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第100話 酸いも甘いも呑み込んで

 それまでの凍てつく殺気混じりの空気も、その横の暑苦しいテンションも。

 綺麗にまとめて飲み込まれ、驚愕だけが残された広場に、しん、と耳が痛くなるような沈黙が下り……。



「――って、蝙蝠様! い、いきなり何するの?!」



 誰より早く現実が脳に届いたのは、この現象を経験するのが2度目となるリコリスだった。

 慌ててポーチを腰から外し、意思の疎通を求めて正面へ。

 対峙した蝙蝠の堂々たる笑みは揺らぎの一つもなく、いつも通りに頼もしい。言ってしまえば、リコリスの詰問に応える気のない笑顔である。


 逆に、動揺しているのが持ち主であるリコリスの方だ。

 双子をしまおうと画策したこともあったくらいだし、初回ほどのショックはないにしろ、やはり唐突過ぎる。

 何故にライカリスにライラックまで飲まれるのかと納得もいかないし、何より前触れなくライカリスの姿が目の前で消える光景は、あまり心臓に優しくなかった。

 だがそれ以上に驚愕していた2人は、リコリスが蝙蝠に詰め寄るのを見て血相を変えた。


「リコリスがやったんじゃないの?!」

「え、お義父さまは? リコリスお姉さま、お義父さまが……!」

「う、うん……」


 青い顔の友人2人に挟まれたリコリスは一瞬、こんな時でも演技忘れないデイジーさすが、などと場違いな感動を覚える。正直に言うと、完全に現実逃避である。

 が、逃げてどうにかなるものではないので、意識の首根っこを掴んで引き戻し、改めて蝙蝠ポーチに向き直った。


「蝙蝠様、あの……4人とも無事だよね?」


 ライカリスは以前は問題なく戻ってきたし、蝙蝠様を信頼もしているが、これだけは確認せずにはいられない。

 問い詰められても睨まれても「ふーん」といった様子でいた蝙蝠も、これにはニヤリと笑みを深めて応えた。


(だ、大丈夫ってことだよね? 蝙蝠様だし……うぅ、でも……)


 信頼と安心は、必ずしもイコールではないらしい。

 中で何が起きているかも謎な上、前回は相棒が泣かされて帰ってきた。それに、帰ってきた後のライカリスは……。


(あ、やっぱり不安)


 命に別状がなければいいというものでもないというか、ろくでもないことになりそうというか。

 とりあえず、ライカリスとライラックは返してほしい。


「蝙蝠様蝙蝠様、せめてライカとライラックさんは出そう。お願いだから」

「蝙蝠様、私からもお願いします。お義父さまを返してください」

「あの、蝙蝠……様? えぇと、その……もう2人に会えないのは、ワタクシ嫌だわ。会いたくないなんて、言わないから、だから……」


 リコリスの懇願に、デイジーとソニアも続く。

 今すぐに出してほしいと言わないあたりにソニアの苦労が偲ばれるが、それでも会いたいとは言えるのだから、すごいとリコリスは思う。深淵のごとき愛は、確かに存在するようだ。

 しかし、双子についてはそんな感じで、まあ飼い主も今すぐ返せと言わないのだからひとまず置いておくとしても、ライカリスとライラックは救出したい。


「蝙蝠様、お願い」

「お願いします」


 リコリスもデイジーも再度言葉を重ねたが、その願いを阻むは、またしても「ふーん」という態度。目も声もない蝙蝠の沈黙は雄弁で、とりつく島もないのがよく分かる。


 そして、ちょっとイラッとくる。


「……蝙蝠様?」


 リコリスが引き攣った笑みで呼べば、今度はぱっと真顔になった蝙蝠ポーチが、次の瞬間だらりと力を抜いた。いつも宙を泳いでいる羽はしんなりと垂れ下がり、本体部分も何となく形を崩す。

 これは何度も見た、お得意の。


「くっ……また死んだフリ……」

「…………感情豊かなカバンさんね」


 ソニアが力なく笑って、デイジーも眉を八の字にしてため息をつく。

 これは感情豊かと言うか、我が強いというのが正しいのではないだろうか。


(あ……そうだ。この指輪なら)


 ふと思い出したのは左手の指輪の存在で、これならばと口づけてみるも、やはりと言うべきか、応えはない。

 リコリスはため息と共に肩を落とすしかできず。


《ダメそうだなぁ》


 落胆するリコリスを黙って見守っていたデイジーが、諦めを多分に含んだ声で呟いた。


《リコリス》

《……はい》

《本当に危険はないんだな?》


 こんな時のデイジーは年上らしく、現実的で合理的だ。

 蝙蝠の懐柔が不可能と判断すると、リコリスに尋ねてきたのはまず彼らの安全だった。グループチャットに切り替えたのは、発言内容が幼女にそぐわないと考えたからだろう。


《うん。ライカは前にも食べられてるけど、無事に出てきたよ。ただ、中に誰かいる……のかなぁ。詳しくは教えてくれなかったけど、なんか虐められたみたいで》


 酒場の宴会の時に、蝙蝠ポーチのこれまでの奇行はデイジーには軽く話したが、その当時の関係者の様子までは話していなかった。

 実は泣かされていたことは伏せて、簡単に要点を伝えれば、2人は揃って驚きの声を上げる。


《ライカリスが? ライカリス虐めるような奴がいるって? この中に? おい、危険地帯じゃねえか》

《カバンまでドSって……さすがリコリスね》

《さすがの意味が分からないんだけどね、ソニア? それはともかく、何だっけ、確かヘタレとか言われたって。ライカがヘタレって、よく分からないけど》


 それを聞いた途端、デイジーがぱっと、リコリスから蝙蝠ポーチへと視線を戻した。

 それまでの困惑や懇願の、半ば演技を伴った表情ではなく、大きな目を更に丸くして、まじまじと垂れ蝙蝠を見る。まるで何かを確かめるように。


「デイジー?」

「どうしたの?」


 リコリスとソニアが様子を窺うもデイジーは応えず、しばしそうして蝙蝠を窺い。


「蝙蝠様。今日、私たちがお暇する時には、お義父さまたちを出して頂けますか?」


 やがて、おっとりとした微笑を浮かべて、そう問いかけた。

 友人の急な変わり身に驚いたリコリスが何かを言うより早く、蝙蝠がしゃきっと体勢を戻して、再びにやりと笑みを一つ。

 どうやらそれで交渉が成立してしまったらしく、デイジーがにっこりとしてからリコリスたちを見上げてきた。


「そういうことみたいです」

「いやいやいやいや、そういうことってどういうこと?」

「あなた、今ので何を通じ合ったの……?」


 激しく不審げに問われた幼女は、困ったようにやんわりと笑みを作る口元を淑やかに片手で隠し、幼い仕草で首を傾げる。

 その完璧な演技には一切の隙がなく、蝙蝠ポーチの笑みと同じく妙な説得力があった。

 蝙蝠だけでも手に負えないのに、その上友人の一人まで向こうに付いたとあっては、対処に困るどころの話ではない。しかも、この友人は幼女の皮を被った年上(おっさん)なのだ。

 説得する言葉が見つからず、黙ってしまったリコリスの腕に、デイジーはそっと小さな手を添える。


「リコリスお姉さま、ライカリス叔父さまなら、きっと大丈夫ですから。リビダお兄さまたちも、後で皆出してもらえます。ね?」


 リコリスを宥め、ソニアに笑いかける。それはいつもと変わらぬ信頼できる友人の姿だった。

 デイジーにはデイジーなりの確信があるのだと、幼女らしからぬ深慮を湛えた瞳が語っていて、リコリスは口を噤む。

 事を起こしたのは蝙蝠様で、デイジーがそれを認めた。身の安全(だけ)は保障されている。ライカリスのことは心配で仕方がないが、どれだけごねても返される気配はない。

 ここまでくると、いたずらに反抗を重ねるも頑迷に過ぎるというものか。

 リコリスは重い吐息を零し、掲げ持った蝙蝠ポーチを見つめた。


「……ライカ、虐めないでね?」


 ようやくの主人の同意を得て、蝙蝠は片翼をぴっと立てそれに応えた。新しい返事のパターンである。

 満足そうな蝙蝠にどうにも負けた気分で、リコリスは何度目かのため息をつくと、ポーチを腰に戻した。


「――じゃあ、牧場に移動しよっか」

「はい」

「ええ」


 何やら既に疲れてしまったが、ここはまだ広場。ソニアを出迎えた位置から動いてもいない。

 このままここにいる理由もないので、リコリスは客人たちを自身の住処へと誘い、デイジーとソニアもそれに頷いた。




■□■□■□■□




(うーん、何だか落ち着かない……)


 具体的には、左隣が寂しい。

 理由などは分かりきっている。ライカリスがいないからだ。

 家に友人たちを招き入れ、リコリスの淹れたお茶とたくさんの茶菓子を前に、やっと人心地の今。昼食前のゆったりとしたお茶会の時間。

 こんな風に寛いでいる時に相棒がいないことなど、もうほとんど記憶にないくらいで、その珍しい状況がリコリスを落ち着かない心地にさせる。

 つい先頃も、手伝ってくれたデイジーに「ありがと、ライ……じゃなかった、デイジー」などと発言してしまって、ひとしきり笑われたばかり。だというのに、未だにこうしてそわそわしている。


「リコリスお姉さま、また隣を見ていますね」

「あなた、ライカリスと本当にいつも一緒なのね」

「うぅ……」


 先ほどの「ありがとう」だけでなく、「おはよう」も「おやすみ」も、そして「ごめん」も、後ろに「ライカ」と続くことが圧倒的に多いのだ。それくらいには時間を共有している。

 からかわれても、返す言葉がない。言い訳したところで、どれだけの説得力があるのやら。

 リコリスは気恥ずかしさに呻きながら、ある種の開き直りを抱いて友人2人に向き直った。


「そのライカが何も食べられないのは困るから、ちょっと差し入れしてくるね! 先に食べててっ」


 指摘を認めつつも、話を逸らす。

 元から差し入れはするつもりだったが、このタイミングが照れ隠しなのはバレバレで、デイジーは口元を手で隠し、ソニアは頬杖をつきながら、揃ってニヤニヤしている。

 リコリスはそれには見ないフリでそそくさと席をたつと、冷蔵庫の扉の影に逃げ込んだ。冷やかしの視線が遮られ、中の冷たい空気は優しく熱をもった頬を撫でてくれる。気持ちがいい。


 リコリスは冷蔵庫の縁に手を置き一息をついて、白く煙る呼気が解けて消える頃に前方に浮く料理をいくつか引き寄せた。

 中にいる人数を考えると、オードブルの大皿の方がいいだろうか。しかし、ライカリスが双子と同じ皿をつつく光景というのも想像できなくて、結局個人用の料理も用意する。

 ライラックの作ってくれた色とりどりのデザートは、何度見ても美しく芸術的で、リコリスの作ったよく言えば素朴な菓子と見比べると微妙に切ない。

 食べる側なら確実にライラックのデザートを選ぶだろうと思いながらも、リコリスは自分の菓子も手元に呼んだ。ライカリスの好きなクラフティやアップルパイなら、まあ見た目で劣っても喜んではくれるかもと、淡い期待をもって。


 取り出した皿は、何も言わなくても口を開けて待っていてくれた蝙蝠ポーチに、次々と吸い込まれていく。

 この辺りはリコリスも慣れたもので、もう手元や腰を確認することもない。

 最後に飲み物は温かいものと冷たいもの、両方を用意して。


(よし、と)


 中でどうなっているかは不明だが、蝙蝠が料理を受け付けたのだから、食べられないような状況ではないのだろう。なら、少しでも寛げるといい。


「お待たせ!」


 テーブルに戻れば、品よくフルーツタルトを口に運んでいたデイジーが、視線を上げてにっこりと、


「おかえりなさい。ライカリス叔父さまたち、きっと喜んでくれますよ」


 訳知り顔で励ましてくる。

 冷蔵庫の扉で隠していたつもりだったのに、目敏く察しのいい幼女である。


《リコリスのだって味はすげーいいんだから、そんな気にしなくていいと思うんだけどな。父ちゃんのやつの見た目がよすぎんだよ》


 そして、脳内に届く声は優しい。


「ソニアお姉さまも、そう思うでしょう?」

「ええ、もちろん」


 優雅に紅茶を飲むソニアも微笑みながら頷いてくれて、リコリスはやや申し訳ない気分で苦笑し、簡単に謝意を述べて席に着いた。

 優しい友人にたちに、変なところで気を遣わせてしまった。テーブルの上の菓子類もまだほとんど手付かずで、リコリスを待っていてくれたのだろう。

 まあ、散々茶化してきたのもこの2人なので、申し訳なさは若干目減り気味だが。

 ひとまず準備と言える準備は終えたので、お茶会の再開だ。というところで、リコリスはソニアの視線が妙な所に向いていることに気がついた。


「? ソニア、どうかした?」


 紫の双眸が捉えるのは、皿ではなく、かと言ってリコリスでもデイジーでもなく。何故かテーブル越しに斜め下の方を見ているようだった。そう、ちょうど蝙蝠ポーチのある辺りを。

 リコリスに首を傾げられてから、ソニアが視線を持ち上げる。


「……蝙蝠様は本当に面白いわね。スピちゃんは可愛いし……ワタクシのカバンも、そんな風になったりするのかしら」


 そうして呟かれたのは、そんな言葉だった。

 紅茶をもう一口飲んで、ソニアは羨ましそうに息をつく。冷蔵庫前でのリコリスと蝙蝠ポーチのコンビネーションに、そんな感想を抱いたらしい。

 それを聞いたリコリスとデイジーは、顔を見合わせてから揃って複雑な表情になる。2人とも、ソニアのカバンを知っているからだった。


「う、うん……どうかな。どうだろう……」

「ソニアお姉さまのおカバンは……えぇと」


 2人の視線の先、そこにはソニアの豊満なバストと、それによって作り出された谷間がある。

 今日のソニアの、露出の少なめな衣装の内、白くキメ細かい肌を主張する場所。その魅惑の峡谷こそ、件のカバンの在り処だった。

 ちなみに、正式名称を谷間ポケットと言う。


《俺、考えた奴尊敬するわ。マジで》


 デイジーがボソッと脳内で言い添えるこのカバン。

 ゲーム中で所持品を開くと胸元を覗き込み、出し入れの時には当然谷間から、の動作付き。

 使用できるのは女性の、キャラクターメイクの時に胸のサイズを一定以上に設定したプレイヤーのみで、要するに谷間がなければ不可という制限がある。オマケに「胸元の開いた服装で使用のこと」という注釈まで書かれた、まさに製作者こだわりの逸品だった。

 発売された時には、これを使うためだけに、条件を満たす女性キャラクターを作成するプレイヤーもいたほどである。

 当時既に女王様キャラクターを確立していたソニアは、迷うことなくこのカバンを購入していた。理由は似合いそうだから、だそうで。


「ソニアのそれ、やっぱそこに色々吸い込まれるの?」

「吸い込まれるというか、押し込む感じかしらね」


 リコリスが身を乗り出してソニアの胸元を覗き込むと、ソニアはまだ使っていなかったテーブルナイフを掴み、谷間へと挿し入れた。

 細い指に押されたナイフは、引っかかることもなくスルスルと肌の間に消えていく。


「こんな感じで……ほら、ね」


 手招きされ、リコリスは促されるままに手を伸ばして、ソニアの鳩尾の辺りに触れてみる。

 そこにはソニアの柔らかな下乳を布越しに感じるだけで、ナイフは下から出てくることもなく、影も形もなかった。


「おぉ〜……」

「面白いといえば、面白いわよね」

「うん、面白い。……けど、大きい物とかどうするの?」


 しまいたい物が、全て手の平サイズや、ソニアに持ち上げられるというわけでもないのに。

 問えば、ソニアは何となく複雑な顔でちょっと小首を傾げる。


「うぅん、説明が難しいのだけれど……そういう物は、しまいたいと思いながら触って、少し引き寄せる動作をしたら、何ていうのかしら……さっきのリビダたちのようにぼやけて吸い込まれるわね」

「へぇ~」

「2人なの気づかれないように、色々試すのが大変で……」

「そ、そっか……」


 ライカリスに気づかれないように、ドキドキしながら必死で隠して……というのはリコリスにも覚えがある感覚だが、ソニアの場合はリコリスよりも難易度が高そうだ。

 単純に人数が倍というだけでなく、揃って性格に難がありすぎる。


 それにしても、ジェンシャンの時にも驚いたものだが、ソニアのこれは魔法や手品のような不思議さが加わって、色気よりも感動が先にくる。

 だがそれより何より、谷間に物をしまい込むという、漫画や映画のようなことを実際にできて日常的に実行する人間が、現在リコリスの身近には2人もいるわけで、それが一番驚きかもしれない。


「でも、これが動くようになるのって、想像がつかないわ」

「元は、黒い小袋だっけ?」

「ええ、そう。これね」


 販売時のイメージ画像は、小さな黒い袋だった。

 薄い布を2枚合わせていて、それを谷間に挟むと、持ち主以外には見ることも触ることもできなくなるとか何とか。

 記憶を掘り起こしながら確認すると、ソニアが頷いて胸元に指を突っ込む。人差し指と中指に挟まれて引っ張り出されたのは、イメージ画像通りの袋だった。大きさは手の平の3分の1ほど。ビロードのような質感をしていて、地味に高級感がある。


「これは……動きそうにないね。っていうか、動いたら嫌じゃない?」

「それはそうなのだけど……」


 物足りないのか。さすが物好き。

 ……とは口には出さず、リコリスはちょっと考えて。


「でも、動かなくても、何か面白いことはしてくれるようにはなるかもね」


 リコリスの蝙蝠ポーチが、予想外の進化を遂げているように。可能性としては、なくはない。この世界では、地球の常識に当てはまらないことがたくさんあるし、起こり得るのだから。

 そう告げれば、ソニアは心なしか目を輝かせて、袋を胸に挟み直す。


「そうかしら。だとしたら、楽しみだけれど」

「リビダとか、悪いことしたら自動的にしまってくれるかもよ?」


 例えば、言わずと知れた蝙蝠様の十八番。

 このポケットも、主の危機を察知して外敵を収納する機能を得たりするかもしれない。最初に例に挙げられるのが、一応恋人らしき男というのがアレだが。

 ソニアはそれを想像してみたのか、少し黙ってから複雑な顔になる。


「そ、それはちょっと……ここでリビダを出し入れするのは、ワタクシ遠慮したいわ。後が大変そうだし」

「入れっぱなしにしてやれば? ちょっと締めてやってもいいと思うんだ。反省は……しないだろうけど」

「後が怖すぎるわ、それ。ワタクシの方がもたなそうよ」


 心なしか顔色を悪くしたソニアが、ため息混じりに首を振った。

 それと同時に、何故か途中から黙り込んでしまっていた幼女が唐突に叫ぶ。



《言い方!! なんか卑猥なんだよ、てめぇらは!》



 幼女本体は身の置き場がなさそうに縮こまって俯き、反比例して荒ぶるのは中身の方だ。

 突然の注意にリコリスとソニアは目を見交わし、直前の会話を思い返す。そんな、言われるほど酷かっただろうか。

 そもそもMMOにはわりと下ネタはつきもので、その手の発言をすることがなかったリコリスやソニアですら、ある程度は耐性がある。

 デイジーだとて例に漏れないわけで、むしろ何気ない会話にいちいち反応して指摘する方が、というやつではないか。


《デイジー、セクハラアウト〜》

《セクハラ幼女〜》


 そういうわけで、ゲーム時代に則った返答をしてみれば、即返ってきたのは盛大なため息と、


《お前らのがセクハラだから! チャットと目の前の会話とじゃ違うんだよ、ちっとは恥じらえ!》


 呆れの色濃いお説教。

 そうは言われても、そんなつもりで話していなかっただけに、リコリスにはピンとこない。よくよく考えると、多少そう取れなくもない気もしたが、やはり深読みしすぎなのでは。

 ソニアも同じのようで、納得のいかない顔で首を傾げている。


《普通に会話してただけなのに……》

《ねぇ? これだから男って……》

《やだもう何このアウェー感》


 幸せが空になりそうなほどため息を繰り返して、デイジーは顔を上げた。


「ところでお姉さまたち、これからのことをお話しませんか?」


 色々と諦めたようだった。

次回更新は拍手に短編の予定です。

本編再開まではしばらくお待ちください。


8/8

拍手小話更新しました。


8/18

更に小話追加しました。

近日、本編再開予定です。

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