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ヴァンパイアを退治するために召喚されたが、一緒に住むことにした  作者: たこす
第三章 魔女の女の子がやってきました
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scene3

「よし、できた」


 下級の悪魔を呼び出そうと、テーブルの上に魔方陣を描いたマーキュリ。

 直径にしてだいたい1メートルくらいの小さな魔方陣だ。

 まわりには、見たこともない紋様が描かれている。ちょっと楕円になっているところが、未熟的な感じだ。


「お、おい、本当に大丈夫か」

「はい、危ないよ。離れて離れて」


 まるで花火とかのイベント会場で観客を追い払うおっちゃんみたいな感じで(例えがわかりにくいか)オレは離れさせられた。


 そして彼女は「あぶらかたぶーら」とままごとで使っていた呪文のようなものを唱え始めた。そこは一緒だったんだ……。


 彼女の声に反応して魔方陣が赤く光り出す。

 おおお、すげー。

 本物の召喚魔法だ。


「……!!」


 その光る魔方陣を見て、マーキュリの顔にも驚きと喜びが入り混じった複雑な表情が浮かんでいた。もしかしたら魔方陣が反応したこと自体、彼女にとっては初めての経験なのかもしれない。


「いでよガーゴイル!!我の忠実なるしもべとして姿を現せ」


 その言葉と同時に、魔方陣の描かれたテーブルが激しく揺れ動いた。


「ひえ」


 オレは驚いて腰を抜かす。

 ち、ち、ち、ちょっと、ヤバくない?


「マーキュリ……?ほんと、大丈夫なの、これ」


 ふとマーキュリに目を向けると、彼女の顔がちょっと青ざめているように見えた。

 大丈夫じゃねーな、こりゃ。


 瞬間、魔方陣がカッ!!と強い光を放った。


「うひゃ」

「きゃ」


 オレとマーキュリが思わず悲鳴を上げる。


 光はすぐにおさまった。


 シュウシュウと白い煙を上げるテーブルの上には、上半身だけの真っ黒い悪魔が姿を現していた。

 なんていうか、ウシみたいな顔をして、羊のようなクルクルと丸く折れ曲がった巨大な角を持った、巨大な悪魔だ。


 大きすぎて、上半身だけしか現れていない、といったほうが正しいか。

 天井まで届きそうな大きな身体を揺らしながら、腕を組んでオレたちを見下ろしていた。


『我を呼び出したのは、貴様らか』


 おどろおどろしい声が、鳴り響く。

 こえー。

 恐怖心をあおるには最高のトーンだ。


「そ、そうよ。あなたを呼び出したのは私よ」


 我に返ったマーキュリが、ツン、とした声で答えた。


「あ、あの、ご主人様?あれが、ガーゴイルでいらっしゃいますか?」

「い、いえ、ちょっと違うけど……。ま、下級の悪魔に違いないわ」


 あれで下級の悪魔……。

 上級となったら、どんな悪魔になるんだよ。


 と、思っていたら目の前の悪魔の顔色が変わった。

 顔色、というか雰囲気、オーラみたいなものかな。


『下級?』


 ひんやり、と空気が凍りつくのが肌で感じられる。

 下級と言われて怒ったのか?


『我を下級の悪魔と称するか、魔女ごときが』

「な、なんか怒ってますよ?ご主人様」

「ふ、ふん、本当のことを言われて動揺しているだけよ。召喚したのはこっちなんだから、主導権はこちらにあるわ」


 いや、動揺しているの、あなたですよ。


「えーと、そこの悪魔!私はあなたを召喚したマーキュリよ。あなたはこれから私の言うことに従うこと。いいわね」


 あくまで強気な彼女。

 果たして、言うことを聞いてくれるのだろうか。


『断る』


 はい、あっさり拒否されましたー。

 思った通りの展開になりましたー。


「こ、断る……!?あなた、ご主人様の命令が聞けないっていうの!?」


 しどろもどろになりながらマーキュリが言う。

 その顔に、さっきまでの強気な表情は見て取れない。


『ご主人様だと?我より非力な分際で、笑わせおる』


 そう言って、目の前の悪魔の手から、巨大な火の玉が生まれ出た。

 それは最初にマーキュリに会った時に彼女の手から生まれ出た火球よりもはるかに大きなものだ。


『我に対して無礼な口を聞く輩は、死あるのみ』

「あ、あぶない!!」


 オレは慌ててマーキュリを押し倒し、客間の扉を突き破って廊下に出た。

 その直後、オレたちのいたあたりに巨大な黒い炎が叩きつけられた。


 不思議なのは、炎なのに床や壁が一切燃えていないことだ。

 どうやら、あれは本当の炎ではないらしい。

 とはいえ、くらったら間違いなく死ぬだろう。


「な、なんで……」


 マーキュリはカタカタ震えながらオレの肩越しに悪魔を見つめている。


「普通は、召喚した者には絶対服従のはずなのに……」

「どうやら、ここの魔力が強すぎて、予想以上の悪魔を呼び出しちゃったみたいだな」

「す、すぐに送り返さないと」

「どうやって?」

「魔方陣のどこかに傷ひとつでもつければ、魔界に帰って行くわ」


 いや、無理だろ。

 どう考えても、あの悪魔の近くに行って魔方陣に傷をつけるなんて。

 そこに行くまでに消し炭にされてしまう。


 そんなオレたちの考えを察してか、悪魔は連続で火の玉を放り投げてきた。


「うひゃあ!!」


 オレはマーキュリを抱えていくつもの飛んでくる火の玉をかわす。

 これじゃ、近づけない。


『……』


 黙りこくってこちらの様子を伺う悪魔の姿がすげー不気味だ。

 瞬間、魔方陣の上にいた悪魔の姿が消えた。


「……?」

「ユータロー、うしろ!!」


 お姫様抱っこをされていたマーキュリが叫ぶ。

 オレは反射的に前方にジャンプした。

 ズザザ、とマーキュリと一緒に床の上を滑り転ぶ。


 直後、オレたちのいた場所が炎に包まれた。間一髪。


「なんてこった……」


 見ると、魔方陣の上にいたはずの悪魔が、魔方陣ごと移動している。

 こんなことできるんだ……。

 これじゃ、いつどこから攻撃されるかわからない。


「お、おい、なんとかしろよ」

「そ、そんなこと言ったって……」


 ほとんど泣きべそ状態のマーキュリ。

 ああ、やっぱやめさせとくんだった。


「何をやっておるのじゃ?」


 その時、聞きなれた声が聞こえてきた。

 こ、この声は……。


 ふと振り向くと、廊下の隅っこにネグリジェを着たシーラの姿があった。

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