2.砂の果実。 天為。 1
砂の果実のアラスジです。
大長尺の古刀を駆る「天為」、謎めいた弓を扱う鳶狩りの「高坂」、呼ばわる者「ハル」、失われた王国トマの涙「タマウ」、影の国フィンドアの魔人「ストクフ」、事務屋「コットス」、熱砂騎士団の「ガンウェル」、そして、「濁眼の聖騎士」と「小さき者」。
彼ら主人公達の異なる思惑がぶつかって混じり合い、やがてそれは、ただ一つの至宝を求めます。
それが、創国の宝珠「砂の果実」。
敵味方入り交じり、入れ替わり、物語は進みます。宝珠は存在するのでしょうか?それは誰の手に?誰が死に、誰が生き残る?侵略と崩落と神々の能力を持つ者から、街を守り救う事は出来るのでしょうか?想いは……彼らの欲望と希望は達成されるのでしょうか……
はぁっ、はぁっ、はっはっ……
松明の炎だけを頼りに、男は石段を駆け上がる。背後からは、ごぼりごぼりと不気味な追跡者の息づかいが追い掛けてくる。低く、細い、細い細い石の回廊。遥か地底から、命に満ち溢れる地上までを長く頼りなく繋ぐ、彼の肩幅程しかない狭い石のトンネルだ。先程迄は迷路状だった石の回廊は、今やただ、真っすぐな通路でしかなかった。出口が近い証拠だ。恐らく、後、数十メートル。吐き気をこらえながら、彼は走り続ける。松明の光と影が踊り、足音と息づかいが混ざる。
だっ!
意味不明な叫びを発し、彼は躓いて倒れ込んだ。体力が限界に達し、足がもつれたのだ。松明が、彼の手からこぼれ落ちる。
「ちょっ、ちょ!」
慌てて彼は松明を拾い上げ、来た道を照らし直す。静かなトンネルが、伸びていた。後はただ……静寂と、闇と、恐怖。唯一の戦友である、古刀をぎゅっと握りしめる。そして、彼は地獄へと続くような深いトンネルを見下ろし、安心しながらも疑問を感じた。
……つか、さっきまで、すぐ後ろに気配があったんだけど……そんなに速く走ったっけ、俺。
ぴたん。
と、首筋に冷ややかな何が滴った。彼は悲鳴を上げながら、迷わず松明を天井に突き出した。松明の炎が、何かに食らいついた。同時に、腐った喉が発する溺れるような悲鳴と、悪臭が爆発した。追跡者は、天井一面を覆い尽くしていた。驚く彼の前で、それは、炎に怒り彼の頭上へと覆い被さって来る。
っっぅっつつ!ひょおおお!!!
彼は叫びながらも器用にからだをひねり、不気味な生物の抱擁から、身をかわした。そのまま松明を置き去りに、駆け出す。
……もうすぐ外だ。今は日中。後、数メートル逃げ切れば、俺の勝ちだ。奴は日の光の中では生きられない、闇の……生き物。
ぐっ、がっ、はっ!はっ!!
彼は、消えゆく松明が背後から照らし出す光を頼りに、地上へと続く最後の数瞬を駆け上った。
扉代わりに設置した、木の板を突き飛ばし、朽ちた小さな祠を抜けて、そのまま地上へと踊り出した。大地に体を投げ出した。
……たっ!ざまぁみろ!!
彼は声にならない叫びを上げた。乾いた砂が永遠に続き、広大な砂漠を形成していた。目眩を呼ぶ嵐がリピートしている。そこには、ただ、
砂と風と空と月光。
「……つ、つき?」
夜だと気付いて、奇声を発する彼の背後で、追跡者が砂を撒き散らし、地上へと飛び出した。体高5mを超える巨大な砂蛸だ。月影に大樹のような異影をかざす。夜なら、光は関係ない。
「かぁ……でけぇな、おぃ。」
彼……名を天為という……は、どこか嬉しそうに毒づいた。抱きかかえていた、大長尺の古刀を抜き放った。笑いながら、呟く。
さて、どうなるかな。結果は俺次第だ。どんな未来が出てくるのか?いくぞ?来いよ。俺は……藪をつつくぞ。
砂漠では「鯨」並みに恐れられる人喰いクリーチャーの砂蛸に対峙しながらも、悲壮感は無い。むしろハンワライだ。彼は宣言して、挑む。
「……さぁ来い未来。」