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世界が生まれ変わる物語。  作者: ゆうわ
第三章 幕間。夢喰い花。
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スタンドアロン 第二話 始まり高坂。 6



 最悪だ。


 アンデット。ある意味では、ドラゴンよりもたちが悪い。何しろ、既に死んでいるのだから、殺しようがないのだ。彼らは何らかの理由で死後も魂が「シカルベキトコロ」に行かなかった者達だ。むき出しの魂が生前に執着していた物……大抵の場合、自身の肉体だ……を「ヨリシロ」にして、この世界に留まっているのだ。逆に言えば、魂自体を消し去るか、ヨリシロを完全に破壊すれば、彼らは「死」ぬ。

 が、簡単ではない。スケルトンの体をよく見ればすぐにその事に気づくだろう。そう、彼らの体は骨だけなのだ。骨同士をつなげる筋さえ無い。つまり、スケルトンの体は最初からバラバラ。それを報われない魂のマイトが骨と骨をつなぎ合わせ、生きていた頃のように動かしているのだ。大腿骨を折ろうが砕こうが、成仏できない魂の呪われたマイトによって、骸骨標本のような形に戻るのだ。ただ、死にきれない魂が「ヨリシロ」と認識できないほど細かく砕けば魂はしがみつく場所を見失い、この世から去ってゆく。だが、動き回り、自分に襲いかかるアンデットクリーチャーを細かくつぶす事など実際問題として無理がある……つまり、物理的な方法でアンデットクリーチャーを殺すことはほぼ不可能なのだ。


 残るのは彼らの魂を消し去る方法。


 これにはいくつか方法がある。まず、僧侶や神官が魂を強制的に成仏……少し語弊があるが……させる方法や、彼らが残してきた未練や恨みを晴らしてやる方法がある。その他にも強力なマイトをぶつけて、彼らの魂を消し去る方法もある。平たく言うとアンデットクリーチャーを倒すには「剣」ではなく、「術」が必要なのだ。


 高坂はセオと名乗った術者の背中を見た。大抵、アンデットは生きている者に激しい嫉妬や憎悪を持つ。とにかく、人間と見れば襲ってくる。しかも、疲れを知らない。一晩中、殺戮を繰り返す。数体のアンデットクリーチャーがいれば、この……数百人……程度の村なら朝までに皆殺しに出来るだろう。老人や子供をかばいながら、彼らから逃げ続けるのも無理がある。夜の間中、彼らは飽きることなく人間を追い続ける。朝が来たからと言って、休んでいては、彼らから逃げることは出来ない。夜が来ればまた、追われるのだから。


 (つまり、多くの人を見捨てるのでなければ、俺の運命はあのセオとか言う「術者」に掛かっているわけだ。)


 高坂は天為とゴーフィと共にセオを見守った。スケルトン達はセオまであと30m程の所まで迫っていた。高坂はセオの中でマイトが複雑に動き出すのを感じた。鳶狩りと言う職業柄、高坂は生き物の持つマイトの動き、すなわち、気配を感じ取ることに長けていた。高坂はセオの中でマイトが分解し寄り合わされ再構築されていくのを感じた。セオは低い、低い声で「式」を唱始めた。


 「……ラ・ケフ……コモン・ソ・ラダン……ヴィ・ア・グァルト・バルト……。」


 術者の唱える式は癒し手の唱える式とは、根本的に違う。癒し手も、術者も自分自身の中にあるマイトと呼ばれる神秘の力を制御し、それを使い外の世界に働きかけている。しかし、両者の式には決定的に違うところがある。癒し手は生物を癒すことが目的のため、癒される対象のマイトが癒しやすい状態であることが望まれる。結果として式は相手にも理解できるように、言語が基本となるが、術者の場合は自分のマイトさえ強力にコントロール出来れば良いので、必然的に式は、理論に基づきマイトをもっとも効率よく発揮する為だけの、一般人からすると意味不明の音としか聞こえないものとなる。セオはさらに、左右の腕と指を使いルーンを虚空に描いた。訓練を積んだ者が見ればセオのなぞった跡がうっすらと光っているのが見えただろう。術者達はこのルーンと呼ばれる記号と式と呼ばれる音により、マイトをコントロール、変換し術を行使する。

 一つ、また一つと、セオの周りに不規則な並びで光の玉が現れ始めた……5……6……7……。


 アンデット達はその間も緩慢な動作でセオに近づいてくる。アンデット達との距離が10mを切ろうかとした頃にはセオの周りには12個の光の玉が雨が占領する空中に浮かんでいた。


 「……クルア・コサス。」


 セオがそう「式」を結び、右手を軽く広げてアンデット達に向けた。


 バシン!バシッ!バシン!バシン!バシン!バシン!


 と、セオの周りで激しい音を立て眩しい光を放ち、光の玉は次々に爆発し、アンデットに向かい「光の矢」となって突き進んだ。激しく降りしきる雨を貫き、それらはアンデットのヨリシロである人骨を砕いた。それと同時にその中に潜む腐敗した魂を焼き尽くした。セオの光の矢をまともに受け、スケルトン達は爆発するドミノ倒しのように先頭から順に吹き飛ばされていった。高坂は唖然となった。


 (普通は多くても2本ぐらいだろ!?)


 見たことも聞いたこともなかった。一度に12本もの「光の矢」を放つ術者がいるとは。たった一回きりの術で結局セオは、9体のスケルトンを倒した。亡者達は全て動きを止める。辺りには何の変哲もない夜の寂れた村の風景が戻ってきた。


 「スゴイだろ?あいつ。天才ってやつだな。こんな辺境の村から出ていって、外の世界で術を学べば、魔導師だろうが、大魔法使い(ウイザード)だろうが、なんだってなれるのにな。」


 雨に打たれてますますチクチクと髪を逆立てている、天為が自分のことのように、そういった。


 「……ああ。」


 としか、高坂は答えられなかった。


 (……あぁ、すごい。すごい奴がいるんだな。)


 高坂は真剣に思った。鳶狩りを抜けて以来、初めて本気で驚いた。12本の光の矢を放つ術者、セオ。魂の奥底に巨大な氷壁を持つ天為。人間の体格じゃない大男、ゴーフィ。そして……リン。こんな奴らと一緒に旅に出たら、大冒険が出来るんじゃないか?そんな風に高坂は思った。そう思い、胸がうずいた。


 その瞬間。


 辺り一帯が真昼のように照らし出され、続いて圧力を伴う激しい雷鳴が轟いた。前方の森のどこかに落ちたような感じだった。


 「か、勘弁してよ。」


 高坂は息を呑んだ。一瞬、ほんの一瞬だったが、高坂ははっきりと見た。この道の先、百数十メートルほど向こうに軍隊がいた。


 それは、亡者の軍隊だった。


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