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絶身のブラドパイア 前篇

 全てを無くした少年。井杉エリト。

 彼は住むべき世界、有るべき平和、そして大切な人々を失った。創造物のせいで。

 彼を救ったのは青い猫と虹色の少女だった。

 今、新たな世界へと彼らは旅に出る。

 Second

 ★前篇★



 俺は今、何も無い白い空間に居る。いや、座っている。


 あの時、俺は虹の髪を持つ少女から「ゴメン」と謝られた。俺はよっぽど言い返してやろうと思ったが、涙と嗚咽を制するのに精一杯で、声をかける事が出来なかった。


 家族を全員無くし、住むべき世界も無くした俺は、目の前を行く青い猫と虹の少女に付いて行った。


 彼女達は世界に侵入してくる創造物、いわば人間が生み出した神話や、おとぎ話の世界に登場する怪物達を倒し、世界から創造を無くそうとしている……らしい。そうすれば新しい世界が開かれ、永遠の平和が訪れるとか何とか。


 とにかく、俺はこいつらに付いて行こうと決めた。どうせ帰る所も無いし、俺みたいに創造物のせいで大切な人達を失う、そういう人を出さないように出来るなら、付いて行く事に依存は無い。自分に何が出来るかなんて解らない。でも退路は無い。


 俺はこいつらと先へ進むしかなかった。


 あの事件の後、彼女達は空に現れた不思議な穴に吸い込まれていった。俺は追いかけようと穴の真下に走って行く。すると身体が自然に浮き上がり、そのまま穴の中へと吸い込まれていった。


 そして今。俺はこの白い空間に居る。


 僅かな家具以外は本当に何も無い。それにここがどれくらい広いのかも解らない。辺り一面真っ白なせいで遠近感が上手く働かないせいだ。


 ここにいる生命体は俺を含めて三つ。


 一つはソファの様な家具の上で寝ている青い猫。


 もう一つは床に体育座りしながら目を瞑っている虹の少女。


 そして俺。……そういえばこいつの名前はまだ聞いて無かったな。


「あのー、君って」


 勢いで話しかけてしまった。彼女は独特な服装と、有り得ない長髪を持っているせいか、どこか話しかけ辛い雰囲気が有る。


「……」


「……」


 無視かよ。


 彼女はそのまま立ち上がり、少し離れた所に有る別の家具に座ってしまった。


「――アプローチは失敗だったわね」


「おわぁ! ビックリさせるなよ。起きてたのか」


 いつの間にか近くまで来ていた青い猫。こいつは何故か喋る。ごく普通に喋る。


「私達は寝る事なんて無い。そんな機能は付けられて無いもの」


「そんな機能?」


「そうよ。――ここらで、私達の事を良く紹介しておこうかしら」


 猫はそう言うと、尻尾を上げて俺の肩に飛び乗った。


「うわっ、乗るなよ気持ち悪い。俺は動物アレルギーなんだ」


「だから、私達は只の動物じゃないわ。正式には『時空移動式・対クリエイト用試作型アンドロイド』。要は私達は機械って事ね」


「機械? お前が? 只の青い猫じゃないか」


「お前じゃない。――でも、猫っていうのは当たりよ。私はこれでも猫を模して造られたんだから」


「模しすぎだろ。ってか誰がこんな最先端のロボット造ったんだ? まさか虹色のあの子か?」


「そんな訳ないでしょ。彼女は『クリエイト・ウェポン』の力を持つ少女。私と行動を共にし、そして創造物を倒す人類の希望の星」


「希望の星?」


「だってそうでしょう。あなたのような人を出さないために彼女は戦っているのよ。今回はちょっと遅すぎたけれど」


「……」


 その時、この猫の言葉で甦ってくる記憶。目の前で“ゾンビ”と化し、俺達に襲いかかろうとしてきた家族、友人、近所の住人。そして皆殺されていった。それ以外に手段は無かった。そんな事は解っている。そんな事は……。


「急がなくていいのよ。大切な人達と世界を失った事。それらはそう簡単に乗り切れるものでは無いわ。現に今、彼女でさえ乗り切れてないんだから」


「彼女?」


「あの子の事よ。彼女の世界も、創造物に壊された。彼女の世界に侵入してきた創造物は“大天使ガブリエラ”。ガブリエラは彼女の世界を天国に作り替えようとした。……人類を消してね」


「“大天使ガブリエラ”……それで、その後はどうなったんだ」


「彼女以外の人類は皆死んだわ。そして逃げ延びた彼女は私と出会った」


 猫はそう言うと、俺の肩から飛び降りてその場で座った。


「じゃあ、ここからが大事な話だからよく聞いてね」


 唐突にこう言われ、俺はその真剣な口調に少し気圧された。


「あ、あぁ」


「私達アンドロイドは、あなた達の住む世界より未来の世界からやってきた。未来の世界では創造物が危険だと認識されていた、でも人類に戦う力はすでに残ってなかった。度重なる戦争。内戦。それらのせいで人類の資源は枯渇しかかっていたせいよ。そこにきて今度は創造物っていう未知の敵が現れた。対処が不可能と悟った科学者達は、ある計画を立てた。それがNCプロジェクト。私みたいなアンドロイドを造り、時空を越えさせ、過去の人類と協力し、いずれ世界を壊す創造物達を倒すっていう計画だった」


「ちょっと待て。話が大きすぎて解んない。あと「だった」ってどういう意味だよ」


 俺は堪らず話を止めた。幾ら何でも話が無茶苦茶だ。


「一度に質問しないで頂戴。返答に困るわ」


「じゃあ、話が大きすぎると思うんですけど」


「それだけ創造物は危険って事よ。NCプロジェクトでは創造物を倒す力が必要だった。現代兵器では何も役に立たなかったから。そこで科学者達はある兵器を開発した。出現する創造物を一時的に捕らえ、その血肉を元に造られた液体状の兵器。それが私達の元よ」


「俺はまだ、お前らが未来から来たって所から話が解らないんだが」


「良いから聞きなさい。……そして、その液体を個体状にし、世界を跳べるようにした。それが私達アンドロイドよ。未来の人間には何故か私達の力が使えない。でも現在の彼女の様な人間になら使える。だから私は彼女に力を与えた。泣き崩れていた彼女に」


「泣き崩れていた?――」


 ――丁度、俺の言葉が白い世界に響き渡った頃、家具に座っていた虹の少女が立ち上がり、会話中の俺達に向かって一言言った。


「行くよ」


「……」


 俺は彼女が急に喋った事と、言っている意味が解らない事の両方で口が閉じてしまった。


 対する青い猫は、俺との会話をあっさり中断し、彼女の方へと向く。


「もう来たのね。……今度の世界はどんな所なのかしら」


「お、おい。……今度の世界?」


「そうよ。私達が旅する世界はいつも違うのよ。今度現れた創造物が居る世界に向かって跳ぶだけ」


 そこで、再び虹の少女が口を挿む。


「……シクレ。後、……そこの……」


「……はぁ。俺はエリト。井杉絵里斗。俺も名前教えたんだから、お前の方も教えろよ」


「……行くよ」


 無視かよ。


 見ると、いつの間にか部屋の中心に黒い渦が出現していた。よく見ると、俺達が通ってきた穴と同じ様である。


「さぁ、行くわよ。今度はどんな創造物が待ってるのかしら」



 ★中篇に続く★

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