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ヴァンパイアを退治するために召喚されたが、一緒に住むことにした  作者: たこす
第二章 ドキッ!モンスターだらけの決起集会
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scene4

「本気か、シーラ? 本気でオレたちを止めに来たのか?」


 ビリビリと空気がうち震えているのがよくわかる。

 目の前の狼男やその後ろの獣人たちが殺気立った目で睨み付けていた。

 オレ、ヴァンパイアの力もらってなかったら、怖くて死んでたかも……。


「本気じゃ」

「なら理由を教えてくれよ。オレたちを止める理由をよ」


 そう言って狼男は大きな口をガバッと開いた。

 鋭利な刃物のようなキバが無数に生えている。

 もしも、たいした理由もなく彼らを止めようとしているというのなら、容赦なく攻撃しようという意志の表れだろう。

 しかし次の瞬間、シーラの言葉に狼男はその口をさらに大きく開けた。


「人間は、見てて楽しいからな」

「た、楽しい……?」

「面白い生き物だぞ、人間は。お前たちも人間を知ればきっと好きになるぞ」


 狼男だけでなく、その場の誰もがきょとん、とした。

 ぶっちゃけ、人間のオレでさえ耳を疑うセリフだった。

 ヴァンパイアが、いや、シーラがそんな風に思っていたなんて。


「ぶ、ぶわーはっはっはっはっ!!」


 けれども案の定、狼男を筆頭に戦争派のモンスターたちがいっせいに笑い出した。

 その高い笑い声は、森中に広がるほどの遠吠えに近い大きさだった。


「くくくく、シーラさんよぉ、そりゃ笑えねえ冗談だぜ」


 いや、笑ってたじゃん。


「オレたちが人間を好きになる? どこからそんな言葉が出てくるのか不思議でしょうがねえぜ」


 狼男の言葉を筆頭に、次々と他のモンスターたちから蔑みに似た声があがる。


「もしかして、あれか? 人間の近くに住んでて、おかしくなっちまったのか?」

「ヴァンパイアのシーラともあろう者が、情けねえ」


 彼ら戦争派のモンスターだけでなく穏健派のモンスターたちでさえもさすがに失笑している。

 当のシーラはそんな嘲笑を軽く受け流していた。


「シーラ、おぬしもう少し真面目に説得してくれ。これでは逆効果じゃぞ」


 魔女のライラが困惑した面持ちでそう言った。


「真面目も真面目、大真面目じゃ」

「シーラ……」


 次々と彼女を罵倒するモンスターたちに、オレはだんだんと怖さも忘れてムカついてきた。


 そんなにシーラの言い分がおかしいのだろうか。

 そりゃ、ここのモンスターたちが人間と仲良くなるのは難しいだろうが、そこはシーラなりの想いがあるからだろう。

 すなわち、人間と彼らとの戦争の回避。


 人間との戦争になれば、お互い無事ではすまないはずだ。

 それをシーラは表現こそ誇張しているが、なんとしても避けたいという想いがあるに違いない。


 少なくとも、オレはそう思った。


 この世界に来て一か月ちょっとだけど、シーラの性格はよくわかってるつもりだった。

 彼女は人間嫌いな昼行燈のように見えて、実は人間のことを大切に思っている。

 凶暴な大型動物が村を襲わないように、村の周りに彼女は結界を張っているほどだ。村人たちには教えていないというところが、彼女らしいが。


 少なくとも、シーラは人間とともにいたいという想いがあるはずだ。

 でなければ、400年も人間の近くで生活してはいまい。


「もうわかった。シーラ、てめえは腰抜けだ。とっととお家に帰ってベッドの上でガタガタ震えてやがれ」


 狼男の言葉に、イライラしていたオレの脳みそがプッツーンとはじけるのがわかった。

 本当にキレたら、プッツンて音がするんだね。初めて知ったよ。


 でも、そんな瞬間を冷静に受け止めているのはヴァンパイアの力があるからだろうか。

 キレたのに、キレてなさげな言い方をするのは変な感じだけど、ここはあえて言わせてもらおう。


“てめえはオレを怒らせた”(by空条〇太郎)。


「やいやいやいやい、てめえら!」


 セリフがだいぶチンケなものになってしまった……。

 まあ、しょうがないよね。オレ、キレたことないし。


「黙って聞いてりゃ好き放題言いやがって! 少しはシーラの気持ちを考えやがれ!」


 精一杯のメンチをきる。

 そのとたんに、モンスターたちが一斉にオレに視線を向けた。


「なんだ、誰だてめえ。いつからいやがった」


 狼男は初めて見るような目つきでオレを睨み付ける。

 はじめからいましたけど……。


「お前らが人間に対してバカにしたり偏見を持ったりするのは構わない。でもな、仲間であるはずのシーラをバカにするのは間違ってる!」

「シーラ、誰だ、こいつ」


 狼男が視線を変える前に、オレはシーラの前にずいっと出て、指をつきつけて言ってやった。


「オレは宮本勇太郎。おまえたちが戦争をしかけようとしている人間だ!」


 言ってやった。

 言ってやったぞ。

 もう後戻りはできない。


 そうだ、オレは人間の代表であると同時にシーラの友人なのだ。

 友人がバカにされて黙ってるようなのは、人間ではない。


 案の定、オレの言葉にその場の誰もが驚愕の声を上げる。


「に、に、に、人間だと……!?」

「なぜ人間がこんなところにいるんだ!」

「シーラ、てめえ人間を連れてきやがったな!」


 困惑や怒りの矛先が、なぜかオレではなくシーラに向けられた。

 あれ?


「どういうつもりだ、シーラアアァァッ!!」


 狼男が怒りで爆発寸前の顔をしながら叫んでいる。


「……オレ、なんかまずいこと言った?」


 キリキリキリ、と振り返ってシーラに顔を向けると、彼女は

「ほんに、しょうがない男よなぁ、おぬしは」

と苦笑まじりにつぶやいた。


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