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ファン次郎と浪太郎の一年

作者: 近藤良英
掲載日:2025/12/20

このお話は、私たちの暮らしのそばにある「家電」が主人公の童話です。くるくると風を送る扇風機のファン次郎と、長年家を支えてきたエアコンの浪太郎。彼らは文句も言わず、暑い夏も、季節のめぐりが狂った年も、ただひたむきに役目を果たします。新しい仲間がやってきたときの戸惑いや不安も、どこか人の心に似ています。この物語が、身のまわりの物や長く続く努力に、そっと目を向けるきっかけになればうれしく思います。

ファン次郎は扇風機。くるくると羽根をまわし、部屋の空気を動かすのがとくいです。

 となりにはエアコンの浪太郎。十年選手のがんばりやです。

 あるじの菊次郎はふたりに声をかけます。

「今年の夏も、よろしくたのむよ」


 けれどその夏は、とてもとても暑い夏でした。

 夜じゅう休まずにファン次郎はまわりつづけ、浪太郎も力いっぱい冷たい風をおくりました。

「ふぅ、もうくたくただ……」

 ふたりはぐったりしながらも、家をまもりつづけました。


 やがて九月、十月、十一月……。

 それでも暑さはおさまりません。

「地球はどうなってしまったのだろう」

 菊次郎はためいきをつきました。


 十二月になっても、まだ夏のよう。

 ついに大晦日をむかえてしまいました。

「ほんとうに季節はもどってくるのだろうか」

 ファン次郎も浪太郎も、不安なまま動きつづけました。


 元旦、菊次郎は冷たい空気で目をさましました。

 カーテンをあけると、空から雪がひらひら。

「ようやく冬がきたんだ!」

 でも……もう浪太郎は動けません。ファン次郎もぐったり。ふたりはくやしそうに見つめあいました。


 そこで菊次郎が呼んだのは、新しいエアコンの信一郎。

 スイッチを入れると、すぐに部屋はあたたかくなりました。

 浪太郎はがっくり。ファン次郎もしょんぼり。

「ぼくらの出番は、もうおしまいなのかな」


 ところがその年の五月。

 急に夏のような暑さがやってきました。

 信一郎もがんばりましたが、その暑さにはすぐには対応できません。

夏が苦手だったのです。

 部屋はじっとり、みんなぐったり。


 そのとき、冬の間じっくり休んでいたファン次郎と浪太郎が立ち上がりました。

「さあ、ぼくらの出番だ!」

 ファン次郎はくるくる風を回し、浪太郎は力強く冷たい風をおくります。

 たちまち部屋じゅうがさわやかになりました。


「やっぱり、いざというときはベテランだね」

 菊次郎の言葉に、ふたりはうれしくて胸をはりました。

 新しい仲間がいても、長い年月をがんばってきた誇りは消えません。

 こうしてファン次郎と浪太郎は、めぐる季節のなかで力をあわせ、それからも家を守りつづけるのでした。   おわり





ファン次郎と浪太郎は、派手な活躍をするわけではありません。しかし、必要なときに立ち上がり、長い時間をかけて積み重ねてきた力で家を守ります。その姿は、年齢や新旧に関係なく、それぞれに大切な役割があることを教えてくれます。新しいものが加わっても、これまでの頑張りが消えるわけではありません。季節がめぐるように、人の役目もまためぐっていきます。この物語を読み終えたあと、ふと身近な物たちに「ありがとう」と声をかけたくなっていただけたなら、これ以上の喜びはありません。

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