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虹髪のアスリクルツ 前篇

 

 First

 ★前編★ 



  少女はそこに立っていた。


  辺りは高層建築の塊が建ち並ぶどこにでも有る都会空間。


  公共道路の中心に立ち尽くし、吹き付けるビル風を純白とも言える肌と、全身を包む黒色とも見える深い青のコートで受け止め、上半身に近未来を漂わせるデザインのトレーナー、下半身にはコートと同じ深い青のホットパンツ。そして青の生地に独特な水玉模様のブーツを履き、ある一点を見つめたままその場から動かない。


  朝の通勤ラッシュに翻弄される人々は、道路の中心に立つ異様な風貌のこの少女無視するかの様に、毎日繰り返す光景を作り上げている。


  先程から何台もの一般車両が彼女に向かって行くものの、その全ての車両は彼女の身体を当たり前の様にすり抜けている。


  ――やがて“ソレ”は現れた。


  彼女が見据える一点から出現した“ソレ”は、中国が発祥とされる空想の怪物。天候を自由に操作し、天空を自在に翔ると云われる伝説の“神竜”に間違いなかった。“神竜”は天地を引き裂く咆哮を轟かし、鮮やかな碧色の鱗が這う巨体を振り回しながら彼女の眼前へと降下していく。


 彼女は“神竜”の姿を確認した瞬間、しゃがみこんで両手を地面に付ける。すると各手に一本の光の筋が現れ、その光が地面を伝って動き出す。まるで見えない腕が光の筆で絵を描いている様だ。


 ――描かれた物は槍。


 各腕に一槍。合計二槍の槍を彼女は地面から引き剥がした。光に縁取られたセメント色の槍達は、やがて鈍く輝き出し、光と爆発音と共にセメント色を吹き飛ばす。


「『神槍·ロンギヌス』」


  まず始めに吹き飛んだ右腕の方の槍を彼女は掲げる。色は紅蓮の様に燃える赤。槍の先端が僅かに変形しており、小さな十字架の様な形をしている。


「『神槍·バジランド』」


 次に左腕に持つ真黄の槍を掲げる。先端は雷の様に変形し、持ち手にもその変形が見られる。


 ――瞬間。彼女は手に持つ槍を順番に投擲した。


 どちらの槍も螺旋状に回転し、既に音速を突破した証であるソニックブームを纏いながら、風を切る轟音と共に“神竜”へと走っていく


 “神竜”の身体を包む紅蓮の華。


 撃たれた部位は“神竜”の前肢であり、それに接していたであろう身体も、両脇が多少抉れていた。


 “神竜”は美しくも猛々しい双眼を烈火の如く充血させ、彼女を睨みながら口腔内に黒い煙をちらつかせる。その煙はどうやら雷雲の様で、辺りに放電しながらもその雲量を徐々に増やしていく。


 神話には竜は嵐を操るとある。その伝承よろしく、今この“神竜”は周りの大気ごと口に含み、まるで“神竜”を中心に巨大な積乱雲が発生している様な現象を作り出していた。


 彼女は咄嗟に手を地面に付け、先程と同じ要領でまた一つの武器を取り出す。


「『神弓·雷上動』」


 それは彼女の身体より巨大な金色の弓だった。


 彼女が弓の弦を掴む。そして矢を放つ体制になると、自然と二対の矢が出現し、彼女の手へと収まった。


 ――矢は放たれる。


 赤と青に光る二対の矢は、放たれた瞬間にそれぞれ無数に増殖。その数を一瞬の内に十八本にまで増加させ、それら一つ一つがまるで閃光の様に“神竜”へ向けて飛んでいく。


 簡素な音を響かせ、全ての矢は“神竜”を射抜いた。


 射抜いた箇所から溢れ出す血流。それらは滝の様に地面へと降り注ぐ。


 “神竜”は射抜かれた衝撃と激痛により、自らが鎮座すべき場所である天空より落下していく。が、落下する間際に口に含ませていた雷雲を解き放ち、蓄電されていた全ての雷を放電させた。


 爆撃もかくやと思われる程の衝撃と爆音、そして激光を全身で受け止めた少女は、元居た場所より勢いよく吹き飛ばされ、数百メートル背後に位置していたビルにその全身を叩きつけた。


 彼女を中心に蜘蛛の巣状に広がる亀裂は、ビルの高層ガラスを粉々に打ち砕き、叩き付けられた時の衝撃音がより一層の激しさを物語っていた。そして大量の破片を下方の道路に落下させる。


  それでも人々は気付かない。ビルの中に入ろうとする人間もいる。人々にはこの光景が見えていないのだろうか。それ自体が異様な光景でもあった。


  彼女はよろめきながら、めり込まれているビルに右手を付き、光の筋を出現させる。


  ――描かれた物は大剣。


 彼女の身体より遥かに巨大な剣だった。刀身の形はまるで鉄板の様であり、柄に当たる部分は星の様な形である。


  彼女はそれを片腕で引き剥がす。そして両腕で構えると、剣を包むビルの灰色が吹き飛ぶ。


「『神剣·フラガラッハ』」


  現れた大剣は、鉄板の様だった刀身を眩いばかりに輝かせる。余りの輝きに刀身が見えず、まるで光その物を手に持っているようだった。


  燦然と輝く光の塊を構え、彼女は廃墟同然に成り下がったビルを蹴って跳躍する。その衝撃でビルは跡形もなく崩れ落ち、崩れ落ちさせたその脚力は明らかに常人のそれを超え、彼女は流星の様に宙を駆ける。


 既に速度は光速の域まで達し、フラフラと舞い上がろうとする“神竜”へと向かって光輝く神剣の切っ先を向け突撃する。


  ――そして竜の首は落とされた。


  光速で斬られた“神竜”はしばらくの間動かずに静止していたが、やがて巨大な頭が首から滑り落ち、それに続くように身体も地面に落下していった。


  彼女は再び道路の中心に立ち、落ちてくる竜の亡骸を見つめた。手に有った神剣·フラガラッハは光の靄に成って消え失せ、竜の死体も靄に成り、消えた。


  ――彼女は独り、虹色の長髪を揺らしながら、天空へ向かって跳躍して行った。



 ★中編に続く★










 


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