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世界が生まれ変わる物語。  作者: ゆうわ
第三章 幕間。夢喰い花。
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スタンドアロン 第二話 始まり高坂。 5



 死にきれない者達(アンデット)


 高坂が、その台詞を言い終わった瞬間にチープ店内はざわめきと悲鳴に襲われた。村人達が恐慌を来したのだ……つまり彼らはアンデットの恐ろしさを知っている事になる。一般市民がアンデットクリーチャーの危険さを認識しているというのは極めて珍しい。


 (この辺りでは、よくアンデットが出現するのか?このサムライといい、何なんだ?この村は……。)


 そう思いながらも、高坂は少しほっとした。やっと、言えた。ちょっと人助けだと思って、知らせに来ただけなのに……と、肩の荷が下りたつもりの高坂に天為は文句を付けた。


 「オマエ、お人好しだろ?何で人助けに来て山賊のような扱い受けてるんだ?そんなとこに寝てないで、起きて俺達に力を貸してくれ。俺は天為……名は?」


 天為があまりに早口だったので、オマエが俺を床に伏せさせたんだろ?とは言えず、ただ名乗った。


 「……高坂。」


 言いながら起きあがろうとする高坂の前に見たこともないような巨大な右腕が差し出された。その手から、密度の高い筋肉に押し出された血管と筋が浮き上がる、トロールのそれよりも太い腕が続いていた。ざっくりとした麻の衣服に包まれた巨躯の男がそこにいた。高坂は心臓が止まるかと思った。エモノの気配を感じ取ることを第一とする鳶狩りとして、長年旅を重ねてきた高坂がこれほどの巨躯の男が接近してきたことを気づかなかったのはこれが初めてだった。四角だけで作られた顔を持つその大男は言った。


 「ゴーフィだ。」


 高坂が手をつかむと同時にゴーフィは高坂のことを助け起こした……と言うよりは、持ち上げて立たせた。身長「180センチメートル」の高坂から見てもゴーフィは別格の巨体だっだ。3

メートルはある。高坂が、ゴーフィのあまりの巨体に呆気にとられている間にも、店内の混乱は増していた。外に逃げ出したいが、外にはアンデットクリーチャーが彷徨っている。だが、逃げ場のない店内にいても先が見えている。皆、どうするどうすると騒いでいた。


 「落ちつけぇっ!!大丈夫だ!!みんな、建物の中央に、厨房に行け!!絶対に外には出るな!!!」


 緊迫感が籠もってはいたが、声を張り上げていてなお、聞く者に安心感を与える、力強く暖かい声が高坂のすぐ左で挙がった。たった数行の台詞を聞いただけで、村人達はまだ慌ててはいたが、混乱状態から脱し、厨房へと向かい始めた。高坂は、左を見た。そこには膝まで届く麻のシャツを着た、若禿げに苛まされている痩せすぎのギョロ目男が立っていた。


 「俺はセオ。よろしく。術者だ。」


 セオと名乗った男は、高坂のことを見ようともせず、そう言い、既に屋外に出てしまっている天為の後を追った。あっという間に店内には高坂一人きりに……と声がかかった。


 「あ……あの。私は、リンです……ごめんなさい。天為さんも悪気があったわけじゃなくて……。」


 呟く声が高坂の脇腹の辺りからした。面食らいながらも見ると、20歳を少し過ぎたかな、といった感じの小柄な女性がうつむきながら立っていた。リンと名乗った彼女はちらり、と高坂のことを上目使いで見上げた。リンの頬は見る見る赤くなっていく。彼女は少し上がり気味の瞳を涙で滲ませていた。ぎりぎり肩に届かない髪が彼女の体のふるえを伝え揺れていた。リンはそのまま、金縛りに遭ったかのように動けずにいた。低い身長と女性らしい丸い体のラインが美しく調和して愛らしいと高坂は素直に思った。高坂もまた、自分のことを間近で、見つめるこの女性から目が離せなくなった。ほんの数秒だったが二人は数十センチの距離で見つめ合った。何か話さなくちゃと高坂が口を開きかけたとき、天為と名乗ったサムライの少しキーの高い声が響いた。


 「リーーン!!!出番だ!来てくれ!!」


 その声を聞くと共に扉の近くにいた高坂は、彼女よりも先に外に出た。外は今だ土砂降りの雨だった。高坂は素早くコートのフードを背中から引き上げた。切ないような、酸っぱいような独特の感情はすぐにうち払われた。すでに、広いだけで何もない村のメインストリートを彼らがこちらに向かって来ている。錆びて崩れかけた甲冑や鎖帷子がキシキシ鳴る音が激しい雨音に隠れて、地面を這うように高坂の耳に届いた。先頭のスピアを引きずりながら歩く、骨だけの死者は既にチープまで50m程の距離の所まで来ていた。考えていたよりも近い。左右の何も知らずにいる平和な民家から漏れる日常の光が彼を照らし出していた。そのスケルトンの後ろに少なくとも3体の蠢く骸骨が付いてきているのが見受けられた。


 (死にきれない者達(アンデット)……ああ。逃げ損なった。完全に巻き込まれた。)


 高坂は雨に打たれているのにも関わらず、背中に油っぽい汗が流れていくを感じた。


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