羅山 自作漢詩集
「霜降野」
晨光燦燦霜降野
〈晨光燦燦たり霜降の野〉
寒寒烈烈長残夜
〈寒寒烈烈にして長く夜を残す〉
我聞歳月不待人
〈我聞く「歳月人を待たず」と〉
而春風到未触也
〈而して春風の到り未だ触れざるなり〉
※「晨光」:早朝に輝く太陽の光。
【意】
朝日が霜の降りた野原を燦々と照らしている
風は冷たく夜の寒さをまだ残している
「歳月というものは人を待たずに、すぐに過ぎ去ってしまうものだ」と聞いているが
春の風の訪れは遅く、その暖かさに私はまだ触れていない
「旒鯉」
旒鯉揚揚舞
〈旒鯉揚揚として舞い〉
彩鱗泳青白
〈彩鱗青白に泳ぐ〉
遊雲際飛燕
〈雲際に遊ぶは飛燕〉
独居楽相睦
〈独居して相睦むるを楽しむ〉
※「旒鯉」:「旒」はふきながしのこと。「旒鯉」でこいのぼり。
【意】
鯉のぼりが勢いよく舞い
色取り取りの鱗が、空の青と雲の白を背景に泳いでいる
その雲際には燕が遊び
私は一人たたずんで鯉と燕が睦まじく飛ぶ様子を楽しんでいる
「来薫風」
春嵐過散花
〈春嵐過ぎて花を散らし〉
春眠覚散夢
〈春眠覚めて夢を散らす〉
新緑季五月
〈新緑の季なる五月〉
夭夭奔薫風
〈夭夭として薫風を奔らす〉
※「夭夭」:花や草木の芽が出たばかりで若若しいさま。
【意】
春の嵐が吹き去って花を散らしてしまい
その驚きに春の夢心地とした眠りから目覚めた
季節は新緑の五月を迎え
若々しい初夏の風が力強く吹いていく
「藤」
藤花揺揺蓋目上
〈藤花揺揺として目上を蓋い〉
紫香芬芬降睫帳
〈紫香芬芬として睫帳に降る〉
蹻足折心声謐平
〈蹻足折れれば心声謐にして平らか〉
愁眉開清風喨喨
〈愁眉は開かれ清風は喨喨たり〉
※「芬芬」:ぷんぷんとよいかおりがたちのぼるさま。
「睫帳」:長い睫毛が帳のように伸びているさま。
「蹻足」:かかとをあげてつまさきだつさま。
【意】
藤の花が視界を覆うように揺れ
その紫の花が芳しい香りを睫毛に掛かるかのように降らせてくる
爪先立った私の心は折れてその声は静謐に落ち着き
悩み事も消えて清らかな風が澄み切った音となって吹いている
「擬狂人」
叫叫夜酌嘆
〈叫叫たる夜酌の嘆〉
狂狂笑落魄
〈狂狂として落魄を笑う〉
影寄擬狂人
〈影寄りて狂人を擬せば〉
彷徨遊酔躄
〈彷徨して酔躄に遊ぶ〉
※「酔躄」:酔っ払い、足が萎えて歩けないさま。
【意】
夜に酒を飲みながら叫ぶように嘆き
身の落ちぶれを狂ったように笑う
影が心に忍び寄り狂人のふりをしてみれば
ふらふらと千鳥足になってあちこちを彷徨っている
「驟雨」
黒雲覆夕映
〈黒雲、夕映を覆い〉
霹靂招驟雨
〈霹靂、驟雨を招く〉
煙煙帰路断
〈煙煙として帰路は断たれ〉
軒人何須数
〈軒人何ぞ数えるを須いん〉
※「夕映」:夕焼けのこと。
「霹靂」:雷が急に鳴り響くこと。
「驟雨」:にわか雨のこと。
【意】
黒い雲が夕焼けの空を覆い
雷が鳴るとにわか雨が降り出した
雨は煙のように降り、帰り道はふさがれてしまい
軒下に雨宿りする人が、そこかしこにたくさんいる
詩作は思い付きなので、次回の更新があるかは不明……。
ゲリラ的に更新される可能性もあるので、よろしく!