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魔女達の夜会

 

 

 

 

 

 夜会会場は、どこを見てもキラキラと輝いていて眩しかった。

 主催者が魔女だからだろうが、あちこちに魔法が溢れていて圧巻だ。

 照明に使われているランプはふわりふわりと空中を漂っているし、そこかしこに飾られた花々は自らほんのりと光りを放ち人々の目を楽しませる。

 自分の前世の元カレに対する今の気持ちを再認識して、完全に沈みきっていた気分も、その様子を見て少しだけ浮上してきた。

 そもそも私は自分自身に付き纏ってくる縁談の類が苦手なだけで、夜会自体はわりと好きなのだ。

 着飾った人々、光り輝く会場、美味しそうな料理にお菓子、それからあちこちに溢れている魔法の力、どれも日本ではお目にかかれなかったものであり物語や映画の中にしか存在しなかったもの。

 それを実際に自分の目で見てテンションが上がらないわけがない。


 ほう、と熱い溜め息を零していた私の袖を、ジューダが引っ張った。


「クレセ、主催者の魔女のところに挨拶に行くわよ」



 主催者の魔女はジューダと同年代に見えた。二十歳か、それより少し上くらいか。

 しかし魔女の中には自分の顔やスタイルを自らの魔力で変えている者も居る。見た目は若くても中身も同じように若いとは限らない。

 ちなみにジューダはその手の魔法が苦手だとかで、歳相応の姿をしているらしい。

 オレンジに近い茶髪をゆるくふわっと三つ編みにしてサイドに垂らしていて、ちらちらと見えるうなじが何とも言えず妖艶で。


 そつなく挨拶を済ませた直後、ジューダはどこぞの貴族に声を掛けられていた。

 彼は魔力持ち貴族らしく、ジューダを見るその目はさながら獲物を狙うハンターのようだ。

 私に舞い込む縁談の数も多いが、ジューダだって同じように、いや、むしろ私以上に縁談が来ているはずだ。

 それでも、ジューダは結婚していない。結婚していない理由を尋ねれば、私は理想が高いのよ、なんて言いながら笑っていたが、彼女の本心は全く解らない。


「さぁクレセ、美味しい物を食べましょうね」


 ぼんやりしていた私に、ジューダはにこやかに笑いながら声を掛けてきた。どうやらさっきの貴族の男の誘いは断ったようだ。顔は素晴らしくイケメンだったしスタイルも良かったし、どこからどう見ても魔力持ちの高位貴族だったような気がするのだが、それでも彼女の理想とは違ったのだろうか。それとも魔力持ち貴族よりも魔法使いが良いのだろうか。

 首を傾げながら、ジューダに声をかけていた男の姿を視線で追ってみると、彼は既に沢山のご令嬢方に取り囲まれていた。その様子を見る限り、やはりかなりの優良物件だったのだろう。そんな男が寄ってきたというのに断るとは、少し勿体無いのではないだろうか。私がとやかく言う事ではないので黙っておくけれど。

 そんな思いを抱いている私をよそに、ジューダは私の腕を引っ張りながら一直線にデザートの元へと歩き出した。


 ねぇ待ってジューダ、まずはお食事にしましょうよ。お食事からのデザートではないの? デザートは食後に楽しむものではないの?


 コース料理が提供される夜会ならジューダもしっかり料理を堪能するのだが、本日の夜会はビュッフェスタイルで、好きなものを食べ、好きなものを飲んでください、という状態だ。この場合ジューダは食事など見もしない。胃袋に入る限り糖分を摂取しようとする。そしてそれを見ている私はもれなく胃痛と歯痛に襲われる。虫歯なんて一本もないのに、だ。恐ろしい話である。

 ジューダがデザートコーナーの前でケーキを吟味している隙に、私は急いで自分の分の食事を用意した。お肉万歳! しょっぱいもの最高!

 それぞれ自分の食べたいものを手元に用意した私達は、近くにあったテーブルに並んで座った。


「ジューダは本当に甘いものが好きね……」


 呆れた様子を隠す事無く呟くと、ジューダはほんの少しだけ不服そうな顔をして言った。


「私はね、糖分を魔力に変えて使っているの。あなたのように空気から魔力を作り出すことは出来ないのよ」


 だから私が糖分を摂取するのは魔力を維持するためなのよ、と言いながら生クリームたっぷりのケーキを口に運んでいる。

 私は無意識で魔法を使っているし、魔法の原理なんかについてを全く知らないので、彼女が言っていることが本当なのか嘘なのかは解らない。なんとなく、糖分を摂取する事を正当化しているだけのような気もしているのだけど。


 栄養バランスなど考えず、ただただお菓子を堪能しているジューダを観察していた時だった。

 ある男が私達に声をかけて来た。


「初めまして、ジューダ様、クレセ嬢。こちらに座ってもよろしいでしょうか?」


 私がきょとんとしている間にジューダがどうぞ、と声をかけたため、その男は何の躊躇いもなく私の正面に腰を下ろした。

 この男、どこの貴族だったかしら?


「あなたは確か、グローイン公爵でしたわね」


 ジューダはにこりと口角を上げながら言う。

 グローイン公爵と言えば、確か魔力無し公爵だったはずだ。


「はい、カラー・グローインと申します。以後お見知りおきを」


 絹糸のような金髪をさらりと靡かせながら、グレーの瞳を細めて微笑むグローイン公爵。その瞳は、完全に私の方を見ていた。どうやら私は彼にロックオンされたらしい。


「私達の事は知っているようだったけれど一応、私は魔女のジューダ。彼女は私の弟子のクレセ」


「クレセ・ムゲーテと申します」


 私はぺこりと頭を下げて見せた。正面に座られてしまったので、あからさまに無視するわけにもいかない。そもそも彼は公爵なのだ。私よりも身分は高い。


「そうだわクレセ、グローイン公爵はあなたの好きなタイプかもしれないわね」


 目の前に居る公爵に対してどう接するかを考えていたところで、ジューダがとんでもない爆弾を投下した。

 私の好きなタイプとは? 私は彼女にそんな話をしたことがあっただろうか? いや、ない。


「ジューダ、何を……」


「彼は女好きで有名だもの。あちこちでありとあらゆる女性と浮名を流しているわ。そうよね、グローイン公爵」


 清々しいほど綺麗ににこりと笑ったジューダの表情に、悪意は一切見受けられない。しかし、グローイン公爵の額には冷や汗がじわりと滲んでいる。あまり触れられたくない話だったのだろう。


「ジューダ様、それは、」


 口元を引き攣らせたグローイン公爵が弁明をしようとしているが、ジューダはそれを許さない。


「クレセはね、浮気者と結婚したいそうよ。あなたにも脈はあるわ」


 ジューダはぱちん、と可愛らしくウインクをして見せた。

 それを見たグローイン公爵が一瞬唖然とした後、私に訝しげな視線を送ってくる。それもそうだろう、浮気者と結婚したいだなんて言う女は滅多に居ないはずだから。いや、滅多に居ないどころか存在すらしないかもしれない。


「クレセ嬢、それは……本当ですか?」


 怪訝そうな顔で尋ねてくるグローイン公爵の瞳を見て、私はおずおずと頷いた。


「えぇ、まぁ……本当です」


 ジューダが何を考えて彼にこの事を言ったのかはさっぱり解らなかったが、ここで嘘を付くことに何のメリットも感じなかった私は、素直に答えることにしたのだった。





 

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