表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

絶身のブラドパイア 中篇

 ★中篇★



「なぁ。まさかこの穴に飛び降りるって事は無いよな」


「あなたねぇ。来る時は飛び上がったんだから、行く時は飛び降りるでしょ。普通」


「お前らは一つでも普通な生き物なのか」


 俺はまだビビっていた。


 いきなりこんな穴に飛び込めなんて、とても恐ろしくて出来ない。――何て考えてる内に、後ろから何かに押された。


「――え?」


「……」


 そこには虹の髪を持つ不思議な少女が立っていた。


「ちょっと待てぇえええええええええええええええええ!!」




 ――落ちた。いや、立っていた?


 俺はいつの間にか街中の雑踏の中に居た。痛みも、衝撃も、それに行き交う人々の視線も無い。


 まるで俺一人だけこの世界の中で孤立している様だ。


「さ、行きましょうか」



 いつの間にか後ろに居た青い猫。そして虹の少女。彼女達はごく普通に歩き始める。

「お、おいおい、ちょっと待てよ。お前とか普通に喋って良いのか? ってかお前、さっきはよくも押してくれたな。お前だって、その不思議な格好は目立つだろ」


 俺は周囲の人々に聞こえない程度のか細い声で注意を促す。


「何言ってるの? 私達の姿はここに居る人間達には見えない。それに――」


「あ、危ない!」


 行き交う一人のサラリーマン風の男性が、虹の少女にぶつかる――筈だった。


 彼の身体は立体映像の様に、彼女の体をすり抜け、何事も無かったかの様に歩いて行った。


「えぇええええ?」


「それに、私達の存在はこの世界の人々には影響を及ぼさない。物とか、地面とかは別だけど。それに、“あっち”の方からは丸見えなのよ」


「“あっち”の方?」


 猫の視線の先。さも意味有り気に向けたその視線の先には、城が有った。


「な、何だ。あれ?」


 まるで中世ヨーロッパ時代から抜け出した古城の様だ。それに、城は浮いていた。


 浮遊しているのだ。城そのものが。


 外壁は黒く、辺りには黒い靄が覆い、長い鎖を垂らしている城。


 その城を見つめていた虹の少女は、不意に猫を抱きかかえると、そのまま右肩に乗せた。


「おい、どうするんだ? まさか、あそこに“ゾンビ”みたいな奴が居るのか?」


「さぁどうでしょうね。“ゾンビ”みたいに簡単な相手なら良いんだけど、今度の敵は明らかに厄介者みたいだし」


 猫は肩の上から喋る。とても落ち着いて喋る。


「厄介者って、強いって事なのか?」


 そう言った瞬間、虹の少女が俺の手を握った。いや、掴んだ。


「え? 何してるんですか、あなたは」


「……」


 少女はそのまましゃがむ。しゃがんで、城の方を見つめる。


 ――そして跳んだ。


「うぉおおおお!!」


 その跳躍力はまさにジェット機の如く、あまりの速度に身体中か凍える程だ。


 風を切り、小鳥を撥ね退け、少女は猫を抱え、俺を掴んで跳んでいる。飛んでいる?


「このまま城に突っ込むわよ! あなた、しっかりと頭守りなさいよね!」


 途轍もない程の強風と勢いの中、僅かに聞こえる猫の声。見ると、少女が跳躍した場所はひび割れており、まるでその場所に隕石が落下した様だった。


 人々は問題なく歩いてはいるが。


「さぁ突入よ! いざ、謎の魔城へ!!」


「助けてぇええええええええええええええ!!」


 ――瞬間。少女の細い脚が、城の黒い外壁を突き破るのが目に見えた。




「さぁ、ここが謎の魔城の中よ」


「……はぁ?」


 気付けば、そこに有ったのは真っ黒なステンドガラスだった。


 かなり巨大だが、描かれているのはまさに悪、そのもの。


 人々を踏み台にし、頂上に君臨する謎の男性。その手には白い光が握られていた。


「なかなか趣のある所じゃない」


 猫は少女の肩から飛び降り、城内を歩き始める。


「趣って、かなり悪趣味な所じゃないか。壁も椅子も階段も、天井もガラスもシャンデリアも、全部真っ黒だ」


「…………あいつも」


 虹の少女が呟く。


 あいつ? 俺は城内の奥を見る。


 最初は辺りが真っ暗だったせいで奥は見えなかった。しかし、目が慣れてきた今なら見える。奥の方に見える人影の事を確認し、俺は自然と前に出ていた脚を止めた。


「――ホゥホゥ。まだ随分な客人が招かれたものだ」


 奥に居る人影が語り出す。その声は、まるで闇を統べる王に相応しい様な、闇から聞こえるに相応しい様な、そんな声だった。


「歓迎しよう。私がこの城の主だ。何か欲しい物は有るか? 御客人共」


 彼が話す。俺の身体は何故か動かない。動かす気持ちになれない。


「欲しい物なら有るわよ」


 猫が答える。俺はその行為を自殺行為と感じていた。


「まずはあなたの自己紹介。それから――この城の支配権。要は、あなたの命……とでも言うべきかしら」


「フハハハハハ! まずは自己紹介、か。イイだろう。私は由緒正しき真血族、ブラドパイア皇という。ブラドパイア・シン・アラドヴァルムだ。今後覚えておくと良いだろう。そして、もう一つの方だが……」


 彼はそこで話を切った。


 いつの間にか、彼は少女の目の前に居た。その美しい顔立ち。その印象的な銀髪。その対照的な漆黒のコート。


 そして、口の隙間から見える白い牙。


「あ、危な――」


「そいつは無理な相談だ」


 ――瞬間。彼の右腕が唸りを上げて虹の少女を襲う。


 辺りには、痛いほど感じとれる殺気が満々ていた。




 ★終篇に続く★

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ