scene4
「シ、シーラアアァァ、助けてくれ」
「シーラ!!」
オレとマーキュリが同時に声をかける。
これぞ、まさに救世主様。
村人たちがオレを救世主様と言っていた気持ちが痛いほどよくわかる。
「マーキュリ?久しぶりじゃのぉ。なんでこんなところにおるのじゃ」
「んもう、そんなことはいいから、はやくこいつをなんとかして」
自分で呼んでおいて……。
なんて自分勝手なヤツなんだ、と思いながらもやっぱりここはシーラになんとかしてもらうしかない。
「マーキュリが下級の悪魔を呼び出そうとしたら、なんかとんでもないヤツが現れて……」
オレが必死に説明しようとすると、シーラはクスクスと笑った。
「なんじゃ、そんなヤツ相手に逃げ回っておるのか」
「シ、シーラさん……?」
オレは目が点になった。
そんなヤツって……。
めちゃくちゃヤバいヤツじゃないですか!!
こんな巨大な炎でバンバン攻撃してきてるじゃないですか!!
「そんなヤツ、今のユータローなら一発じゃぞ」
「へ?」
はあ?と言った顔でオレに顔を向けるマーキュリ。
オレもたぶん、今、そんな顔。
「ユータローはわらわと一か月以上も過ごしておるからな。多少なりともわらわの魔力が流れ込んでおるはずじゃ。人間はもともとその環境に馴染む性質を持っておるからの」
そ、そういうものなの?
魔力って、自然に身に着くものなの?
そういえば、マーキュリの言っていたこの館の強い魔力って、オレ、全然感じてなかったけど。
「ためしに、ヤツの顔面に一発放ってみい」
オレは言われるがまま、魔方陣の上に浮かぶ悪魔と対峙すると、拳をかまえた。
『人間の分際で、我と戦うか』
悪魔は、低くうなるような声で言った。
怖いです、シーラさん。
『では、貴様から滅せよ』
言うなり、巨大な炎を投げつけてくる。
オレはそれをかわすと跳躍して悪魔の顔面に思いっきりパンチを繰り出した。
『ぐぼおおっ』
ドゲシ、という小気味いい音とともに、悪魔の顔面が陥没する。
『な、な、な……』
悪魔は顔を抑えながら驚愕の表情を浮かべていた。
本当だ、オレ、すっごく強くなってる。
………。
ていうか、魔力関係なくね?
『に、に、に、人間の分際で、我の顔に傷をつけるなど……』
「うっせえ!!」
今度はチョップをお見舞いしてやった。
『がちょん!!』
マヌケな声を上げながら悪魔が床に突っ伏す。
気んもちいいぃぃ。
……いやいや、悪魔をイジめるためにやってるわけじゃないんだ。
これじゃ、いじめっ子みたいじゃないか。やめよう。
「勝手に呼んでおいて悪いが、帰ってくれ」
『……』
悪魔は頭をおさえながらコクコクとうなずくと、シュウゥと姿を消した。
あとに残されたのは、魔方陣の形に焦げ付いたテーブルだけだった。
「………」
オレは、床にへたり込みながらきょとーんとしているマーキュリに手を差し出すと、彼女の手を取って立たさせた。
「大丈夫か?」
「う、うん……」
「どこか怪我とかしてない?」
「うん、してない」
最初の頃と打って変わって、だいぶ素直だ。
もともと、そんなに悪い子じゃないんだろうけど。
でも、ちょっと不思議な感じがした。
「あなた、人間のくせに強いのね」
「オレもびっくりだよ。まさか、悪魔を拳で撃退できるなんて」
「もしかして、その力で世界征服を企んでるんじゃ……」
この子は、どんな目でオレを見ているんだろう。
「とにかく助かったわ。ありがとう」
「あ、ああ、どういたしまして」
「やれやれ。マーキュリが来るといつも問題が起こるのぉ」
シーラがいつの間にか近くにきてあきれた顔でマーキュリを見つめていた。
「いつもじゃないもん」
「いつものことじゃ。この前なんか、間違えて村に隕石を落とそうとしたじゃろう」
………。
マジで!?
「え、いや、あれは。シーラみたいに星を降らせたいなあって思って」
「あれは上級の魔法じゃ。おぬしが使えば星ではなく隕石になると言ったはずじゃぞ?」
「てへへ」
てへへ、じゃねえよ。
この子、前科あるんじゃん。
「でも、私、今日改めて思ったわ。自分には魔法の才能がない」
「バカを申すな。星の代わりに隕石を降らせようとしたり、今日みたいな悪魔を呼び出せたり、おぬしはものすごい魔法の才能が眠っておる。精進すれば、ライラよりもすごい魔女になれるかもしれんぞ」
「ううん、もういいの。ライラおばさまは私の目標だったけど……」
そう言って、チラリとオレを見るマーキュリ。
嫌な予感が。
「私、ユータローみたいな肉体派魔女になる!!」
どんなヤツだよ!!
ていうか、オレ肉体派じゃねえよ!!
「ちょっと待て。オレは別に修行とか積んで強くなったわけじゃ……」
「とびきり強い敵に拳ひとつで立ち向かう。これこそ、私の求めていた究極のヒロイン像。ユータロー、私を弟子にしてください!!」
「断る」
オレはさっきの悪魔と同じセリフを言ってやった。
「ええー?なんでよー?いいじゃない、ししょー」
「誰が師匠だ!!」
オレは思った。
もしかして、あの悪魔、この子がめんどくさそうだったから断ったんじゃないかと。
マーキュリが駄々をこねまくって、帰って行ったのはそれから数日後のことだった。
第四章へとつづく




