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ヴァンパイアを退治するために召喚されたが、一緒に住むことにした  作者: たこす
第三章 魔女の女の子がやってきました
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scene2

「お茶はないの?」


 ウェンディおばさまとかいう魔女の孫だというマーキュリが、客間のソファに座るなり言った。


「お茶でいいのか?コーヒーもあるぞ」


 そうそう、この世界にはコーヒーも存在する。ミルクや砂糖で甘さを調節できるところまで、一緒だ。

 彼女の言うお茶とは、日本でいうところの紅茶に該当する。緑茶がないところが、残念だ。


「お茶でいい。コーヒーは苦いから嫌い」


 ほんとにお子様だな。

 ほんとにオレより年上なのか?


 オレはキッチンでお湯を沸かすと、ティーポットに紅茶葉を入れて(村人たちからもらったのだ)お湯を注いだ。

 おいしい紅茶の入れ方なんてのもテレビで見たことがあるが、そんなきっちりとやる気もなく、沸いたお湯をそのままティーポットに入れ少し揺らしてカップに注ぐだけにした。ぶっちゃけ、どんな入れ方をしても、オレには味の違いがよくわからない。


「ほら」


 オレは、ソファにふんぞり返って偉そうにくつろいでいるマーキュリに紅茶を差し出した。


「なによ、気が利かないわね。こういう時はミルクと砂糖も一緒に出すのが当たり前でしょ」

「あ、ああ……、すまん」


 何様のつもりか知らんが、オレは顔をひきつらせながらキッチンへ戻り、砂糖の入った壺と粉ミルクの入った壺を持って行った。

 そして、オレの入れた紅茶の香りをクンクンと犬のように嗅いでいるマーキュリの前に置いた。


「私、ストレートは嫌いなの」

と言って、置かれた壺の中から大量の砂糖と粉ミルクを取り出すと、ボチャボチャと音を立てて投入していった。見るからに甘そうだ。


 そして、彼女はそれをくるくるとかき混ぜながら口に含むと同時に言い放った。


「まずぅ」


 ……このやろう。


「よくこんなまずいお茶を入れられるわね。逆に天才的だわ」


 紅茶ひとつでオレの神経を逆なでするこいつも天才的だぞ。


「へーへー、そりゃ失礼しました。嫌なら飲まなくてけっこう」

「仕方ないから、飲んであげるわ」


 そう言ってグビグビとお世辞にも上品とはいえない飲み方で、オレの入れた紅茶を全部飲み干した。


「ぷっはー」


 お前はおっさんか。


「ユータロー、シーラは夕方まで起きないって言ってたわね」

「ああ。陽が暮れないと、ほとんど死んだように眠ってる」

「じゃあ、それまで私と遊びましょ」

「遊ぶって……」


 魔女の遊びって、なんなんだ?怖いぞ。


「いいじゃない。夕方まで暇なんだもん。あんただって暇でしょ?」


 いや、オレはむしろ昼間は寝ていたい派だ。

 シーラのこともあるから、この世界では完全に昼夜逆転しているしな。

 つまりは、今は日本でいうところの深夜にあたるわけで。


「オレ、夕方まで寝てるよ。お前は館の外を散策でもしてれば?今は紅葉がきれいだぞ」

「いやよ、そんなジジくさいこと」


 オレより年上のくせに……。


「オレは眠いんだ。朝までシーラとポーカーしてたから」

「やあだあ。なんでシーラとは遊んで、私とは遊んでくれないの」


 駄々をこねはじめた。

 なんなんだ、いったい。人間は嫌いなんじゃないのか?


「遊んで遊んで遊んで」

「わかったわかった。袖を引っ張るな!」


 オレはなかば強引に魔女のこども(?)マーキュリと遊ぶ羽目になってしまった。


「ていうか、遊ぶって何して遊ぶんだ?」

「ままごと」


 ……マジで?


「ままごとって……」

「ままごと知らないの?」

「知ってるけど」


 え、いや、マジで?


「私が偉大なる魔女で、ユータローが召使いね」


 なんだ、その設定。


「ひょーひょっひょっひょ。今日もすごい黒魔術の研究でもしようかの」


 いきなり始まった。


「さて、今日は何を召喚しようかの。おい、召使い」

「は、はあ」

「もっと感情込めてやってよ」


 召使いを感情込めてやれって言われても……。


「な、なんでございましょう。ご主人様」

「今すぐイモリの丸焼きと羊の脳みそ、シュガギクの葉っぱとアホウドリの心臓を用意するのじゃ」


 ……黒いよ。


「は、はい。ただいま。シュタタタタ、はい、どうぞ」

「うむ。ご苦労。こんなに早く用意できるとは、お前は優れた召使いじゃの」

「お褒めにさずかり光栄です」

「では、悪魔を呼ぶとしよう」


 言うなり彼女は「あぶらかたぶーら」と言い出した。

 呪文がうさんくさいぞ。


「いでよ、ドラゴニック・デーモンデビル!!」


 また中二っぽい名前!?

 この子って、ちょっと、アレなの?

 てか、呼び出してんのドラゴンなの?悪魔なの?

 わけわかんないわー。


「……ここで、本当に呼び出せればいいんだけど」


 やめてよ。

 オレ、ビビりなんだから。


「……ねえ、本当の悪魔呼び出しちゃおっか?」


 怖いことを言い出した。


「ほ、本当の悪魔って?」

「手頃なところでガーゴイルかな」


 手頃って……。


「だ、大丈夫なのか?」

「大丈夫よ。ウェンディあばさまやライラおばさまが、よく召喚してるもの。肩や腰をもんでもらうために」


 悪魔の存在意義って……。


「マーキュリは呼べるのか?」

「私は未熟だから呼んだことないけど、ここはシーラの魔力が強いからね。私の魔力でも呼べると思う」


 そうなのか?

 一か月以上ここにいるけど、魔力なんて感じたことないんだけど。


 それはそうと、マーキュリがどの程度の魔女なのか知らんが、やっぱりそれはまずいと思う。


「やめといたほうがよくないか?呼び出したことないんだろ?ウェンディおばさまやライラおばさまの見ているところでやったほうが……」

「召使いは黙ってなさい」


 あ、ままごと継続中だったのね。


「いいから、見てなさい。すっごい悪魔呼び出してあげるんだから。下級の」


 下級のすっごい悪魔。逆にどんな悪魔だよ。


 心の中でツッコむオレの目の前で、彼女はテーブルの上に木の炭で魔方陣を描いていった。

 ほ、本当に大丈夫だろうか。


 オレは漠然とした不安を感じていた。

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