?オレはてっきりそっちが本来の姿だと思っていたけど……」
「よしてくれよ。あんなバケモノみたいな姿、誰だってなりたくはないさ」
「じ、じゃあ、満月になっても変身しないのか?」
「満月の夜は確かにパワーがアップするけど、みんながみんな、狼男になるわけじゃないよ」
そうなんだ……。
でも、さっきの動きを見ていると、人間のままの姿の方が狩りがしにくいように感じられるんだけど。
「とにかく、狩りを続けよう。このままだと飢えて死んでしまうよ」
どうしよう。何も捕まえられる気がしない。
「ほらほら、早く。このまま獲物もとれずに夜を迎えるなんて、まっぴらだ」
オレとアランはそれから獲物を追い続けたが、結局一匹も捕まえることなく、夜を迎えた。
「………」
枯れ木を集めて火をおこしたオレたちは、その火に当たりながら座り込んでいた。
「お前はすごいな。火をおこせるなんて」
アランが火に当たりながら感心したような口調でつぶやく。別にすごくはないと思うけど。
村人たちからマッチをもらっていたから、火をつけるのは簡単だった。
狼男の生活では火は使わないらしい。
といっても、極寒の地での真冬の夜。
こんな小さな炎では、身も心も温まる気がしない。
オレはブルブルと震えながら両手を火にかざしていた。
ああ、早くシーラ助けに来てくれないかなあ。
「なあ、アラン。狼男って全部でどれぐらいいるんだ?」
「そんなこと聞いて、どうするんだい?」
「いや、なんとなく気になって。アランくらいかっこいいなら、同種でお似合いなのいそうなのに」
「まあね。ボクに求婚をしてくる狼女はあとを絶たないよ」
女性は狼女っていうんだ……。
ていうか、あとを絶たないくらい多いの?この種族。
「でも、ボクはシーラ以外考えられない。命を助けてもらったときから、ボクの心はシーラ一筋なんだ」
「ヴァンパイアと狼男って、結婚できるの?」
オレは素朴な疑問を口にした。
「そこなんだよ。長老衆もそこが気に入らないようで、ボクらの交際を認めてくれないんだ」
まあ、それ以前に交際に発展してないしね。
でも、やっぱり種族が違う者同士の結婚は一筋縄じゃいかないのか。
「でもボクはあきらめないよ。彼女が振り向いてくれるまで、一生追い続けるんだ」
ある意味ストーカーチックな言葉を発言している気がしないでもないが、でもいいな。こうやって純粋に異性を好きになるっていうのは。
「頑張れ。オレ、応援するよ」
「ありがとう。キミ、意外といい奴だな」
意外は余計だ。
「それにしても、寒いな……。早くシーラ来てくれないかな」
ブルブルと自然と肩が打ち震える。
このままだと、本当に凍死してしまうぞ。
「おお、ここにおったか」
その時、まさに願っていたシーラが姿を現した。
「ユータロー、こんなところで何をしておるのじゃ。凍え死ぬではないか」
「シーラ……」
オレの言葉を遮るかのように、狼男のアランがものすごいスピードで駆け出していた。
「マイハニー!!がるるるるる……」
「近寄るでない」
そんなアランの頭に空手チョップをくらわすシーラ。
「シーラ、シーラ、ハッ、ハッ、ハッ!!」
まるで発情した犬のように涎を垂らしながら襲い掛かろうとするアラン。
この人、こんなキャラなの……?
「まったく、狼男はいつもこれだからうっとうしい」
ああ、そうか。いくら人間の格好をしてても、中身はまさに“狼”だもんな。
「ユータローがこやつと一緒にいるから悪いのじゃ」
「ご、ごめん……」
シーラの胸に頭をうずめようとするアランを片手で押さえながら、シーラはため息まじりに言った。
「とりあえず、こやつは遠くに捨てておくから、ユータローは先に館に入っておれ」
シーラはひょいとアランの首根っこを捕まえて、どこかへ飛んでいってしまった。




