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世界が生まれ変わる物語。  作者: ゆうわ
第三章 幕間。夢喰い花。
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スタンドアロン 第二話 始まり高坂。 1



 月がとても明るかったのを高坂コウサカは覚えていた。まだ冬が終わりきっていない頃だった。高坂が街を離れたのは。


 真夜中、高坂はふと、目を覚ました。ベッドの側にある窓からは、覚めるような銀色の光が差し込んでいた。高坂はその光の中にいた。茶色に変色したシーツに埋もれ、今にもすり切れそうな寝具を身にまとっていた。無精ひげは伸び、肌の艶はなかった。


 (何をしてるんだろう?・・・・・・俺は?)


 自然とそんなギモンがわき起こった。朝起きて、するべき事をして、日が沈めば、後は寝るだけだ。寝てしまえば、次の瞬間は朝。それの繰り返しだ。それは、永久に続くのだと思っていた。だが、この日の高坂は、何故か真夜中に目を覚まし、月の光に包まれていた。月の光は冷たく、純粋で、高坂を一時、この訳の判らない現実世界から剥離させた。


 誰にでもあることだ。


 真夜中に月に照らされ、過去を振り返るということは。高坂は、自分のこれまでの人生を……見たくもないのに……見せつけられた。


 父と母、祖父と祖母、そして姉。彼らに見守られながら、高坂はこの世に生まれた。彼らはみんな、高坂のことを守ってやろうと、その時誓った。が、その誓いは高坂が5歳になるのを待たずに破られた。

 ある朝、いつも通りに起きてみると、キッチンのテーブルには父一人しかいなかった。それ以来、二度と高坂は母と姉に会うことはなかった。高坂は27歳になる現在も何故、どこへ、母達が行ってしまったのか?その理由を知らない。父が話そうとしないのだ……いや、多分、父も知らないのだろう。

 高坂が生まれたその街は、養鶏で成り立っていた。その街唯一の鶏を育てない一族……10家族が中心となり、血縁者以外も一族に加える事があるが、鶏を育てないコミュニティーを一つにまとめて、一族と人々は呼んだ……に高坂は生まれた。鶏の外敵を「狩る」のが、高坂達一族の役目だった。鶏の外敵は色々いたが、高坂達のことを街の住人達は鳶狩り(とびがり)と呼んでいた。高坂がまだほんのおちびさんだった頃、自分たちは街を守るヒーローだと考えていた。


 それは違った。


 街人達は高坂達、鳶狩り一族のことを、自分たちに寄生し、鶏で稼いだ金をかすめ取る一家だと考えていた。週に2〜3匹の動物を狩るだけで生活費を街から巻き上げていると、考えていた。また、一方で鳶狩りの力を恐れてもいた。後ろ暗い「仕事」を行う組織であることは客を見ていれば、うっすらとわかる。平たく言ってしまうと、街人達は鳶狩りの事を、街から金を巻き上げる殺し屋一族だと認識していた。

 鳶狩り一族は、自身と街人を区別し、街外れに住んでいた。だが、彼らは一生の殆どの時間をそこでは過ごさない。一年の内、街で過ごすのは二ヶ月にも満たない。彼らは狩りのため……もしくは大事な仕事の為……に旅をしながら暮らしているのだ。街を中心に土地を移動しながら狩りを続けている。様々な仕事を請け負っていたが、勿論、街を守ることもした。鳶を狩り、山猫を狩り、熊を狩る。鶏たちがちゃんと大きくなれるように。彼らが狩るのは鶏の天敵だけじゃない。人の天敵も狩る。森に住むトロールを狩り、ゴブリンを狩り、時には翼竜すら狩る。この時代、軍やしっかりとした自衛組織を持たない小さな村や街に住む人たちは外敵に怯えながら生活していた。外敵とは時には人間であったりもしたが、多くの場合はクリーチャーと呼ばれる異形の生物を指して外敵と呼称した。

 クリーチャーとは、完全世界リナ・リナの自然界には生息していなかった生物のことで、長い間空想上の生き物として認識されていた。妖精、竜、鬼、巨人、天使、悪魔……それらは、まだ世界が正常であった頃には、人間の想像上の生き物たちだった。

 世界がコナゴナになってから、だった。それらの生物が自然界を我が物顔で徘徊し、人々を補食する様になったのは。何故それらの生き物たちがこの世界に現れた……帰ってきた?……のかは、誰も知らない。ただ、彼らはここに存在し、人々の生活を脅かしている。人類はその現実のみしか知らされていないのだ。鳶狩り達はそういった出所のしれない外敵から村人達を守るのが役目だった。


 命を賭けて。

 村のために。


 それでも、村人達は鳶狩りを嫌悪していた。金を取られる事、戦いでは到底敵わない事。これらが村人を恐怖させ、鳶狩りを遠ざけさせていた。


 一年中、旅をして過ごす生活。

 高い死亡率。

 厳しい修行。

 村人達からの不信。

 少ない報酬。


 それが、高坂が生まれながらにして背負わされることになった、仕事だった。

 で、彼らは何故、そんな仕事を続けるのだろうか?無論、誇りだ。自分たちが村を支えている。トマ国最強の狩人は自分達なのだ。その想いだけだった。それが、彼らを鳶狩りにしている。苦痛や、死、嘲笑、ひもじさ、そんな物に負けない誇りに彼らは裏打ちされている。


 ……で、月がやけに眩しいその夜、かび臭いベッドの上で高坂は想った。


 (誇り?自己満足?どっちだろう?村人達から受けてる扱いは不当なものだ。裏社会の評価は最高……だが、その分リスクも大きい。俺は何を望んで、何を成そうとしているのだろうか?)


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