表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界が生まれ変わる物語。  作者: ゆうわ
第二章 砂の果実。
18/184

2.砂の果実。 邂逅。 2

 ある種の不自然さを持って、人の波が左右に分かれた。タマウは長い睫越しに世界を見上げている。


 ……何?


 痩せた拳を薄い胸の前で握りしめる。不吉を感じるまもなく、目の前に男が現れた。人々の畏怖が、その男に向けられる。背の低い男がかっちりとしたスーツに身を包んでいる。この砂漠では異様と言っていい姿だ。手は後ろに組まれている。


 「ようこそ。クレイフへ。貴女はご自身が何者か知っている。多くの人はそれを知らないが私も貴女が誰なのか理解している。と、言うわけで、ディナーにご招待致したいのですが?」


 タマウは、状況を計る。周囲の人達はこの男が誰か理解している。誰だろう?わからないが、恐ろしい男であることは確かなようだった。街人の中に彼の手下が紛れ込んでいるのも確実だ。でも、とタマウは思う。


 ……名乗りもしないような男は恐れるに値しません。名を持たないのであれば別ですけど。


 そのタマウの思いを見透かすように男は名乗った。


 「私はコットス。この街である種の……事務仕事をしています。皆は事務屋、と呼んでいます。」


 その瞬間、町の人々は明らかな恐れを面に出して、一斉にその場を去った。残ったのは、数人の手下とおぼしき男たちだけだった。


 「とっても人気が有るんですね。皆があなたのお名前を聞いて、逃げていきましたよ。」


 「ええ。私は恐ろしいから。」


 男はにこりともせず、真面目に答えた。そう。みんな彼のことを恐れているのだ。恐らく彼は権力者であり、実力者であり、何らかの支配者なのだ。だが、タマウはこの男を相手にする気はなかった。濁眼の聖騎士が現れたのだ。時間がない。だから、彼女は彼を相手にするつもりはなかった……次の一言を聞く迄は。


 「私はこの街で生まれました。」


 ただその一言だけで、タマウは言いくるめられるのを、逆らいがたい渦に飲み込まれるのを感じた。


 「私はこの街を愛しています。例えこの街が滅んだとしても愛は変わらないでしょう。私は、この街を再生させることにこのささやかな人生を捧げるでしょう。」


 タマウは体中が心臓になったかのように激しい動悸と明滅に翻弄された。なぜこの人は私にそんな話をするのだろうか?私が最も心揺さぶられる話を。そして、彼は嘘をついていない。タマウは直感した。タマウはその一瞬の直感に全てをかけた。


 「私はタマウ。今は無きトマの王女です。コットスと名乗りましたね?」


 「ええ。コットス。クレイフの事務屋、コットスです、風と水の王国の姫君。」


 「私は王国の復興を願い、宝珠を探し流浪の旅の中にいます。」


 砂漠の町の大通りには、大勢の人が居たが誰も彼女たちに関わらろうとしなかった。皆、見て見ぬ振り。聞いて聞かぬ振りをしていた。コットスは王女の言葉を繋ぐ。


 「創国の宝殊、砂の果実を探しておられるのですね。私はいまだかつて見たことは有りませんが、在るとすれば、この街の何処にあることは間違いないでしょう。」


 心地よい風が二人の間を、ベージュの街並みをくすぐっていく。風は乾いていた。


 「おいでください、王女よ。我々の街の宝殊を探し出して頂けるのならば……差し上げても構いません。」


 短身の、でも底を見せない迫力を備えたその男の揺るがない態度を見て、タマウは覚悟を決めた。


 「ありがとう、コットス。あなたを信じます。お力を貸して頂ければ幸いです。」


 コットスは魂のかけらも見せずに、ニコリと微笑んだ。


 「ええ、では、協力して探し出しましょう……


 大きく風が唸った。


 「……探し出しましょう、砂の果実を。」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ