2.砂の果実。 濁眼の聖騎士。 2
ざわつく食堂の雰囲気の中に規則正しさを感じとったタマウは、何かが起こったことを察した。
あの時と……晩餐会のざわめきから悲鳴が生まれようとしていた……あの時と同じだ。
タマウは直感し、痩せた身体を精一杯使い、建物の外へ駆け出した。食堂の親父がタマウを咎めるのと、空が破裂するのが同時だった。世界は落日に染まった。毒々しい夕焼けが夜空を塗り替えていた。その、中心。
「……落魂。」
タマウは、長い睫に覆われた少し下がり気味の瞳を見開いた。直感の通り。あの日の再現だ。夕焼けの中心には巨大な火柱が立ち上っていた。直径5キロ。高さは測れない。雲を空を突き抜けて遥か天上界まで延びているようだ。薄い胸の前で、痩せた拳を握りしめる。拳は彼女の感情を反映して不穏に震えている。
「濁眼の聖騎士……。」
タマウを追って飛び出してきた食堂の親父も全てを忘れて空を見上げている。辺境の街クレイフの平和な最後の瞬間が過ぎていこうとしていた。多くの街人は初めて目撃する神々の一撃にも似たその火柱をただただ、恐れ、同時に魂を引き付けられていた。目を離せずにいた。硬直する時間が過ぎて、タマウが呟いた。その呟きは、微かで力無いものだったが、それはある種の「鬨の声」だった。紛れもない、開戦の合図だった。
「……そうは、させませんから……二度と。」
その燃え続ける火柱が消失したのは、夜が明ける頃だった。